写真)GMクルーズの自動運転タクシー
出典)Smith Collection/Gado/Getty Images
- まとめ
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- 「ジャパンモビリティショー2023」で、ホンダとGMの自動運転タクシー用車両が公開。
- 海外では自動運転タクシーの商用化が進むも、事故も起きている。
- 日本では商用車の自動運転の開発が進む。
かつて「東京モーターショー」の名で親しまれてきた自動車の国際的見本市。これまで2年に1回開催されてきたが、今年から「ジャパンモビリティショー2023」(日本自動車工業会:JAMA主催)と名称が変更され、10月26日(一般公開は28日)から11月5日まで東京ビッグサイトで開催された。コロナ禍で前回中止になった関係で、実に4年ぶりの開催となった。
テーマは「乗りたい未来を、探しにいこう!」。自動車業界だけでなく、他産業やスタートアップなど、計475企業・団体が参加した。期間中来場者数は約111万人に上った。
今回の展示を取材して印象深かったのは、「自動運転」技術だ。
完全自動運転タクシー
最初に目に付いたのは、このなんともいえない外観の車だ。ホンダのブースでものすごい存在感を放っていた。近づいてみると、ルーフの前と後ろの先端に2つずつ計4個、漆黒の巨大な部品が付いている。自動運転車の目ともいうべきカメラなどが組み込まれている。
そう、この車こそ自動運転タクシー「クルーズ・オリジン」だ。本田技研工業株式会社(以下、ホンダ)、GMクルーズホールディングスLLC(以下、クルーズ)、ゼネラルモーターズ(以下、GM)の3社で共同開発した自動運転モビリティサービス専用車両だ。
© エネフロ編集部
この車両は、GMがプラットフォーム(足回り)の生産を行ない、ホンダがキャビン(ボディやインテリア)、クルーズが自動運転技術をそれぞれ担当しており、自動運転レベル4に対応する。レベル4とは、完全自動運転(レベル5)の一歩手前の「特定条件下における完全自動運転」を指す。レベル4では、遠隔監視が必須で、自動走行状態や周辺状況、乗客の状況を監視し、異常時には速やかに対応する必要がある。
出典)国土交通省
さて、「クルーズ・オリジン」の室内に入ってみると、あたり前だが運転席がない。ハンドルもダッシュボードもないインテリアが斬新だ。対面でゆうゆう6人が座ることができる広大な空間があるのみ。
前後の座席の下には小さめのキャリーケースならすっぽり入る。後ろのトランクは大きめのスーツケース4個分の広さがあり、海外からの旅行者が空港から街中へ移動するようなシチュエーションにも十分耐えられそうだ。
フロアはフラットで、ドアは両開きで開口部も大きく、乗り降りもしやすい。実際にシートに座ってみると車に乗っているというよりは、長距離列車のシートに座っているような気分にさせられる。
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ホンダの担当者によると、2024年から実証実験を始め、2026年初頭には東京都内で自動運転タクシーサービスを目指したいという。2026年といったら、ほぼ2年後だ。自動運転の世界がすぐそこまで来ているのかと驚いた。
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世界の自動運転タクシー事情
アメリカでは、Google系のWaymoが2018年に世界で初めて自動運転タクシーをフェニックス(アリゾナ州)で商用化し、翌年には完全無人化を実現している。現在はサンフランシスコでも運行中で、ロサンゼルスとオースティン(テキサス州)でも予定している。
出典)Waymo
中国ではBaidu(百度)が、「Apollo Go」と名付けた自動運転タクシーサービスを2019年に実証実験を開始、2022年8月には中国で初めて重慶と武漢で商用化の認可を得た。2023年3月に北京で、6月に深センでもサービスが始まっている。
ドイツとイスラエルでは、Intel(インテル)の傘下であるMobileyeが2022年にサービスを開始した。
クルーズの自動運転タクシーは、アメリカのサンフランシスコで2021年から稼働しており、オースティン、フェニックスでもサービスが始まっている。同社の自動運転タクシーの走行実績は、これまでに約500万マイル(約800万km)に達している。
日本にいると全く分からないが、2年以上前から世界の主要都市で自動運転タクシーが走り回っているのかと思うと驚きだ。
