
写真)名古屋市内で定期運行する車両
提供)あいち自動運転シャトル
- まとめ
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- 全国で自動運転の実証が進む中、愛知県、名古屋駅周辺で自動運転レベル4に向けた実証実験がおこなわれた。
- 全国初、交通量の多い都市部幹線道路での自動運転車両の定期運行に挑戦。
- 技術・運用面の課題を抽出し、レベル4社会実装へのステップアップを目指す。
自動運転はいまや身近になってきた。これまでも何回か取り上げてきたが、レベル2を搭載した車はかなり増えている。(加速する自動運転 日本の現状は?2024.04.09)
レベル2とは、「特定条件下での自動運転機能」で、部分的に運転が自動化された車両だ。アクセルとブレーキ操作による加速や減速の制御と、ハンドル操作による左右の制御の両方をシステムが担う。しかし、運転の主体はドライバーで、システムはあくまで運転支援にとどまる。日本でも各メーカーがレベル2の高度運転支援システム搭載のモデルを販売しており、そのシェアは年々増えている。

出典)国土交通省
公道における自動運転定期運行
政府は「デジタル田園都市国家構想総合戦略」において、2025年に50箇所程度、2027年に100箇所以上での自動運転サービスの導入を目標として掲げている。
そうした流れを受け、公道におけるレベル4(完全自動運転、特定の条件下でドライバー不要)の自動運転定期運行が商用化されるケースが出始めた。
日本初のレベル4自動運転システムが承認されたのが福井県永平寺町の「ZEN drive」。永平寺参道の約2km区間で7人乗りの自動運転車両が2022年5月から観光客向けに土日祝日を中心に運行中だ。(参考:自動運転社会目前 日本はタクシー/トラック、どっちが先?2023.11.28)

そして2024年2月には、茨城県常陸太田市で自動運転「レベル4」対応の新型EVバス「EVO」が定常運行を開始した。特定環境下において完全無人運転「レベル4」対応の新型シャトルバス。実際の走行は当面の間「レベル2」でおこなう。運行速度は時速18km。乗車人数は10人で、オペレーターが1人乗車する。ソシオークグループの株式会社みつばコミュニティがオペレーター業務と遠隔監視業務を担っている。
自動運転EVバス「EVO」愛称:「じょっピー」

そのほかの都市でもレベル4の実証実験が活発におこなわれている。長野県塩尻市は2025年1月から2月にかけて、歩行者と一般車両が混在する環境下の一般道において、車両最大時速35kmでの走行によるレベル4の実証実験をおこなった。世界初のオープンソースの自動運転ソフトウェア「Autoware」の開発を主導するディープテック企業である、TIER IV(ティアフォー)製の自動運行装置「AIパイロット」を採用している。
東京都でも、ティアフォーとトヨタ自動車による自動運転「レベル4」のサービス実証がおこなわれているベイエリアと西新宿を推進区域として、2027年度末までにレベル4の社会実装を目指す。
また、高速道路での実証も進んでいる。新東名高速道路では、2025年3月から、国土交通省道路局、国土技術政策総合研究所および中日本高速道路株式会社は、駿河湾沼津SA~浜松SA間(約100km)の専用レーンで、ドライバーなしのトラックのレベル4実証実験をおこなっている。2026年度の社会実装を目指す。
中部地区の自動運転実証
自動運転実証は愛知県でも始まっている。名古屋駅付近(総合校舎スパイラルタワーズ)と、10月31日にグランドオープンした日本最大級のオープンイノベーション拠点STATION Aiを結ぶ自動運転車両の定期運行を、2024年11月7日から2025年3月19日まで実施した。事業主体は、株式会社NTTドコモを幹事会社とする7社。
使用車両は、ミニバン「シエナ(トヨタ自動車)」をベースとしたハイブリッド車。最高速度は、実勢速度に合わせて48km/hに設定した。
交通量の多い都市部における幹線道路の車速に沿った自動運転車両による定期運行は全国初の取り組みだ。レベル2での定期運行をおこないながら、自動運転レベル4に向けて都市部での自動走行や乗車体験について検証した。
県によると、実証では2つのポイントに留意した結果、以下の成果があった。
① 自動運転技術
自動運転率は約90%(手動運転設定区間を除く)、信号認識率は99.9%だった。実証などを通じて明らかとなった課題に対して、適合するための開発を運行と並行して進め、随時運行に反映することで自動運転技術が向上した。
② オペレーション
将来の車内乗務員無人による運行を想定し、乗客に対してセーフティドライバーに話しかけないようルールを設定した。その上でなお発生する問い合わせの内容や頻度を検証し、オペレーション面での課題抽出を進めた。

出典)愛知県
実証の実績と評価
11月7日の運行開始から2月末時点の利用実績(関係者試乗を除く)は、乗車人数1,166名で、各年代がまんべんなく乗車した。性別は約80%が男性で、県内の人の利用が約70%。乗車満足度は約95%がポジティブで、ネガティブな反応は5%程度と、おおむね好評だった。
■ 年代
20代未満 約20%
30代 約25%
40代 約25%
50代 約20%
60代以上 約10%
■ 性別
男性 約80%
女性 約20%
■ 居住地
県内 約70%
県外 約30%
■ 乗車満足度
とても良い 約33%
良い 約32%
普通 約29%
悪い 約5%
とても悪い 約1%
実証で得られた知見と課題
愛知県経済産業局 産業部産業振興課 次世代産業室 デジタル戦略調整グループに実証の成果について聞いた。
「自動運転の取り組みは、自動車産業の振興のみならず高齢者などの移動支援をはじめとする各種の地域課題解決などさまざまな意義があると考えている。とりわけ、産業振興に係る意義としては、自動運転ではソフトウェアや半導体、センサーの重要性が高まり、これまでの自動車産業の構造を大きく変容させる可能性がある。また、情報通信、交通事業など関連産業への波及も大きいと考えられる。このため、自動運転が普及する社会を見据え、関連する企業などの参加を促し、自動運転社会の到来に備えた産業構造を形成していく必要があると考えている。
愛知県では複数の自動運転の取組を実施しており、名古屋市内においては将来的な民間事業者によるロボットタクシーの実用化に向けた素地づくりをおこなっている。
各社に共通していて、個社では解決のハードルが高い部分を協調領域として位置付け、先行的に県が実証を進めることで課題の抽出と対応をおこない、競争領域として民間事業がスムーズに展開されることを期待している。
交通量の多い駅前市街地、幹線道路などの走行難易度が高いルートに挑戦することを通じて、現行のルールや走行環境とのミスマッチも明らかになってきている。ステークホルダーとの調整を丁寧におこなうことで、解決策を見出し、地域としての自動運転に対する受容性が徐々に向上してきている」。
レベル4の実用化に向けての今後の展開については「最終的には民間事業者によるレベル4のロボットタクシー事業が展開されると考えているが、そのために必要なステップアップとして、県事業における運行エリアを面的に拡大することでサービス提供へのニーズを探っていく」としている。
以上、見てきたように全国各地で自動運転の実証は着実に成果を上げつつある。レベル4の商用化が近づいているのを感じる。この分野では中国や米国が一歩先んじているが、日本もそう遠くない将来、追いつく可能性がありそうだ。
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