写真)LAVO社の水素エネルギー貯蔵システム(HESS)
出典)LAVO facebook
- まとめ
-
- 家庭用蓄電池が普及し始めている。
- 豪州のメーカーが水素吸蔵合金を使った蓄電池を開発した。
- 日本でも住宅メーカーが水素電池を備えたハウスを開発している。
家庭用蓄電池が注目されている。
背景には、住宅用太陽光発電におけるFIT(固定価格買取制度)の買取期間が順次満了する、いわゆる「卒FIT」がある。卒FIT後は売電価格が下がるため、蓄電池に電気を貯めて自家消費した方がよいと考える家庭が増えている。
また、2025年4月から、東京都や川崎市などで戸建て住宅を含む新築建築物への太陽光パネル設置が原則義務化される。昨今の電気代の上昇や、頻発する自然災害なども蓄電池需要を後押ししている。自治体の中には、蓄電池補助金があるところもあり、設置件数はうなぎ登りだ。
下図の折れ線グラフは、定置用LIB(リチウムイオンバッテリー)蓄電システムの累積出荷台数だが、過去3年間で倍増している。
(参考記事:「蓄電池で家庭の電気が変わる!」2020.11.10、「EVバッテリーは再利用できる」2023.04.11)
以前は家庭用蓄電池の価格は高く、一般家庭で設置するにはハードルが高かった。しかし2020年春に、米EVメーカーのテスラが蓄電池市場に参入、「Powerwall」の販売を開始した。大容量ながら蓄電池本体を含むシステム全体の価格が税別99万円と100万円を切る思い切った価格設定で市場参入したことから、蓄電池業界に激震が走った。その後、国産メーカーもテスラに対抗してぞくぞく新製品を投入し、価格はかなり安くなってきた。
出典)Tesla
政府も家庭用蓄電池の普及を目指し、2030年の目標価格を7万円/kWhと定めている。家庭用蓄電池は5kWh〜7kWh程度の容量が一般的なので、約35万〜50万円程度の小売価格を想定しているのだろう。(参考:「GX実現に向けた基本方針」
ただ、今のところ家庭用蓄電池に使われているのはリチウムイオン電池が主流で、充放電の回数に限りがあり、経年劣化で蓄電容量が減っていくなどのデメリットがある。また、家庭用となると大きさもそれなりで、設置場所に悩むケースもある。
こうしたことから、より高効率、長寿命、コンパクトな蓄電池の研究開発が進んでいる。
水素による電力貯蔵
水素利用についてはこれまでもたびたび取り上げているが、先日、オランダで「水素電力貯蔵システム」の実証実験を見学する機会を得た。水素を蓄電に利用するものだ。
余剰電力を使って水電気分解装置で水素を製造し、タンクに水素を貯蔵する。電力が必要になったら、蓄えた水素を燃料として、燃料電池、つまりCO₂を排出せず水のみを生成する電池で発電をおこなう仕組みだ。
© エネフロ編集部
このシステムは液体水素を電力貯蔵に使っていたが、水素を金属の中に閉じ込めるという新しい方式も開発されている。使われているのは「水素吸蔵合金」と呼ばれるものだ。
水素吸蔵合金とは
豪州のLAVO社が2020年に開発したこのシステム。世界で初めて、固体貯蔵技術を商用利用した。貯蔵に使われる「水素吸蔵合金」は、水素を気体状態と比べ1,000分の1以下に体積を圧縮して貯蔵できる。漏えいの危険性が低く、低圧で貯蔵できるというメリットがある。
LAVO社は、エネルギーの生成、貯蔵、配電の効果的かつ効率的な管理を保証する統合デジタル プラットフォームも開発、ユーザーがリアルタイムに情報にアクセスできるようにした。
2023年6月には東京大学先端科学技術研究センター河野研究室の河野龍興教授と共同研究事業化契約を締結、日本市場向けの商品開発をおこなう。
出典)LAVO facebook
https://www.lavo.com.au/blog/agreement-the-university-of-tokyo
LAVO社はすでに世界で2,500件以上の注文を受けている。同製品は約40kWhのエネルギーを出力でき、一般家庭(4人世帯)の2〜3日の使用量をまかなえる。
ハウスメーカーも参入
日本の住宅メーカーも蓄電池を備えたハウスを開発し始めた。積水ハウス株式会社は、水素吸蔵合金のタンクで電力を貯蔵する住宅を開発している。
太陽光発電による再生可能エネルギーの電力で水素をつくり、電力を自給自足する。住宅メーカー初の水素住宅となるという。2025年夏の実用化を目指し、今年6月から実証実験をおこなっている。
具体的には、日中、屋根の太陽光発電パネルで発電した電気を消費し、余剰電力で水を電気分解して水素をつくり、水素吸蔵合金タンクに貯蔵する。曇りや雨の日、夜間などに貯蔵した水素を利用して燃料電池で発電した電気を使う、という仕組みだ。
出典)積水ハウス株式会社
このように注目される水素吸蔵合金だが、いまのところ材料にニッケルやコバルトなどのレアメタルを使用しているため、調達できる国が限られることや価格が高いことがネックとなっている。
そこでさまざまな研究機関やメーカーがレアメタルではなく、より調達しやすく、かつ低コストの材料を探し求めて研究を続けている。
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構は、資源量が豊富でレアメタルより安い、アルミニウムと鉄の合金を開発した。また、日立金属の子会社、株式会社三徳は、チタンと鉄の合金を開発した。合金重量単位当たりの水素吸蔵量が、ニッケルやコバルトなどを使う場合より2〜3割多いという。そのほかいろいろなメーカーが研究開発に取り組んでいるが、まだ本格的な商用化には至っていない。
水素吸蔵合金はまだ発展途上だ。ただ、蓄電池の材料として有望である事は間違いなく、今後も性能とコストの両面から研究開発競争が続く。
Recommend Article / おすすめ記事
RANKING / ランキング
SERIES / 連載
- テクノロジーが拓く未来の暮らし
- IoT、AI・・・あらゆるものがインターネットにつながっている社会の到来。そして人工知能が新たな産業革命を引き起こす。そしてその波はエネルギーの世界にも。劇的に変わる私たちの暮らしを様々な角度から分析する。