相次ぐ自動運転タクシーの事故報道
一方、最近よく目にするのは自動運転タクシーのトラブルや事故の報道だ。消防車などの緊急車両が緊急出動するときに、自動運転タクシーが走行妨害した、などというケースは従来から多かったが、重大な事故が起きてしまった。
2023年10月2日、サンフランシスコで、交差点で信号を無視して横断した女性が車両にはね飛ばされ、隣のレーン走行中のクルーズの自動運転タクシーにぶつかったのだ。クルーズの車両は、跳ね飛ばされた女性を検知し、右旋回し緊急停止したが、さらなる交通安全上の問題が起きることを避けるために車を路肩に寄せようとしてその女性を6mほど引きずって停止した。
この事故を受け、カリフォルニア州道路管理局(DMV)と同州公共事業委員会(CPUC)は10月24日、州内におけるクルーズの営業停止と無人自動運転走行許可の停止を発表した。クルーズは同州以外を含む全ての無人車両の走行を一時中止すると発表した。また、事故調査委員会の設置やCEO(最高経営責任者)直属のCSO(最高安全責任者)の選任も進めている。そして11月19日、同社創設者兼CEOのカイル・ボークト氏が辞任を表明した。今回の一連の騒動の責任を取った形だ。
このサンフランシスコの事故を受け、自動運転に対する懸念が高まるのは無理からぬ話だ。
一方クルーズによると、自動運転車なら目の前に歩行者が飛び出してきた場合、約0.46秒でブレーキをかけ衝突を避けることが実験でわかったとしている。自動運転車は、ほとんどの人間より早く反応し、事故を回避するというのだ。
実際、自動運転車は、LiDAR(Light Detection And Ranging)(注1)、カメラ、ミリ波レーダなどのセンサーを搭載し、人間の目より高精度に障害物の位置や距離を測定することができる。今回の事故をもって、自動運転車そのものを否定することは技術の進歩に逆行することになるだろう。むしろ、走行データを蓄積し、AIで分析してあらゆる状況に対応できるようにソフトウェアをつくり込むことが求められる。
こうしたなか、日本でも自動運転車の実用化への取り組みが加速してきた。
日本の自動運転の行方
実は日本でも小規模ながら自動運転サービスは始まっている。2023年5月に、福井県永平寺町で始まったレベル4での自動運転移動サービスがそれだ。(10月29日に発生した駐車中の自転車との接触事故により、現在運行休止中)
ただ、運行ルートも全長約2kmたらず、車両もドアのないオープンなもので、ぱっと見ゴルフ場のカートのようだ。最大速度も12 km/hと控えめで、本格的な自動運転商用化とは言い難い。
このように、自動運転タクシーが商用化されている海外と比べて、日本の状況は周回遅れだが、日本の自動運転サービスはタクシーより商用車(トラック)で先に実用化されるかもしれない。
経済産業省や国土交通省が推進している「自動運転レベル4等先進モビリティサービス研究開発・社会実装プロジェクト」(RoAD to the L4)は、旅客と貨物輸送の双方における無人自動運転サービスの研究開発やMaaSなどの新しいモビリティサービスの推進、人材育成を推進している。
なかでも注目されるのは、「高速道路における隊列走行を含む高性能トラックの実用化に向けた取組み」だ。2026年にレベル4の高速道路自動運転トラックを実現し、2030年代に普及させる計画だ。
過去記事(「新東名に自動運転レーン誕生」2023.06.06)でも紹介したが、例えば新東名高速道路などで、自動運転トラックが隊列を組んで物流を担えば、ドライバー不足に悩む業界にとっては大きな助けになる。
今後は運行管理システムの構築や、インフラ整備などが課題となる。また、事故が起きた時の責任の所在や、さまざまな法律や規制の整備も必要になってくる。
自動運転車は、交通事故削減、高齢ドライバー対策、ドライバー不足問題などの解決に貢献するなど、社会的メリットが大きい。世界の技術開発は日進月歩であり、日本企業の今後の動向も注視していきたい。
- LiDAR
レーザー光を照射して、その反射光の情報をもとに対象物までの距離や対象物の形などを計測する技術。自動車の自動運転を支援するシステムで多く使われるミリ波(周波数帯30〜300 GHzの非常に高い周波数の電波)レーダーによる計測よりも、高精度に人や障害物を検知することが可能になる。
出典)産能研マガジン
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