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編集長展望

Vol.45 浜岡原子力発電所廃止措置プロジェクト次世代へつなぐ日本の原子力エネルギー

写真)大型バンドソーで切断中の原子炉圧力容器の上ぶた

写真)大型バンドソーで切断中の原子炉圧力容器の上ぶた
ⓒエネフロ編集部

まとめ
  • 浜岡原子力発電所の廃止措置の取り組みは次世代へつなぐ日本の原子力エネルギーの未来を照らす重要なプロジェクト。
  • 廃止措置はほぼ予定どおり進んでいるが、解体撤去物の処理、クリアランス運用、地域理解、安全確保に課題。
  • 廃止措置の経験は後発に共有し、小型モジュール炉(SMR)など次世代技術とともに持続可能なエネルギー社会へ。

中部電力の浜岡原子力発電所1・2号機が運転を終了したのは2009年の1月31日。わが国では、運転を終了した原子力発電所は解体撤去し、その実施にあたっては、法令に基づき、あらかじめ廃止措置の計画を定め、国の認可を受けることとなっている。1・2号の廃止措置計画は、2040年代前半まで約30年間にわたり実施される。同計画では期間全体を第1段階「解体工事準備期間」から第4段階「建屋等解体撤去期間」までの4段階に区分し、段階的に進めていく。

図)浜岡原子力発電所1,2号機 廃止措置計画スケジュール
図)浜岡原子力発電所1,2号機 廃止措置計画スケジュール

出典)中部電力株式会社

浜岡原子力発電所2号機の廃止措置は、2009年から進められている。2025年3月には、国内の商業用原子力発電所で初めて原子炉の解体工事が開始された。2035年度までに原子炉の解体を終え、2042年度に建屋の解体撤去などを含めた廃止措置を完了する予定だ。作業は現在どこまで進んでいるのか。今回エネフロ編集部は、廃止措置の現場を取材するとともに、堀正義専門部長に話を聞いた。

写真)中部電力株式会社 浜岡原子力発電所 専門部長 堀正義氏
写真)中部電力株式会社 浜岡原子力発電所 専門部長 堀正義氏

Ⓒエネフロ編集部

浜岡原子力発電所 1・2号機の廃止措置の現状と課題

浜岡原子力発電所1・2号機では、廃止措置の作業は第3段階に入っている。第4段階は2036年度に開始され、完了目標は2042年度。進捗は「ほぼ予定どおり」だという。

写真)大型バンドソーで切断中の原子炉圧力容器の上ぶた
写真)大型バンドソーで切断中の原子炉圧力容器の上ぶた

提供)中部電力株式会社

2号機の原子炉の解体工事は今年の3月17日に着手、さっそく重さ約55トン、厚さ約8cmもある巨大な原子炉圧力容器の上ぶたが外された。のこぎりの刃を帯状にした、「大型バンドソー」と呼ばれる特殊な装置による切断がすでに始まっており、いくつかの「部品」となって置いてあった。タービンのケーシング(外装)などの切断も始まっており、着々と工程が進んでいる印象を受けた。

写真)大型バンドソー(中央の黒い帯)で部品を切断している様子
写真)大型バンドソー(中央の黒い帯)で部品を切断している様子
写真)大型バンドソーで切断中の原子炉圧力容器の上ぶた

ⓒエネフロ編集部

動画)発電機切断の様子

出典) 日立製作所エナジーチャンネル

これまでの廃止措置の作業で、いくつかの課題も見えてきた。まずクリアランス制度(放射能レベルが低いものを一般の廃棄物として扱える制度)の運用にあたりクリアランス品(物)の再利用に関しての課題がある。(参考:「原子力発電所の解体撤去物がアート作品に クリアランス金属が拓く可能性」2025.0204)

浜岡原子力発電所1・2号機の廃止措置で発生する解体撤去物は約45万トンにのぼり、その約8割(約35.4万トン)は、放射能を含むおそれのない部位のため、一般産業廃棄物と同様に再利用や処分が可能だ。

一方、放射能を含む残りの約2割のうち、きわめてわずかな放射能を含むものは、法令の基準(クリアランスレベル)を満たせば、「放射性物質として扱う必要がないもの」として認定される。これが「クリアランス品(物)」で、資源として再利用することができる。

放射線管理区域内にある設備の解体は2015年から始まった。堀氏は、「解体そのものは、切って運ぶという基本的なことをやるので、それほど難しいことではない」としたうえで、「その後の再利用に向けてのプロセスは、まだ道半ば」だという。

クリアランス品は法令上、広く再利用可能なものであるものの、制度に対する充分な理解が得られるまでは理解を得られた範囲でのみ、再利用しているのが現状だ。つまり、クリアランス品と認定された金属を再利用するには、受け入れ先を見つける必要があり、そのためには、電力事業者だけでなく、加工業者や、地元住民の理解と協力が不可欠なのだ。クリアランス制度の適切な運用は、廃棄物処理コストの削減や資源の有効活用につながる一方で、住民の不安を招く可能性もあるため、透明性の高い情報公開と丁寧な説明が求められる。

