
写真) 出荷を待つ日本車 2025年3月27日 横浜港
出典)Tomohiro Ohsumi/Getty Images
- まとめ
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- トランプ大統領が日本からの輸入自動車に最大25%の追加関税を課すと発表。
- 日本の自動車産業は対米輸出依存度が高く、深刻な影響が懸念される。
- 自動車産業の衰退は、関連産業や電力業界を含め、日本経済全体に悪影響を及ぼす可能性がある。
アメリカのトランプ大統領は日本時間4月3日、貿易相手国の関税率や非関税障壁を踏まえて自国の関税を引き上げる「相互関税」として、日本に24%の関税を課すと発表した。なかでも、輸入される自動車に25%の追加関税を課す措置は、乗用車の現行税率2.5%が27.5%、トラックは現行税率25.0%が50.0%に上昇することを意味する。日本の輸出の約3割を占める自動車産業に深刻な影響を及ぼす可能性が高い。
日本経済と自動車産業への影響
日本からアメリカへの自動車輸出をみてみると、2024年で約138万台、総額約6兆264億円におよび、対米輸出総額の28.3%を占めている。(財務省貿易統計)関税が25%引き上げられると、米国内における自動車の小売り価格が上がり、販売台数が減少する可能性が高い。日本の自動車メーカーの利益が大幅に圧迫され、雇用や投資計画にも影響がおよぶ恐れがある。
自動車産業は資材調達・製造をはじめ販売・整備・運送など各分野にわたる広範な関連産業を持ち、直接・間接に従事する就業人口は約558万人、全就業人口の約8.3%にのぼる。(一般社団法人日本自動車工業会)
第一生命経済研究所の試算によると、国内乗用車生産の10%減少は年間の実質GDPを約5兆円押し下げ、5.4万人の雇用が失われるとしている。自動車産業への悪影響は、日本経済全体におよぶことは確実だ。
日本の自動車メーカーはどのような対策をとればいいのだろうか。
自動車メーカーのとるべき対策
日本の自動車メーカーが、関税引き上げに対応するために取り得る対策はいくつか考えられる。
・価格転嫁
関税によるコスト増加を販売価格に反映させることで、利益を確保する選択肢だが、値上げはアメリカ市場での競争力を低下させるリスクを伴う。すでにトヨタ自動車はアメリカでの販売価格を当面維持する方向で検討していると複数のメディアが報じている。いずれ、関税による値上げ分を原価低減や仕様の見直しなどで吸収することを余儀なくされるかもしれない。
・現地生産の拡大
日本の自動車メーカーは、日米自動車摩擦を回避するため、1980年代初頭からアメリカで現地生産を増やしてきた。すでに年間約330万台を生産し、多くの従業員を雇用してアメリカ経済に大きく貢献しているが、今回の関税引き上げを見る限り、その点は全く考慮されていないようだ。
関税を回避するためには、アメリカ国内での生産を増やすことが有力な対策となる。早速、日産自動車が多目的スポーツ車(SUV)「ローグ(日本名エクストレイル)」の国内生産の一部を米国に移管する方向で検討していると報じられたが、他社の同様な動きはまだない。
アメリカの工場で現在生産している車種を増産するにも、新たな車種の生産を開始するにも巨額の設備投資が必要になる。また、それは国内工場の空洞化を招くので、おいそれと決断できない。
さらに部品の調達も同時に考えねばならない。日本メーカーはカナダ、メキシコに部品製造拠点を持ちアメリカに輸出しているが、それにも関税がかかる。(自動車と自動車部品の関税は免除するとの情報もある)それらの拠点を北米に移転させるにはこれまた投資に金がかかる。代わりのアメリカ部品メーカーを探すにしても、一朝一夕にはいかない。
・競争力の向上
最後に、日本の自動車メーカーがEVや自動運転技術など、新分野で競争力を強化し、関税の影響を少なくする取り組みも考えられる。しかし、この分野ではBYDなど中国勢の台頭が著しく、日本メーカーが優位性を確保するのは難しいとの見方がある。
こうしたなか日本総合研究所調査部の後藤俊平研究員に、日本の自動車メーカーの戦略が今後どうなるかを聞いた。後藤氏は、「当面、様子をみるしかない」と話す。
「各国に課せられた関税率も、外交交渉によって今後変わる可能性が高い。そもそも25%の関税が下がるかもしれないし、何年続くかもわからない。アメリカ国内の自動車需要の行方も見定めなくてはならない。カナダやメキシコで生産している部品などの扱いも難しい。アメリカの工場で増産するにしろ、調達先をアメリカのメーカーに変更するにしろ、不確定要素が多い。現段階で、日本の自動車メーカーが生産拠点の移転など、巨額の投資が必要な経営決断をする段階にはない」とし、しばらくは政府間交渉の行方を見守ることになるとの考えを示した。

出典)日本総合研究所
自動車産業以外への影響
自動車への関税引き上げは、自動車産業以外にも当然、間接的な影響を与える可能性がある。
例えば、エネルギー産業に着目すると、自動車産業の生産が減少すれば、工場での電力消費が減り、電力会社の収益に影響を及ぼすことが考えられる。また、前述したとおり、雇用への影響はもちろん、地方経済の停滞も避けられず、日本経済全体の減速を招くことになると言える。
以上見てきたように、トランプ大統領の対日関税引き上げは、自動車産業をはじめ日本経済に深刻な打撃を与える可能性がある。先行きが見通せない中で、日本はあらゆる対策を講じる必要がある。聖域を排し、官民が協調して対応することが必要だ。
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