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出典)Pranithan Chorruangsak/GettyImages
- まとめ
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- 職場における熱中症による死傷者数が増加傾向にあり、2022年から3年連続で30人レベルとなっている。
- 重篤化して発見されたり、医療機関への搬送が遅れたりするなど、初期症状への対応の遅れが背景にある。
- 企業は、労働安全衛生規則の改正により義務化された熱中症対策(体制整備、手順作成、関係者への周知など)を講じる必要がある。
日本列島を猛暑が襲っている。
気象庁の予報によると、今年の8月、9月、10月の3か月間、全国的に気温が高い見込みだ。

出典)気象庁HP
こうしたなか、職場における熱中症による死傷者数が増加傾向にある。
熱中症とは、高温多湿な環境下において、体内の水分および塩分(ナトリウムなど)のバランスが崩れたり、循環調節や体温調節などの体内の重要な調整機能が破綻したりするなどして発症する障害の総称だ。症状として、めまい・失神、筋肉痛・筋肉の硬直、大量の発汗、頭痛・気分の不快・吐き気・嘔吐・倦怠感・虚脱感、意識障害・痙攣・手足の運動障害、高体温などが現われる。(厚労省「職場で起こる熱中症」)
熱中症による死亡者数は、2022年から3年連続、30人レベルとなっている。背景には、重篤化した状態で発見されたり、医療機関にすぐ搬送しなかったり、などの初期症状の対応の遅れがある。原因のひとつに、初期症状が軽く気づきにくいことがある。熱中症の初期は、めまい、立ちくらみ、軽い頭痛、倦怠感などの症状にとどまることから、単なる疲れや寝不足と勘違いされがちだ。「少し休めば治るだろう」と軽く考え、重症化するまで見過ごしてしまうケースが多い。

出典)厚生労働省「職場でおきる熱中症」
こうした熱中症災害の急増をうけ、厚生労働省は、労働安全衛生規則の改正をおこない、今年の6月1日からすべての企業に対して熱中症対策が義務付けられ、企業による早期対応の体制整備が求められることになった。
熱中症対策義務化の具体的な内容
まず対象となるのは、「WBGT(暑さ指数:注1)28度以上または気温31度以上の環境下で、連続1時間以上または1日4時間を超えて実施」が見込まれる作業だ。
企業に義務付けられた対策は以下のとおり。
・体制整備:熱中症の疑いがある人がいた場合の報告先や連絡先を定めること。
・手順作成:熱中症の初期対応(作業からの離脱、冷却、医療機関への搬送など)に関する手順を整備すること。
・関係者への周知:熱中症の症状や対応手順を、朝礼や掲示、メールなどで労働者に周知すること。
違反した場合には罰則もある。企業が熱中症対策を怠った場合、6ヶ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科される可能性がある。(労働安全衛生法第119条第1号)また、安全配慮義務違反として損害賠償責任を問われる可能性もあるので注意が必要だ。
企業の具体的な対策事例
多くの企業が、義務化に対応するためさまざまな対策を講じている。具体的には:
・工場室内の温度を下げる:屋根や天井などに遮熱シート、遮熱塗料を使用する。折板屋根に遮熱板を載せる。
・作業所にミストファンやスポットクーラーを設置:高温作業環境の職場に設置する。

・ファン付き作業服の支給:屋外作業をおこなう従業員に支給する。社員全員に支給する会社も出始めた。

・休憩所の設置:冷房設備のある休憩所を設置し、身体を冷やせる環境を提供する。
・暑さ指数の測定:作業場所の暑さ指数を測定し、作業時間や休憩時間を調整する。
・水分・塩分補給の推奨:水分や塩分を摂取しやすい環境を整え、摂取を推奨する。塩バナナや梅干し、茎わかめ、塩タブレットなどの塩分補助食品を従業員に提供する。なかには体を冷やすためにかき氷機を導入する会社も。

出典)株式会社ドラEVER
・体調管理:AIカメラやウェアラブル端末を活用し、従業員の体調変化をモニタリングする。富士フイルムデジタルソリューションズ株式会社は、ウェアラブルデバイスとクラウドを組み合わせて作業者の安全を見守る、「SAFEMO安全見守りクラウドサービス」の提供を開始した。作業者の心拍数と作業環境のWBGT値(暑さ指数)を監視し、熱中症発生リスクを見える化する。作業者の年齢や個別に設定した情報に基づき、しきい値を超えるとアラートで管理者に通知することも可能になっている。

熱中症対策義務化は、企業にとってコスト負担となる側面もあるが、従業員の安全と健康を守るだけでなく、従業員のエンゲージメント向上、生産性の改善、そして持続可能な企業成長に不可欠な経営戦略の一部であるといえる。労働者の安全と健康を守るために、職場環境を継続的に改善し、熱中症のリスクを軽減することがますます重要になってくるだろう。
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WBGT
湿球黒球温度:Wet Bulb Globe Temperatureは、熱中症を予防することを目的として1954年にアメリカで提案された指標。単位は気温と同じ摂氏度(℃)で示され、その値は気温とは異なる。暑さ指数(WBGT)は人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目した指標で、人体の熱収支に与える影響の大きい①湿度、②日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境、③気温の3つを取り入れた指標。(出典:環境省「熱中症予防情報サイト」)
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