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テクノロジーが拓く未来の暮らし

Vol.92 産業の脱炭素化を加速!アンモニア混焼ボイラの挑戦「テクノフェア2024」その1

写真)アンモニア燃焼試験設備(アンモニア混焼小型貫流ボイラの開発)

写真)西アンモニア燃焼試験設備(アンモニア混焼小型貫流ボイラの開発)
© エネフロ編集部

まとめ
  • ガス混焼小型貫流ボイラでアンモニアを混焼し、CO₂を削減する開発が進行中。
  • 浮体式洋上風力発電では、風車の軸が垂直になっている「浮遊軸型風車」が開発中、コストダウンと国産化率アップが期待されている。
  • 廃止措置中の浜岡原子力発電所から出るクリアランス金属を再利用する取り組みが進められている。

電力会社と関連協力企業や研究機関、大学などによる研究成果を公開する「テクノフェア2024」(主催:中部電力株式会社技術開発本部)が今年も開催された。

アンモニア混焼小型貫流ボイラ

2050年カーボンニュートラル達成に向け、産業部門の熱エネルギーの脱炭素化は待ったなしだ。熱エネルギーの多くは、製造プロセスで利用されており、それらは燃料の燃焼によって得られる。

そうしたなか、多くのCO₂を排出しているのが産業用ボイラだ。産業用ボイラとは、蒸気や熱水を発生させるための装置で、発生させた蒸気や熱水は、さまざまな用途に利用される。その燃料は主に重油やガスであり、燃焼時にCO₂を排出しない水素やアンモニアなどへの転換が求められている。

アンモニアは燃焼してもCO₂を排出しないため、化石燃料に比べて環境負荷が低い。また、既存の燃料輸送・貯蔵インフラを活用できるというメリットもある。

今回、取材したのは、「アンモニア混焼小型貫流ボイラ」というもの。燃料となる都市ガスにアンモニアを混焼することで、アンモニアの燃焼性の低さを補い、安定した燃焼を目指している。中部電力株式会社(以下、中部電力)が小型貫流ボイラのトップメーカーである三浦工業株式会社と共同で開発を進めている。貫流ボイラとは、産業用ボイラの代表的なもののひとつで、水が一方向に流れながら蒸気となる構造を持つ。水がボイラの中を一度だけ通過するため、熱交換効率が高く、燃料を効率的に利用することができるほか、負荷変動に対して迅速に対応でき、蒸気量の調整が容易だという特徴がある。

一方で、アンモニア混焼小型貫流ボイラは、アンモニアの燃焼性が低いことに加え、燃焼時にNOx(窒素酸化物)や、N₂O(亜酸化窒素)、残留アンモニアなどが発生することから、これらの抑制が今後の課題となる。

アンモニア混焼小型貫流ボイラは、脱炭素化社会の実現に向けて、今後注目を集めると思われる。技術開発が進み、コストが低下すれば、より多くの産業分野で導入されることが期待される。

浮体式洋上風力発電

政府は、再生可能エネルギーの導入促進を政策目標の一つとして掲げ、特に洋上風力発電に力を入れており、2020年に策定した「洋上風力産業ビジョン(第1次)」では、2030年までに1,000万kW、2040年までに浮体式も含む3,000万kW~4,500万kWの案件を形成する、としている。

一方、この目標を達成するために、日本は水深約50m程度まで建設が可能な「着床式」に加え、より深い海域でも導入できる「浮体式」に期待がかかる。日本近海は欧州と違って遠浅の海域が少なく、水深が深い海域が多く存在するため、浮体式が適しているという事情がある。

中部電力は、東京電力リニューアブルパワー株式会社を幹事会社とした、電力会社と技術開発メーカーで構成された協議会(注1)に参加し、浮体式洋上風力発電システムにおいて共通課題となる高電圧ダイナミックケーブル(注2)、浮体式洋上変電所/変換所等を対象に、機器本体のコストや設置・運用コストの低減を目標として取り組んでいる。

開発するケーブルには、波や潮流など過酷な海洋環境への耐久性が求められる。また、大規模な「浮体式洋上変電所/変換所」などの開発も重要だ。

図)「低コスト浮体式洋上風力発電システムの共通要素技術開発」事業で対象とする要素技術分野
図)「低コスト浮体式洋上風力発電システムの共通要素技術開発」事業で対象とする要素技術分野

出典)中部電力株式会社

写真)浮体式洋上風力発電装置の実験設備
写真)浮体式洋上風力発電装置の実験設備

©エネフロ編集部

風車というとプロペラが回っているイメージだが、まったく新しい形の次世代風車も開発中だ。

浮遊軸型風車(FAWT:Floating Axis Wind Turbine)」(以下、FAWT)と呼ばれるもので、従来の水平軸型風車とは異なり、風車の軸が垂直になっているタイプの浮体式洋上風力発電システムだ。電源開発株式会社、東京電力ホールディングス株式会社、中部電力株式会社、川崎汽船株式会社、株式会社アルバトロス・テクノロジーが、共同で研究開発している。

