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出典)Torjrtrx/GettyImages
- まとめ
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- 電力広域的運営推進機関(OCCTO)は設立10周年を迎え、日本の電力システム改革に大きく貢献してきた。
- 電力融通を「非常時」から「平時」へと変え、需給ひっ迫時には電力会社に融通を指示するなど、日本の電力運用を大きく変えた。
- 再生可能エネルギー導入と電力需要増加への対応が課題となっている。
2025年、日本の電力システムの根幹を支える「電力広域的運営推進機関(OCCTO:Organization for Cross-regional Coordination of Transmission Operators, JAPAN)」(以下、OCCTO)が、設立10周年という大きな節目を迎えた。この10年間、OCCTOは電力システム改革の要として、日本の電力供給の安定と効率化に大きく貢献してきた。東日本大震災の深刻な教訓から生まれたこの組織は、今や再生可能エネルギーの大量導入や、生成AI・データセンターによる新たな電力需要の急増という、次なる時代の要請に直面している。
OCCTOの大山力理事長に、その設立の原点、10年間の成果、そして日本の電力の未来をどう見据えているのか聞いた。
設立の原点
OCCTOはなぜ設立されたのか。その問いに、大山理事長は2011年の東日本大震災がすべての始まりだったと振り返る。
「その時に日本の電力は大丈夫かという議論になり、やはり連系線の容量が足りないことが問題となりました。自由化を進めるだけではなく、広域的な運営をおこなって安定供給に努めるべきだということが打ち出され、それを担うために我々OCCTOが生まれたのです」。
震災が浮き彫りにした、地域で分断された電力システムの問題。この教訓から、電源の広域的な活用と、全国規模での需給調整機能の強化を目的として、2015年にOCCTOは設立された。
しかし、電力の安定供給とそのコストを下げるというのは実は両立するのは難しい。その解決のために生まれたOCCTO。大山理事長は、OCCTOを
「(電力)安定供給の番人」と称した。
10年間の成果
設立からの10年間で、OCCTOは日本の電力の運用を大きく変えた。最大の功績は、地域間の電力融通を「非常時の例外」から「平時の常識」へと変えたことだ。
「需給ひっ迫時の電力融通指示はもう何百回もやっています」と大山理事長が語るように、OCCTOは全国の電力需給バランスを24時間365日監視し、緊急時には電力会社(送配電事業者)に融通を指示する。2018年の北海道胆振東部地震で大規模停電(ブラックアウト)が発生した際には、本州から北海道へ最大量の電力融通を指示し、復旧を早めた。
こうした変化は、電力会社の意識にも大きな影響を与えた。
「最初、各電力会社は足りないときには融通するけれども、各地域は各地域でやるという意識でした。今は予備力あるいは調整力を広域的に調達して必要なところから送るシステムになっています」。
各電力エリアの供給力と需要のバランスを示す「広域予備率」が発表されており、運用の安定供給の根本は広域運用である、と電力会社のマインドも変わってきているという。
各社がそれぞれ需給管理を行う体制から、全国の予備力を共有し、広域で最適化する体制へ。このマインドセットの変化こそ、OCCTOがもたらした最大の成果の一つと言えるだろう。

出典)ⓒエネフロ編集部
また、将来の安定供給を確保するための市場改革も主導してきた。2024年度から本格運用が始まった「容量市場」(注1)や、きめ細やかな需給調整を可能にする「需給調整市場」(注2)の導入は、電力自由化と安定供給を両立させるための重要なインフラとなっている。

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また、容量市場の一部として2023年度に創設した「長期脱炭素電源オークション」も、2050年までのカーボンニュートラルや電力の安定供給の実現のために重要な役割がある。発電所(電源)の新たな建設を促しながら、化石燃料を用いた電源から、水素やアンモニア、再生可能エネルギーなどのカーボンニュートラル実現のための電源に切り替えを目指すものだ。

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直面する新たな課題
大きな成果を上げてきたOCCTOだが、今、新たな課題に直面している。
ひとつは、再生可能エネルギーの大量導入だ。太陽光や風力といった変動性の高い電源を、電力系統にどう統合していくかが今後の最大の課題だと大山理事長は指摘する。
特に、北海道のような風力発電の適地と、大消費地である首都圏との間の送電網の容量不足は深刻だ。この「電力の偏在」の解消に向け、OCCTOはマスタープランを策定した。現在は北海道と本州を結ぶ新たな海底直流送電ケーブルの増強計画の策定に向けて中心的な役割を担っている。(参考記事:「北海道の電力を本州へ!海底送電線と電気運搬船の挑戦」2025.06.10)
もう一つの大きな課題が、将来的な需要の増加だ。生成AIの普及を背景にデータセンターの建設が相次ぎ、電力需要は2034年度にかけて増加に転じるとOCCTOは予測する。
「長期見通しをやっておりまして、要するに『このままじゃ危ないよ』ということをしっかり見せることによって電源投資を促すということもやっています」と大山理事長は語る。

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OCCTOは自ら発電所を建設するわけではない。しかし、客観的なデータに基づき将来のリスクを社会に警告し、必要な投資がおこなわれる環境を整える役割も担っている。
未来を支える組織へ
設立当初100人強だった職員は、今や230人を超える規模に成長した。電力会社からの出向者が中心だった組織も、今ではプロパー職員や新電力からの出向者も増え、多様な専門家が集う組織へと変貌を遂げた。
「我々の組織としては何しろ専門家集団であるという誇りを持ってしっかり動いていきたい」。
その言葉通り、OCCTOは単なる調整機関に留まらない。国のエネルギー基本計画策定にあたっては、その前提となる需要想定を提示。客観的なデータと専門的知見に基づき、「国が言ったからやるのではなく、国をこっちに仕向けるということをして、しっかり舵取りをしていければ」と、政策へ積極的に提言していく姿勢を示す。
OCCTOの10年は、電力システムの安定と改革を両輪で進めてきた歴史だった。そしてこれからの10年は、脱炭素社会の実現という、さらに困難な課題に挑むことになる。再生可能エネルギーの統合、データセンター需要への対応、激甚化する災害への備え。いずれもOCCTOの司令塔機能なくしては乗り越えられない。
最後に、大山理事長はエネルギーに関心を持つ読者へ、こうメッセージを送った。
「OCCTOは日本全体の電力の安定供給に貢献しているという自負があります。ただ、知名度がいまひとつで皆さんご存じないかもしれないので、こんな機関があることをぜひ頭の隅にも入れていただきたい」。
電力という、あって当たり前の社会インフラ。それを支えるOCCTOの次なる10年の挑戦に、期待とともに注目していきたい。
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容量市場
将来の電力供給力(kW)を確保するために、発電事業者と小売電気事業者が参加する市場。電力の取引価格の安定化を実現し、電気事業者の安定した事業運営や電気料金の安定化によって消費者にもメリットをもたらすことを目指している。(参考:電力広域的運営推進機関「容量市場について」) - 需給調整市場
電力の需要と供給のバランスを調整するために設けられた市場。電力の需給が一致しない場合に、一般送配電事業者が不足分を補ったり、余剰分を調整したりするための電力を調達する。
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