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エネルギーと環境

Vol.65 1泊CO₂15kgオフセット!サステナブルな宿泊プラン登場

写真)「Healing Gardenステイ」対象のプライムスーペリア ガーデンビュールーム

写真)「Healing Gardenステイ」対象のプライムスーペリア ガーデンビュールーム
©エネフロ編集部

まとめ
  • ホテル椿山荘東京が「Healing Gardenステイ」を開始、宿泊時のCO₂排出をカーボン・オフセットで実質ゼロに。
  • 地元食材の朝食や電動アシスト自転車の導入で、サステナブルな滞在を促進。
  • 地域の観光資源を活用した体験型ツアーや文化・経済の保全を目指す取り組みを展開。

世界最大級のオンライン旅行予約サイト、Booking.comが世界34の国と地域にわたる31,000名以上の旅行者を対象に実施した2024年版「サステナブル・トラベル」に関する調査によると、この調査によると、世界の旅行者のうち67%(日本の旅行者:42%)が「旅行中にサステナブルな取り組みを体験することで、日常生活でも、よりサステナブルな生活を意識しようと思う」と回答した。また、世界の旅行者の75%(日本の旅行者:53%)が「今後12ヶ月間に、よりサステナブルな旅行をしたい」と回答するなど、サステナブルな旅に対する関心が高まっていることがうかがえる。

サステナブル・トラベルとは

サステナブル・トラベル(またはサステナブル・ツーリズム)とは持続可能な旅を意味し、日本政府観光局は、サステナブル・ツーリズムの枠組みとして以下の3つをあげている。

1)地域の「環境」を守る・育む
2)地域の「文化」を守る・育む
3)地域の「経済」を守る・育む

これまで宿泊施設の部屋に常備されていた歯ブラシ、ヘアブラシ、カミソリなどのアメニティグッズは、最近、ビジネスホテルを中心に、「必要なものを、必要な分だけ受けとる」、いわゆる「アメニティバイキング方式」になっていることが増えている。また、ボディウォッシュやシャンプーは使い捨てのものから、詰め替え可能なボトルに変更になっている。最近では、プラスチックを再びプラスチック製品の原料として使用する「マテリアルリサイクル」への取り組みも始まっている。

そうしたなか、宿泊施設側もサステナブルな旅をより実感できるようなプランを開発し始めた。

着目したのは「宿泊することでCO₂排出削減を実感できる」、ユニークなプランだ。

CO₂ゼロSTAYとは

旅行・観光においての地球温暖化ガス排出量は世界全体の排出量のうち、8%〜11%を占めると推定されている。

そうしたなか、ホテルに宿泊することで生じたCO₂排出相当量をカーボン・オフセット(注1)できる「CO₂ゼロSTAY」を適用した宿泊プラン「Healing Gardenステイ」を開発したのは、ホテル椿山荘東京(東京・文京区)だ。2025年3月17日「みんなで考えるSDGsの日」より提供を開始した。

カーボン・オフセットは、日常生活や経済活動において排出されるCO₂などの温室効果ガスのうち削減しきれない排出量について、他の場所での削減活動で「相殺」する考え方だ。

ホテルに宿泊すると、照明や空調、食事の提供などでCO₂が発生するが、「Healing Gardenステイ」は、一人一泊当たりのCO₂排出量を15kgと設定し、その相当分を削減活動へ投資することで、実質ゼロに相殺(オフセット)する仕組みだ。宿泊客は「自分の滞在を通じて地球環境に配慮した」という満足感を得ることができる。

このプランでは部屋に備え付けの歯ブラシはないため、宿泊客は自分の歯ブラシを持参しなければならない。また連泊の場合、客室清掃・ベッドリネン交換は原則しないなど、徹底している。

朝食は、地元で生産された食材を使用した「地産地消」メニューを取り入れた。洋食では関東の野菜を使用したミネストローネを、和食では関東の地域で採れた季節の野菜を使用したサラダを取り入れて提供する。

写真)「地産地消」の朝食
写真)「地産地消」の朝食

提供)ホテル椿山荘東京

またホテル敷地内に、電動アシスト自転車のシェアリングサービス「LUUP」のポートを設置した。自動車や鉄道に比べ、移動に伴って消費するエネルギーが小さい電動アシスト自転車は、CO₂排出量削減に貢献でき、滞在中の移動手段として使うことができる。プランには、初回限定・60分ライド無料のクーポンがついている。

写真)電動アシスト自転車のシェアリングサービス「LUUP」のポート
写真)電動アシスト自転車のシェアリングサービス「LUUP」のポート

提供)椿山荘ホテル東京

本プランを利用するだけで、CO₂削減活動や地産地消に寄与することができ、サステナブルなホテル滞在を実感できるというわけだ。宿泊した人には、「オフセットSTAY証明書」も発行する。

写真)左:「MOTTAINAIキャンペーン参加感謝状」、右:オフセットSTAY証明書
写真)電動アシスト自転車のシェアリングサービス「LUUP」のポート

©エネフロ編集部

もともと、ホテル椿山荘東京は都心にありながら、森のような庭園の中に佇むホテル。約1万坪の広大な庭園には、国の登録有形文化財の三重塔や茶室、史跡があり、また春は桜、新緑、初夏は蛍、滝のしぶき、紅葉、雪景色の中の椿と、四季を感じることができる。国内最大級の霧の庭園演出「東京雲海」はよく知られている。

ホテル椿山荘東京の橋本あかね氏に今後の取り組みについて聞いた。

「サステナブル・ツーリズムもどんどん有名になってきて、やはり日本よりも海外の方が浸透していると思います。これからは地域の文京区の周りの観光資源を生かしたプランやオプションをつけた商品を開発していく余地があるのではないかと思っています」。

例えば、海外からの旅行客向けに、着物を着て近くの美術館や庭園などを訪問がてら散策したりする「体験型ミニツアー」のオプション提供を考えているという。

サステナブル・ツーリズムの枠組みのうち、「環境」だけでなく、地域の「文化」や「経済」を守り育むことにも注力していく考えだ。

写真)藤田観光株式会社 ホテル椿山荘東京 マーケティング部門 マネージャー 橋本あかね氏
写真)電動アシスト自転車のシェアリングサービス「LUUP」のポート

©エネフロ編集部

また、夜の庭園のライトアップに使う電気についても、今後は環境に配慮したものにできないか検討していると話す。

「SDGsの観点から、環境に配慮したエネルギーを使うとか、電力の消費を抑えるとか、何かできないかという話が出ています。これだけの広い庭をどうやったらコントロールできるか、みんなで知恵を絞っているところです」。

写真)霧の庭園演出「東京雲海」
写真)霧の庭園演出「東京雲海」

出典)ホテル椿山荘東京

海外旅行者の間で先行しているサステナブル・ツーリズム、その人気は今後国内旅行者の間でも広がっていきそうだ。

  1. 「Healing Gardenステイ」は、2025年3月17日から9月30日までの期間限定で提供。宿泊料金:「プライムスーペリア ガーデンビュー(45㎡)」1室2名利用時で70,100円(消費税・サービス料込・宿泊税別)から。
安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
・日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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エネルギーと環境は切っても切れない関係。持続可能な環境を実現するために、私達は「どのようなエネルギー」を「どのように使っていくべき」なのか、多面的に考える。