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テクノロジーが拓く未来の暮らし

Vol.95 EVインフラの最適解:走行中ワイヤレス給電はピンポイント設置でOK

写真)高速道路のワイヤレス充電レーンを走行する電気自動車(イメージ)

写真)高速道路のワイヤレス充電レーンを走行する電気自動車(イメージ)
出典)Chesky_W/GettyImages

まとめ
  • 走行中ワイヤレス給電(DWPT)は、高速道路の10%以内に設置すればEVの95%以上の移動をカバーできることが判明。
  • DWPTは、充電ステーションの不足問題を解決する。
  • さらに、EVの普及を加速させ、脱炭素社会の実現にも貢献する。

EV普及のネックとなっているのが充電問題だ。現在のバッテリーは充電に時間がかかる。その上、充電ステーションが不足しているため、EVオーナーは絶えず電欠を心配しなければならない。

その問題を解決するのが、「走行中無線(ワイヤレス)給電技術:DWPT(Dynamic Wireless Power Transfer)」だ。(以下、DWPT)道路に埋め込まれたコイルから走行中のEVのバッテリーに給電するので、いちいち充電ステーションに行く手間が省けるのだ。

この技術は日進月歩であり、以前の記事でも紹介したとおり、イスラエルの「Electreon : エレクトレオン社」は去年5月、DWPTの実験をおこない、軽EV並みの小型電池で約2,000kmの連続走行に成功した。これは、DWPTの距離および時間の世界新記録である(当時)。(EV走行中無線給電で世界記録 連続2,000km走破 2023.07.04)

DWPTのメリットは、充電の手間が省けるという利便性だけではない。走行中の充電が可能になれば、大容量バッテリーが不要となる。したがって、EVに搭載するバッテリーのサイズが小型になれば、製造コストが下がるだけでなく、貴金属などの材料の資料量が削減でき、製造時のCO₂排出量も減る。環境面でも大きなメリットがあるのだ。

DWPTの課題と解決策

現時点で考えうるDWPTの課題は、設備に係るコストだろう。高効率な送受信コイルや制御回路など、高価な部品を使うため、システム全体の費用が高額になる。また、大規模なDWPTシステムを構築する場合、インフラ整備に多大な費用がかかることが懸念されている。

しかし今回、そんなコスト面の不安を払拭する研究結果が発表された。

DWPT敷設、高速の1割以下で充分

東京大学生産技術研究所准教授の本間裕大氏研究グループによると、実際に敷設工事が必要になる距離は、高速道路では車線の7〜10%程度にとどまるというのだ。一般道ではさらに短距離で済むという。すなわち、道路一面にまんべんなく設備を敷き詰める必要はないのだ。

同研究グループはまず、日本の高速道路におけるWPTSの最適配置を、数理最適化手法および詳細な地理情報データに基づき厳密に導き出した。その結果、新東名・名神および東北自動車道での検証のいずれでも、片道あたりわずか50kmに敷設するだけで95%以上の移動がカバーできる結果が得られた。(バッテリーの容量は40kWhと想定)インフラとしてのDWPTの高い経済性と実用性が証明されたのだ。同時に、社会全体でのEVの普及率が30%程度になれば、十分に採算が見込めるとした。

図)需要の95%をまかなう走行中ワイヤレス給電の最適配置例
図)需要の95%をまかなう走行中ワイヤレス給電の最適配置例

出典)東京大学 生産技術研究所 准教授 本間 裕大 プレスリリース

さらに興味深いのは、WPTSの配置に高い自由度があることを世界で初めて示し、充電するタイミングと空間を制御することによって、再生可能エネルギーなどの有効利用にも貢献できることを提言していることだ。

具体的には下図のように、高速道路上のDWPTの配置を変えても全く同じ社会的性能を実現できることが判明したという。例えば、日中多くのEVが走行している場所に給電コイルを設置すれば、太陽光発電による余剰電力を有効利用でき、また、風力発電が設置されている地域であれば電力供給の地産地消に貢献できるものと考えられる。さまざまなパターンを考えることで、再生可能エネルギーの導入拡大を社会インフラ全体で戦略的に考えることができるようになるのだ。

図)走行中ワイヤレス給電・最適配置の自由度がもたらすスマートエネルギー戦略への貢献
図)走行中ワイヤレス給電・最適配置の自由度がもたらすスマートエネルギー戦略への貢献

出典)東京大学 生産技術研究所 准教授 本間 裕大 プレスリリース

今後の課題

多くの可能性を秘めたDWPTだが、商業トラックのように超長距離を走る車の充電をどうするかという問題が残る。超長距離走行の車までカバーしようとするとDWPT設置コストが上がるため、サービスエリアなどの充電ステーションの併用などを検討する必要があり、さらなる検証が必要だ。

また、市街地も含めた日本全国の道路網にDWPTを普及させることによる社会的メリットの検証も必要だ。こちらも、DWPT設置のコストを鑑みながら、ベストな解を導き出す必要がある。

本間氏の研究グループは、充電の心配なくEVで日本中を移動できる未来のモビリティ社会像を実現するため、EVインフラのベストミックス戦略を今後も提言していくとしている。

世界でEVの普及が鈍化している最大の理由は、充電インフラ不足とバッテリーが高コストであることだ。この2つを解消する可能性のあるDWPTは今後ますます注目を集めるだろう。日本はEVの普及が遅れているが、DWPTが実用化できれば、EV普及を後押しできる可能性がある。それは、脱炭素への道筋を加速させることにつながる。今後の研究の成果に期待したい。

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
・日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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