図)空間共有式3次元遠隔コミュニケーション。遠隔地にいる相手と同じ空間で会話したりモノを見たりしている様子。
© エネフロ編集部
- まとめ
-
- 電力会社と関連協力企業や研究機関、大学などによる研究成果の紹介、「テクノフェア2022」が開催。
- 電力会社が外部の研究機関や企業とともに、社会課題の解決に向け、さまざまな技術開発をおこなっている。
- MR(複合現実)などの最新技術を活用したコミュニケーションの課題解決など、意欲的な取り組みが目白押しだった。
今年も、電力会社と関連協力企業や研究機関、大学などによる研究成果の紹介「テクノフェア2022」(主催:中部電力株式会社技術開発本部)が開催された。
今年の現地展示会(大高展示会)も、事前予約制で見学者を制限し、時間による入替制とするなど、新型コロナの感染対策が徹底して実施されていた。
今年目に付いたのはインターネットの新技術を応用したもの。展示コンテンツの一部を紹介する。
空間共有式3次元遠隔コミュニケーション
まずは最新テクノロジーを使ったコミュニケーション技術。
コロナ禍になりWEB会議が当たり前のようにおこなわれるようになったが、対面とは違って、コミュニケーションが薄くなるなどの課題が浮き彫りになっていた。
もし、遠く離れたところにいる人とまるで同じ空間にいるかのように話せたら?そんな夢みたいなことが現実になりそうなのだ。
その新技術とは、「MR(Mixed Reality)」。「複合現実」と訳され、現実空間と仮想空間を統合して、現実のモノと仮想的なモノがリアルタイムで影響しあう、新たな空間を構築する技術だ。
この技術を使えば、離れた地点にいる人たちが、3次元で実際に対面しているかのようにコミュニケーションを取ることが可能となる。相手との位置関係を共有できるので、さまざまな操作や指示もできるだけでなく、映した物を、指をさして直感的に説明することもできる。
例えば、自分がいる場所から離れた工場にある試作部品を、バーチャルに見ながら意見交換することができるのだ。製造現場などにおける新たなコミュニケーション手段となりうる。
© エネフロ編集部
また、リモートによる実作業現場の対面作業の支援にも応用できるだろう。空間そのものを保存すれば、過去の再現も可能になる。あらゆる用途が考えられることから、直接、間接部門を問わず、業務の作業効率が飛躍的に上がるのではないだろうか。実用化が待たれる。
© エネフロ編集部
高エネルギーX線回折装置~火力発電所の発電機のブレードの劣化を調べる~
日本の電力の大半は現在、火力発電で支えられている。火力発電方法の1つ「ガスタービン発電」では、天然ガスや灯油、軽油などの燃料を燃やして高温の燃焼ガスをつくり、そのエネルギーでガスタービンを回し、発電機で発電している。
具体的にいうと、ガスタービンにはブレードと呼ばれる翼が付いていて、そのブレードに高温高圧の蒸気やガスを当てて回転軸を回し、回転軸の先端に取り付けられた発電モーターで発電する。言ってみれば巨大な風車のようなものだ。
普段人の目には触れないが、このブレードは発電のために不可欠だ。
出典)GE Reports © 2022 General Electric Company
このブレードは、絶えず高温高圧の過酷な環境にさらされている。定期点検をおこない、その寿命を評価する必要があるが、従来はブレードを破壊し、その結晶を分析する方法が取られていた。しかし、その方法では、高価なブレードを再利用することができない。
© エネフロ編集部
そうした問題を解決すべく、ブレードを破壊することなく、表面から評価できる装置が開発された。それが、「高エネルギーX線回折装置」だ。
© エネフロ編集部
© エネフロ編集部
高エネルギーX線は、ブレードの表面のコーティングを突き抜けて母材を壊すことなくその寿命が評価できる。そのため、大幅にコストを削減でき、また装置自体を動かすことにより、さまざまな部品の評価も可能になる。同じ材料系の航空機エンジンの分析にも適用できるなど、汎用性も高い。こちらも実用化が待たれる技術である。
ソルガムによる循環型社会への貢献~植物から有価物を得て、残りを発電燃料に利用~
会場内でひときわ目を引いたのは、高さ5メートルはあろうかという背の高い植物だ。ちょっと見たことがない。近づいて何か聞いてみたら、「ソルガム」だという。
© エネフロ編集部
ソルガムとは、「モロコシ」、「タカキビ」、「コーリャン」などとも呼ばれ、日本に古くからあるイネ科の穀物だ。 原産地はアフリカで、日本には中国経由で室町時代ごろ渡来したといわれている。中国では白酒(バイチュウ)という蒸留酒の原料の一つにもなっているそうだ。
さて、そのソルガムがなぜ研究の俎上に上っているのか。それはバイオマス発電が抱える構造的な問題と関係している。発電に必要なバイオマス燃料(木質チップや木質ペレットなど)は、国内調達は競争が厳しく、大規模発電では輸入に頼っているのが現状で、安価にかつ安定的に調達するのが難しいのだ。
そうした中、ソルガムは高糖質、高ミネラル、高収率(二回刈)栽培が可能という特質を持つ。カスケード(段階)的に利用しながらバイオマス燃料を得ることができる植物である点に目をつけた。
© 中部電力
まずソルガムを原料として、セルロースナノファイバー、バイオプラスチック、高栄養飼料などを生産する。品種によっては、子実の部分を高栄養価な食材とすることもできる。
ソルガムは、信州地方で古くから栽培されており、米の代用でお餅として食べられていた。ソルガムは、アレルゲンフリー、グルテンフリーなだけでなく、ポリフェノールやGABAが豊富なスーパーフードとしてその価値が再評価されている。(参考:信州そるがむで地域を元気にする会)
耕作放棄地を利用して栽培したソルガムから有機物を生産し、それらを高付加価値製品として販売することで高収益事業化を図る。その後、未利用分や残渣(ざんさ)をバイオマスとしてエネルギー利用すれば、ソルガムを段階的に無駄なく使いきることができる。地域課題となっている耕作放棄地を活用し、持続可能な循環型社会を構築することができる、一石二鳥のアイデアだ。
© エネフロ編集部
現在、複数の大学や企業と連携し、研究を進めている。第二次大戦中の食糧不足時には、米の代わりとして、アワ、ヒエなどと一緒に食されていたソルガムが、時を経て、その価値が再評価されているのは興味深い。
出典)中部電力
今年も興味深い新技術や研究が盛りだくさんだった。ウィズコロナの時代に必要とされているコミュニケーションの課題をMRで解決しようとしている技術開発は印象に残った。
電力会社を取り巻く環境は、刻一刻と変わっている。電気を安定的に供給する義務を負う電力会社だが、今はそれだけではなく、社会の課題を敏感に察知し、その解決に向けスピーディーに技術開発を進めねば、勝ち残れない時代になった。従来の枠組みを超え、時には他の企業や研究機関と連携して事業領域の拡大を図らなければならない。今回紹介した新技術はまさにそうした取り組みのほんの一例だ。その他の研究事例は、「テクノフェア2022WEB展示会」(12月23日まで)を是非ご覧いただきたい。
Recommend Article / おすすめ記事
RANKING / ランキング
SERIES / 連載
- テクノロジーが拓く未来の暮らし
- IoT、AI・・・あらゆるものがインターネットにつながっている社会の到来。そして人工知能が新たな産業革命を引き起こす。そしてその波はエネルギーの世界にも。劇的に変わる私たちの暮らしを様々な角度から分析する。