写真)Power Ark 100 将来イメージ画像
出典)株式会社パワーエックス
- まとめ
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- 北海道は、再生可能エネルギー、特に風力発電の導入量が大幅に伸びる見込み。
- 本州へ海底送電ケーブルで電力を送る計画が進行中。
- パワーエックス社、蓄電池を搭載した電気運搬船の実用化を目指す。
持続可能な社会の実現に必要不可欠である「再生可能エネルギー」。日本では太陽光発電が、FIT(固定価格買取制度)により、導入量が劇的に伸びた。
出典)エネ百科|きみと未来と。
あまり知られていないかもしれないが、国土面積あたりの日本の太陽光導入容量は主要国の中で最大であり、さらに、平地面積でみるとドイツの2倍にまで拡大している。
出典)経済産業省資源エネルギー庁「国内外の再生可能エネルギーの現状と 今年度の調達価格等算定委員会の論点案」
これ以上拡大余地の少ない太陽光発電に代わり、注目されているのは風力発電だ。こちらも導入量は増えてはいるが、太陽光発電と比べるとまだまだ少ない。
出典)エネ百科
欧州などと違って日本では、強い風が常時吹く、いわゆる風況が風力発電に適した場所は多くはない。北海道や東北地方などに限られている。
出典)日本風力発電協会
北海道は、陸上風力発電に加え洋上風力発電のポテンシャルも高く、潜在的な風力発電量は大きいが、電力を送る送電網の容量が不足している。そのため、余剰電力を海底送電ケーブルなどで域外に融通することが考えられている。
海底送電ケーブル
海外では実績がある。イギリスはオランダ、フランス、ノルウェーとすでに海底送電ケーブルを用いて再生可能エネルギー由来の電力を送電している。特に、ノルウェーと結んだものは全長720kmにもおよび、相互に電力を送り合うシステムとなっている。イギリスは風力発電、ノルウェーは水力発電を中心に、相手国の発電量が少ない時に電力を融通している。
出典)JETROビジネス短信 英国とノルウェー間の海底送電線、商業運転開始 英国とノルウェー間の海底送電線、商業運転開始
日本でも海底直流送電が検討されている。去年12月のGX実行会議において、地域間を結ぶ系統について今後10年間程度で、過去10年間と比べて8倍以上の規模で整備を加速すべく取り組み、北海道と首都圏を結ぶ200万kWの新たな海底直流送電ケーブルについて2030年度を目指して整備することが示された。
出典)経済産業省資源エネルギー庁「電力ネットワークの次世代化」2023年2月9日
こうした動きに対し、北海道の鈴木直道知事も「北海道の豊富な再生可能エネルギーのポテンシャルを活かすことにより、我が国における電力安定供給の実現とカーボンニュートラルの目標達成に向けた大きな前進と受け止めています」とコメントした。
船で電気を運ぶという発想
そうした中、”北海道で作られた電力を蓄電池にため、本州などに船で運ぶ”というアイデアが実現しようとしている。
この奇想天外な「電気運搬船」のアイデアを事業化したのが、伊藤正裕氏(以下、伊藤氏)率いるベンチャー企業、株式会社パワーエックス(以下、パワーエックス)だ。
出典)株式会社パワーエックス
伊藤氏は伊藤ハム株式会社創業者の孫。2000年17歳の時に、3D画像事業の株式会社ヤッパを設立し、一躍有名ベンチャーの仲間入りを果たしした人物。その後2014年に株式会社スタートトゥデイ(現ZOZO)にヤッパの株式を売却。2017年ZOZO取締役、2019年最高執行責任者を経て、2022年に株式会社パワーエックスを創業した。
すでに、同社は今年7月、北海道室蘭市と、電気運搬船および蓄電地の利活用を通じた室蘭港におけるカーボンニュートラルポートの形成に向けて、連携協定を結んでいる。また、東北電力株式会社、九州電力株式会社とも、事業提携契約を交わした。
初号船「X」を見てみよう。全長は140メートル。大体LNG船の半分の長さだ。搭載するコンテナ型大型蓄電池は96個、容量にすると合計24.1万kWhにのぼるという。2年後の2025年完成を目指し、2026年には実証実験を始める計画だ。
出典)株式会社パワーエックス
船の建造に関しては、造船大手の今治造船株式会社と、船舶用電池および電気運搬船)のプロトタイプ船の開発を主眼とする資本業務提携契約を締結している。2025年末までに共同で開発・建造を目指す。
国内最大級の自社蓄電池組み立て工場(岡山県玉野市)は今年8月に竣工、来年の春から量産を開始する予定。蓄電池に搭載するエネルギーマネジメントシステムなどのソフトウェアも全て国内で開発・管理をおこなう。蓄電池は、リン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池セルを使用することで長寿命(約6,000サイクル)を実現した。将来的には、船のサイズを拡大し、搭載する電池を増やすことで、電力需要に臨機応変に対応できるようになるという。
今後の展望
北海道における再生可能エネルギー導入量は今後も増え続ける見込みで、海底送電ケーブルの増強だけでは、本州への送電がまかなえなくなる可能性が高い。電気運搬船はその解決策の1つとなる。また離島間の送電などにも活用できる点も評価できる。
その他の電気運搬船のメリットとしては、海底送電ケーブルの保守点検費用などコストの問題を解消できることもあげられる。一方、蓄電池の充電・放電の回数に限りがあることは課題として残る。また受注台数を増やし、建造コストを下げることも必要だ。
島国である日本にとって有効な手段になりうる電気運搬船は、再生可能エネルギー由来電力の偏在を解消する1つの手段だろう。今後、指摘した課題が解決すれば、電気運搬船が日本近海だけでなく、東南アジア諸国の離島などを周回することが当たり前になる日が来るかもしれない。
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