図)HD Hydoro実証機の概念図 イギリス プリマス近郊コーンウッド
出典)RheEnergise
- まとめ
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- 揚水発電は脱炭素型の調整力として重要な電源。
- イギリスの会社が、水より高密度の液体を使った揚水発電システムを開発。
- 新たなテクノロジーの登場で、揚水発電が改めて見直されるかもしれない。
水力発電は、日本では明治時代からおこなわれている再生可能エネルギーのひとつで太陽光発電や風力発電と比べ気象条件に左右にくく、安定して発電ができる「ベースロード電源」と位置付けられている。また、燃料費がかからず発電コストが安価な点もメリットといえる。
水力発電による年間電力量は、近年800〜900億kWh付近で推移し、全電源の発電電力量(kWh)のうち8%程度を占めている。
出典)日本原子力文化財団
昨今のカーボンニュートラルの動きから、水力発電の価値が改めて見直され、水力発電利活用の機運が国際的に高まっている。
その水力発電の中でも、注目されているのが「揚水発電」だ。
揚水発電とは
揚水発電とは、電気エネルギーを用いて高所の貯水池(上池)に水をくみ上げ、必要な時に流下させることで発電をおこなう方式。蓄電機能や需給調整機能などを有している。
出典)経済産業省資源エネルギー庁電力基盤整備課「2050年カーボンニュートラル達成に向けた水力発電活用拡大の方向性ver.1.0」
再生可能エネルギーが必要以上に発電して余った電気を使って水をくみ上げておき、電気が足りなくなったらその水で発電する場合、揚水発電はいわば「蓄電池」の役割を果たしていることになる。
また揚水発電は、電力需要が低い時間に水をくみあげ、需要ピーク時に稼働して電気を提供する役割も持つ。こちらは、「需給を調整」していることになる。
2022年3月に東京エリアの電力需給がひっ迫したとき、地震で停止した火力発電所に代わり電力を供給し、東京電力管内の停電を回避した発電所として注目された。また、太陽光発電等の導入等が進んでいる地域においては、昼間に需要分を超えて発電した場合に水をくみ上げ、太陽光発電の出力が落ちる夕方以降に水を流下して発電をおこなっている。揚水発電は、安定供給を確保しながら再生可能エネルギーの導入を拡大していくために重要な電源だ。(参考:資源エネルギー庁「2050年カーボンニュートラル達成に向けた水力発電活用拡大の方向性 ver1.0」)
海外では、この揚水発電に新しいテクノロジーが登場した。
イギリスの長期水力エネルギー貯蔵システム開発企業、RheEnergiseが、開発した高密度水力貯蔵システム、「HD Hydro」がそれだ。
「HD Hydro」の仕組み
このシステムの特徴は、水の代わりに、高密度の流体「R-19™」を用いるところだ。密度は水の2.5倍になるという。RheEnergiseは、流体の成分を明らかにしていない。
高密度流体を揚水発電に使うメリットは:
・より少ない体積で多くのエネルギーを貯蔵できる。
・よりコンパクトなシステムで発電が可能となるため、設置場所の制約が少なく、環境負荷を低減できる。
・建設コストを抑えることができる。
・エネルギー変換効率が高く、より少ないエネルギーロスで発電できる。
などが挙げられる。
特にこのシステムは、従来の揚水発電に比べ垂直高度が約2.5分の1(約40%)で済むので、山ではなく小高い丘に設置できる点が大きい。従来設置不可能と思われていた場所にも揚水発電所が建設できるかもしれない。
出典)RheEnergise
「HD Hydro」実証開始
RheEnergiseは、工業用鉱物の採掘、加工、販売をおこなうグローバル企業のSibelcoと協力し、実証機をイングランド南西部のプリマス近郊のコーンウッドにあるSibelcoの採掘現場に建設、今年9月以降に試運転を開始する予定だ。
RheEnergise のスティーブン・クロッシャーCEOは、「当社の技術にはオーストラリアやチリなど世界中から関心が寄せられている。2年以内に最初の10MWグリッド規模のプロジェクトを稼働させたい」と意気込む。
揚水発電については、2023年2月に閣議決定された「GX実現に向けた基本方針~今後10年を見据えたロードマップ~」でも、蓄電池と並ぶ「脱炭素型」の調整力として維持・強化を進めることが明記されている。
HD Hydroはまだ実証段階であり、コストや耐久性などの課題が残されているが、新たなテクノロジーの登場で、揚水発電の可能性が広がることを期待したい。
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