
写真)Caputura社のDOC(直接海洋回収技術)設備
出典)CAPUTURA
- まとめ
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- 海水からCO₂を直接回収する革新的な技術がDOC(直接海洋回収技術)。大気から回収するより効率的。
- 日本でも浮体式洋上発電設備上で、海中と大気両方からCO₂を回収する技術開発がおこなわれている。
- DOCはまだ開発段階であり、すでに商用化が始まっているDAC(直接空気回収)とコストを比較することが課題となる。
これまで大気から直接CO₂を分離・回収する技術、DAC(Direct Air Capture、直接空気回収技術)を何回か取り上げてきた。
(Vol.77 大気からCO₂を回収する世界最大級の施設アイスランドに その名も「マンモス」 2024.06.25、エネルギーと環境 Vol.27 CO₂を大気中から回収!?驚きの新技術 2021.06.15)
過去の記事で紹介したとおり、すでにスイスの新興企業「クライムワークス(Climeworks)」が去年、アイスランドで世界最大級のDAC施設「マンモス(Mammoth)」の操業を開始した。また、アメリカ、ノルウェー、ケニア、カナダの各国で開発・実証が進んでいる。
一方、DACには弱点がある。CO₂回収効率が低いことだ。なぜなら、大気中のCO₂濃度は約0.04%しかないからだ。
こうしたなか、海水からCO₂を回収する技術が注目されている。
海洋と大気は常にCO₂を交換している。海水はCO₂を吸収したり放出したりすることで、大気中のCO₂濃度とバランスを保とうとしているのだ。その量は、1990〜2023年の平均で1年あたり21±9億トン炭素(±は90%の信頼区間)(注:トン炭素=炭素の重さに換算したCO₂の量)にのぼり、数年から10年程度の規模で変動しながら、全体として増加している。

単位は、二酸化炭素吸収量を炭素の重さに換算した値、「億トン炭素」であらわしています。
上図は月積算値を、下図は年積算値を示したもので、図中の点線は、1990~2023年の平均:21億トン炭素/年をあらわします。
解析範囲は、海洋の二酸化炭素吸収の見積もり方法を参照。
なお、掲載しているデータは、解析に使用するデータの更新およびそれに伴う再計算のため、過去に遡って修正されます。
使用データなどの詳細については、海洋の二酸化炭素吸収の見積もり方法をご覧ください。
出典)気象庁
海洋が蓄積しているCO₂の量の数値はいろいろあるが、気象庁は、大気中に存在するCO₂の約50倍もの炭素を海洋が蓄えていると試算している。理論上は海水からのCO₂回収の方が大気中から回収するより効率的だ。
海洋からCO₂を吸収する技術
海洋からCO₂を回収する技術は、DOC(Direct Ocean Capture:DOC、直接海洋回収技術)と呼ばれる。
DOCはまだ開発初期段階で、以下は開発に取り組んでいる主な企業だ。
Brineworks(ブラインワークス) オランダのスタートアップ
Captura(キャプチュラ) カリフォルニア工科大学のスピンオフ
SeaO2(シーオーツー) 蘭デルフト大学のスピンアウト
Ebb Carbon(エブ・カーボン) GoogleXの元研究者が創設
DOCは、 電気分解や電気透析を利用して海水のpHを変化させ、CO₂を気体として放出させる。こうした電気化学的手法には、電解法と電気透析法がある。
手法 | 電解法 | 電気透析法 |
---|---|---|
原理 | 電解により海水中のCO₂を回収。水素を副産物として生成。 | イオン交換膜を使って海水中のCO₂を回収。 |
利点 | 高いCO₂除去効率と水素生成の二重メリット。水素はエネルギー源としても利用可能。 | 高いCO2除去効率と精度。プロセスが比較的簡単で自動化が容易。 |
課題 | 塩素ガスが発生する。通常は逆浸透膜で真水にするがコストがかさむので最近はMn電極などが研究されている。 | 電解法に比べるとオペレーションコスト(電気エネルギー)は半分から3分の1。ただしイオン交換膜(とくにバイポーラ膜)が高価で生産量も少ないというデメリットがある。 |
出典)エネフロ編集部作成
日本でも、国立研究開発法人海洋研究開発機構の吉田弘グループリーダーが海水からCO₂を回収するシステムを開発した。ユニークなのは浮体式洋上発電設備上で、海中と大気両方からCO₂を回収するアイデアだ。
風力発電の余剰電力を使うことで運用中のCO₂排出量をゼロにする。また、システム周辺の海洋酸性化緩和により養殖漁業へも貢献する。回収したCO₂は液化または固形化し、船舶による自動回収を目指す。

出典)第6回 グリーンイノベーション戦略推進会議ワーキンググループ(METI/経済産業省)
資料3-6 海のカーボンニュートラル新技術開発
今後の見通し
すでに述べたように、DOCは海水中のCO₂濃度が大気中よりも高いため、理論上は回収に必要なエネルギーが少なくなると考えられるため、コスト面で有利となる可能性がある。しかし、DOCはまだ開発段階であり、すでに商用化が始まっているDACとコスト比較が難しい。
DOCとDACのコスト比較は、今後の技術開発や実証実験の進展によって大きく変わる可能性がある。今後は、特に日本における技術開発に注目していきたい。
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