写真)送電鉄塔から延びる送電線 2013 年 11 月 14 日 埼玉県草加市(イメージ 本文とは関係ありません)
出典)Yamaguchi Haruyoshi/Corbis via Getty Images
- まとめ
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- 一般送配電事業者9社、2020年代後半めどに需給調整システムを統一すると発表。
- 全国大でのメリットオーダーの更なる追求、レジリエンス確保とコスト低減の両立などが目的。
- 次期中央給電指令所システムの共有化は過去に類を見ないチャレンジングな取り組みであり、5年以上の開発期間が必要。
私たちはあたり前のように電気を毎日使っているが、電気は発電所でつくられ、送電線を通って変電所へ送られ、そして配電線を通って各家庭のコンセントまで運ばれてくる。
簡単に聞こえるがことはそう単純ではない。
そもそも電気は貯めておくことができない。そのため、需要と供給を一致させる必要がある。しかもこの需給バランスは「同時同量」でなくてはならない。同時同量とは、電気をつくる量(供給)と電気の消費量(需要)が、同じ時に同じ量になっている状態をいう。
この需給のバランスが崩れると、周波数が乱れ、最悪の場合、大規模停電を引き起こすことになる。2018年9月6日、最大震度7を記録した北海道胆振東部地震により、日本初のブラックアウト(全域停電)が北海道で起こったことは記憶に新しい。地震によって火力発電所の発電機2基が停止し、電気の供給が減少して周波数が乱れ、他の発電所も停止したことで発生した。まさに電力需給のバランスが崩れたことが引き金となったわけだ。
電力の需給調整が電気の安定供給にとっていかに重要かがわかる。では、その需給調整はどのようにおこなわれているのだろうか。
需給調整市場
例えば供給が足りない場合、一般送配電事業者は発電事業者に発電量を増やしてもらい対応する。逆に余った場合は、発電量を減らしてもらう。こうした需給の調整に使う電力を「調整力」(注1)と呼ぶ。
2021年4月より、「需給調整市場」が開設された。沖縄電力を除く一般送配電事業者9社によって設立された「電力需給調整力取引所」が運営している。従来は、各エリアの一般送配電事業者が公募で調整力を調達していた。しかし、この市場ができたことで、一般送配電事業者は地域を超えて広域的な調整力を取引できるようになったわけだ。
出典)経済産業省資源エネルギー庁「需給調整市場について」2023年7月31日
需給調整市場は、需要予測や再生可能エネルギーの出力予測の誤差、電源トラブルによる停止などに対応するための調整力を調達する。応動時間や継続時間に応じて(注2)、5つの商品に細分化されている。
需給調整市場の問題点
需給調整市場を通じて、2021年度から三次調整力②、2022年度から三次調整力① の調達が開始された。(沖縄電力の供給区域を除く)
出典)経済産業省資源エネルギー庁「需給調整市場について」2023年9月11日
しかしこれまでに、募集量に対し調達量の未達や調達費用の大幅な上昇などの問題が生じている。この問題は、2024年度に取引が開始される他の商品においても起きると思われ、調整力の調達をいかに効率的にするか、検討がおこなわれている。
一般送配電事業者各社は、調整力の広域運用による経済性の追求や参入者拡大のためには、現状各社で異なる需給・周波数制御などの仕様を各社の中央給電指令所のシステムリプレースに合わせて抜本的に見直す必要があると考え、仕様統一に向けた検討を進めてきた。
そうしたなか、全国の一般送配電事業者10社は9月1日付で新会社、「送配電システムズ合同会社」(以下、送配電システムズ)を設立すると発表した。
送配電システムズの役割
「送配電システムズ」は、一般送配電事業者間の共通システムとして「電力データ集約システム」および「次期中央給電指令所システム」(以下、次期中給システム)の構築にあたる。会社設立の目的は、一般送配電事業者各社が取り組んでいる「災害に強い送配電網の構築」「カーボンニュートラルの実現に向けた再エネの大量導入を支える電力ネットワークの次世代化」および「一層のコスト低減」を実現することである。
ひとつずつ見てみよう。
まず、「電力データ集約システム」とは、電気事業法に基づき電力データを自治体や電力データ管理協会に提供するシステムであり,このデータ提供は,一般送配電事業者からの業務受託により実施するものだ。
データ提供には,災害時などの緊急時向けと平時向けがあり、前者は、提供の要請を受け各自治体に電力データを提供し、災害時の事故対策や早期復旧などレジリエンス強化に寄与するもので、後者は、電力データ管理協会を通してデータ利用者に、需要家本人の同意を得た個人データを提供し、高齢者の見守りや環境対策など社会課題の解決に貢献するものだ。
出典)送配電システムズ合同会社
もうひとつの「次期中給システム」は、これまで各エリアで開発していた一般送配電事業者の中給システムの仕様を統一し共有化を図るものだ。一元的な情報公表、系統制約を考慮した全国一括での最適な電力需給の実施、全国でのレジリエンス確保と調整力コスト低減などを目指す。また、全国で同一のシステムを運用することで、電力システム改革などの社会要請に効率的に対応できるようになるとしている。
出典)送配電システムズ合同会社
今後の課題
「送配電システムズ」の事業のうち、「電力データ集約システム」では、目に見える成果が出てきそうだ。すでに、電力会社のグループ会社が、一人暮らし高齢者などの生活状況を、離れて暮らす家族が見守ることができるサービスを商用化している。今後もさまざまな分野で電力データを活用した新たなサービスが生まれ、生活の利便性が向上するだろう。これについては後日改めてリポートしたい。
一方で、次期中給システムの共有化は過去に類を見ないチャレンジングな取り組みであり、少なくとも5年以上の開発期間が必要とみられている。
出典)送配電網協議会「次期中給システム開発に関する検討状況」2023年 8月3日
災害に強い送配電網の構築とカーボンニュートラルの実現に向けた再エネの大量導入を支える電力ネットワークの次世代化に向けて、一般送配電事業者は、過去に例を見ない大規模な切替作業に取り組むことになりそうだ。
- 調整力
調整力とは、一般送配電事業者が、供給区域における周波数制御、需給バランス調整その他の系統安定化業務に必要となる発電機、蓄電池、ディマンドリスポンスその他の電力需給を制御するシステム その他これに準ずるもの(但し、流通設備は除く。)の能力をいう。(出典:電力広域的運営推進機関) - 応動時間、継続時間
応動時間とは、(一般送配電事業者の中央給電指令所が)指令を出してから指令値まで出力を変化するのに要する時間。
継続時間とは、最大値または指令値を継続して出力し続けることが可能な時間。
出典)「需給調整市場検討小委員会 用語集」(第2回需給調整市場検討小委員会 資料1-2)
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