図)浮遊軸型風車のウインドファームのイメージ(提供元:株式会社アルバトロス・テクノロジー)
図)浮遊軸型風車のウインドファームのイメージ(提供元:株式会社アルバトロス・テクノロジー)

中部電力株式会社

動画)Floating Axis Wind Turbine (FAWT, ファウト), 次世代のための浮体式洋上風力発電

提供:アルバトロス・テクノロジー

FAWTは、浮体と風車が一体となって回転するのが特徴で、水平軸型風車に対し、設備費は半分以下、かつ保守・運転維持費も大幅な軽減が見込まれているという。傾斜しても発電効率が下がらないのが特徴だ。

写真)浮遊軸型風車(FAWT)の模型
写真)浮遊軸型風車(FAWT)の模型

© エネフロ編集部

写真)浮遊軸型風車の円筒浮体部分
写真)浮遊軸型風車の円筒浮体部分

© エネフロ編集部

さらに、風車ブレードは、同一断面形状で長さ方向に分割製造が可能なため、大規模な製造工場が不要で、輸送も容易となるため、日本国内での製造に適している。また、風車部分に使用するカーボン複合材の原材料である炭素繊維のシェアは、日系企業が8割ほどを占めているなど、高い国産化率が見込まれる。

今後は、動力取出部やカーボン複合材(CFRP)製の風車の開発に取り組み、小型機の海上実証試験による検証を経て、大型実証機、商用機の設計・製作へと進む予定だ。低コスト化および国産化率向上が期待できる次世代風車として大いに期待したい。

クリアランス物の再利用

中部電力浜岡原子力発電所1、2号機は、現在廃止措置中で、解体工事がおこなわれている。その過程で、多種多様な解体撤去物が大量に発生している。廃止措置で発生する解体撤去物は45万トンにのぼる。その約8割(約35万トン)は、放射能を含むおそれのない部位のため一般産業廃棄物と同様に再利用や処分が可能である。一方、放射能を含む残りの約2割(約10万トン)のうち、

きわめてわずかな放射能を含むもので法令の基準(クリアランスレベル)(注3)を満たせば、「放射性物質として扱う必要がないもの」として認定される。国の認定を受けたものを「クリアランス物」と呼び、資源として再利用することができる。認定を受ける法令手続きを「クリアランス制度」という。クリアランス対象物は約8万トンあると想定している。

その過程で問題となってくるのが、放射能測定評価方法だ。原子力規制委員会の認可が得られている現行の放射能の測定評価方法では、解体物を同一形状に切断して、放射能測定用の容器へ均一に収納する必要がある。しかし、その測定評価方法だと収納に伴う作業に手間がかかり、コスト高になるおそれがあることから、現在、収納時の解体撤去物が容器内で偏在しても放射能が測定できる方法を開発している。これにより、一度の取り扱いで「大量に」「正確に」「迅速に」測定・評価することができる。

写真)浜岡1,2号機の解体撤去物(国の確認を得たクリアランス物)
写真)浜岡1,2号機の解体撤去物(国の確認を得たクリアランス物)

© エネフロ編集部

クリアランスした金属の一部は、浜岡原子力発電所構内の側溝用蓋(グレーチング)として再利用されている。

写真)解体撤去物を再生利用したグレーチング
写真)解体撤去物を再生利用したグレーチング

© エネフロ編集部

写真)クリアランス物を再利用したグレーチング
写真)クリアランス物を再利用したグレーチング

出典)中部電力株式会社

クリアランス物の再利用は、原子力発電所の廃炉を進める上で重要な取り組みの一つだ。今後、より多くのクリアランス物が再利用されることで、廃棄物問題の解決と資源の有効活用が期待されている。

(テクノフェア 2につづく)

  1. 東京電力リニューアブルパワー株式会社(幹事会社)、東北電力株式会社、北陸電力株式会社、電源開発株式会社、中部電力株式会社、関西電力株式会社、四国電力株式会社、九電みらいエナジー株式会社、住友電気工業株式会社、古河電気工業株式会社、東芝エネルギーシステムズ株式会社、三菱電機株式会社の計12社は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公募した「グリーンイノベーション基金事業/洋上風力発電の低コスト化プロジェクト」の洋上風力関連電気システム技術開発事業に、「低コスト浮体式洋上風力発電システムの共通要素技術開発」を2022年に共同で提案し、採択された。
    図)「低コスト浮体式洋上風力発電システムの共通要素技術開発」事業の開発体制
    図)「低コスト浮体式洋上風力発電システムの共通要素技術開発」事業の開発体制

    出典)中部電力株式会社

  2. 高電圧ダイナミックケーブル
    波・風により動揺する浮体の動きに合わせて追随する電力ケーブル。水中部のケーブルの一部に中間ブイ(浮き)を設けることでケーブルが山なりの形状となり、この部分の形状変化が浮体動揺によるケーブルへの影響を軽減する。
  3. 「クリアランスレベル」
    放射能レベルがきわめて低く、人の健康に対する影響を無視できるレベル(年間0.01ミリシーベルト)であるものを指す。そのレベルは、自然界の放射線から受ける放射線量(日本平均で年間約2.1ミリシーベルト)の100分の1以下に相当する。
安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
・日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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