また、設備の解体順序や解体品の仮置き場の確保、効率的な運搬経路の整備など、計画段階での検討をおこなうことも課題だ。解体して一時保管するエリア自体が思うように確保できなかったり、そのエリアも想定以上に広い面積が必要になったりなど、さまざまな課題に直面したという。

実際、一時保管エリアには、まだクリアランスが必要な金属が大量にあり、これらをいかに効率よく処理していくかが今後の課題だ。

写真)クリアランス金属の一時保管エリア
写真)クリアランス金属の一時保管エリア

ⓒエネフロ編集部

クリアランスの次のステップとして、加工をして新しい姿に変えるプロセスがあるが、これは電力会社単独ではできない。

「製品に加工してくれる加工業者さんの協力が不可欠です。またその従業員の方々や、立地している工場の地元の方々に対しても情報公開していくことが重要だと考えます」と堀氏は話す。自治体の理解も必要だ。

また、廃止措置の作業の意義を地域住民に理解してもらうことが重要だ。浜岡原子力発電所では、地元の企業や学生との連携を通じて、廃止措置に関する理解を深める試みをおこなっている。しかし、一般の人への広報活動はまだ十分ではない。廃止措置の現場を直接見学してもらうことはなかなか難しいが、記録映像やスライドなどで積極的に情報発信していく必要性を感じていると堀氏は話す。廃止措置は、地域社会との信頼関係を築きながら進める必要がある。住民との対話や意見交換の場を設けることも、相互理解を深める上で重要だ。

そして、作業員の安全確保も重要な課題だ。放射線防護はもちろんのこと、これまでに経験のないの作業が多いため、労働安全にも気を配っているという。アスベストや鉛などの有害物質への対策も徹底している。堀氏は、「解体のフェーズ以降については、労働安全に関して初めての作業が多いのです。運転中の作業とは違うので神経を使っています」と話す。また事前の工事計画を立てる段階でも労働安全の観点でリスクアセスメントをして、この解体についてはここが危なそうなので、こういう対策を取ろうと、しっかり検討しているという。

「いい事例も、悪い事例もしっかり共有して次の廃止プラントに受け渡しをしなければいけないと思っています」(堀氏)

今後の見通し

浜岡原子力発電所の廃止措置は、日本の原子力発電所の「廃炉」における先駆的な事例となる。ここで得られた経験と教訓は、後発の廃止措置に共有していく必要がある。このため、廃止措置の経験を共有し、原子力ライフサイクル全体を見せることの重要性が議論された。廃止措置に関する技術的な情報は、今後の原子力発電所の廃止措置計画に役立つだけでなく、原子力エネルギーに対する国民の理解を深める上でも重要だとの認識を共有したという。

廃止措置は、「原子力発電設備の一生を終えるだけでなく、次世代の新しい命を生み出すための儀式であり、重要なものだ」と堀氏は強調した。電気の重要性とともに、安全にリサイクルできることを伝える必要性がある。廃止措置は単なる解体作業ではなく、資源の有効活用や環境への配慮も求められる。使用済み燃料の取り扱い、放射性廃棄物の処理、そして最終処分まで、一連のプロセス全体を管理し、公に説明する責任がある。廃棄物をいかに減らすかや、再利用技術の開発も、今後の重要な課題となるだろう。

廃止措置に携わる若手社員からは、「原子力発電所の建設から運転、そして役目を終えた設備をしっかり片付け、次につなげるためにクローズできることを世の中にしっかりと示していく必要がある」という意見も出ているという。

浜岡原子力発電所の廃止措置を成功させ、その経験を広く共有することは、日本の原子力エネルギーの未来を照らす上で大きな意味を持つだろう。次世代の原子力技術の開発や、エネルギー政策の議論にも貢献することが期待される。

小型モジュール炉(SMR)などの次世代型原子炉についても話題に上がった。原子力エネルギーの未来は、経験を踏まえ、より安全で持続可能な方向に進んでいくことが期待されている。SMRは、従来の大型原子炉に比べて安全性や柔軟性が高いとされ、次世代のエネルギー源として注目されている。堀氏は、「SMRなどの次世代型原子炉についても、廃止措置の経験を踏まえ、より安全で持続可能な方向に進んでいくことが期待される」と述べた。

取材を通じて、浜岡原子力発電所の廃止措置は、不要になった設備を単に廃棄するプロセスではなく、日本の原子力エネルギーの未来を切り開く試金石となりうる作業だと思った。これを成功裏に進めることは、原子力エネルギーに対する国民の信頼を回復し、持続可能なエネルギー政策の実現に貢献するものだ。廃止措置のプロセスで得られた知見は、今後のエネルギー戦略を策定する上で貴重な財産となる。また、廃止措置に関わる技術や人材の育成も、日本の原子力産業全体の発展にとって不可欠だと感じた一日だった。

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
・日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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