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エネルギーと環境

Vol.38 「カーボンネガティブ」に取り組む企業続々

写真)ソーラーパネルを備えたラスベガス庁舎 2017年1月6日 アメリカ ネバダ州ラスベガス

写真)ソーラーパネルを備えたラスベガス庁舎 2017年1月6日 アメリカ ネバダ州ラスベガス
出典)Photo by George Rose/Getty Images

まとめ
  • カーボンニュートラルをより進めてCO₂排出量が吸収量を「下回る」状態にすることを「カーボンネガティブ」と呼ぶ。
  • さまざまな企業がこの「カーボンネガティブ」の活動に積極的に取り組み始めた。
  • 世界的にエネルギー需給がひっ迫している中、日本は、官民あげてカーボンネガティブに取り組まねばならない局面に来ている。

最近「カーボンニュートラル」という言葉をよく聞く。経済産業省資源エネルギー庁によると、「温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」という意味だそうだ。CO₂をはじめとする全ての温室効果ガスの排出を止めることはできないから、排出量から吸収量を差し引いた合計をゼロにする、ということである。

では「カーボンネガティブ」という言葉をご存じだろうか。ネガティブ、とついているから悪い意味だと思う人もいるかもしれないが、実はその逆で、カーボンニュートラルをより進めてCO₂排出量が吸収量を「下回る」状態にすることを意味するので、より積極的なものになる。「マイナス」「除去」という意味で「ネガティブ」という言葉が使われているわけだ。

カーボンネガティブが考えられた背景

2022年2月2日、Zホールディングス株式会社は傘下のヤフー株式会社LINE株式会社株式会社ZOZOなどを含む、ZHDグループ全社の事業活動での温室効果ガス排出量を2030年度までに実質ゼロにする「2030カーボンニュートラル宣言」を発表した。

ZHDグループでは2030年度のカーボンニュートラル達成に向けて、まずは2025年度頃までに、主要企業が利用する電力の80%以上を再エネ化し、その後の5年間で残りの使用電力の100%再エネ化を進める。また、ヤフーにおいては、「カーボンネガティブ」への取り組みを先行して進めるという。

図表)カーボンニュートラル達成に向けたロードマップ
図表)カーボンニュートラル達成に向けたロードマップ

出典)Zホールディングス株式会社

背景には、気候変動問題解決に向けたパリ協定の目標達成がある。

世界の平均気温上昇を産業革命以前と比べて1.5℃に抑える、という目標達成のためには2030年までに世界の温室効果ガス排出量を2010年比で45%削減しなければならないが、日本を含め目標に追い付いていない状況だ。

写真)パリCOP21気候変動協定でパリ協定が発効したことを祝し、緑色にライティングされ、「パリ協定が完了しました」とのサインが点灯されたエッフェル塔 2016年11月4日 フランス・パリ
写真)パリCOP21気候変動協定でパリ協定が発効したことを祝し、緑色にライティングされ、「パリ協定が完了しました」とのサインが点灯されたエッフェル塔 2016年11月4日 フランス・パリ

出典)Photo by Chesnot/Getty Images

Zホールディングスは先ほどの宣言に加えて、事業で使用する電力の100%再生可能エネルギー化を目指す国際イニシアチブ「RE100」への速やかな加盟を目指す方針も示した。環境省は2018年6月に公的機関として世界で初めてアンバサダーとして参画している。(参考:環境省RE100への取組

また「Business Ambition for 1.5℃」という、企業に対してパリ協定の目標達成のため科学的な知見に基づいて設定された温室効果ガス削減目標に取り組むことを呼びかけるキャンペーンでは、味の素株式会社や株式会社リコーなどが署名するなど、多くの日本企業が積極的に取り組んでいる。

話をカーボンネガティブに戻すと、Zホールディングス以外にもカーボンネガティブに取り組む宣言をした企業・団体がある。

Microsoftでは2030年までのカーボンネガティブ実現を宣言した。初年度で炭素排出量に関して6%(約 73 万トン)を削減・プロジェクト 26 件により130 万トン分の炭素除去を購入・持続可能性レポートの発表などに取り組むようだ。

花王株式会社は2040年カーボンゼロ、2050年のカーボンネガティブを目指す「Business Ambition for 1.5℃」に署名しており、RE100にも申請中だ。使用電力の2030年までの100%再生可能電力化・ESG戦略「Kirei Lifestyle Plan」の継続などの目標設定をおこない、2021年にはコーポレートPPAを採用、太陽光発電電力を固定価格化して長期間の購入へと取り組んでいくとしている。

また、企業だけでなく自治体も取り組んでいる。大分県国東市は「国東市カーボンネガティブ宣言」を表明している。今後多くの自治体がこれに続くだろう。

カーボンネガティブの課題と対策

このようにさまざまな企業や自治体がカーボンネガティブへの取り組みを示しているが、プラン通りに達成できるかどうかは不透明だ。

写真)第26回国連気候変動会議(COP26)で講演する岸田文雄首相。 2021年11月2日 スコットランド・グラスゴー
写真)第26回国連気候変動会議(COP26)で講演する岸田文雄首相。 2021年11月2日 スコットランド・グラスゴー

出典)Photo by Hannah McKay - Pool/Getty Images

2021年11月2日、岸田首相は化石燃料の火力発電を推進していることをスピーチで明らかにして環境団体などから批判されたが、現在、日本の発電電力量全体の7割以上を火力発電が占めており、その比率をエネルギー基本計画にのっとって着実に下げない限り、カーボンニュートラル、およびカーボンネガティブ実現は当初予定よりずれ込むことになる。

また、企業側だけでなく消費者に関係のある課題もある。その一つが「グリーンウォッシュ」だ。

グリーンウォッシュとはエコを想起させる「グリーン」と、うわべを飾る、ごまかすという意味のある「ホワイトウォッシュ」を組み合わせた造語で、実態が伴わないにも関わらず、環境配慮への取り組みをあたかもしているかのように見せかける事である。

有名な企業でも曖昧な情報や誇張によって消費者に誤った印象を与えるような事例は多くある。そのため欧州では規制を強化して、こうした取り組みがないか調べている。

グリーンウォッシュにだまされないようにするには、私たち消費者自身が情報を鵜呑みにしないことが大切だ。

カナダのグリーンマーケティング・エージェンシーである「terrachoice」では、グリーンウォッシュの特徴を7つの大罪と絡めて紹介した。イメージだけを信じるのではなく、このような指標を参考にしながら、カーボンネガティブを達成するためにはどうしたらいいか、個人レベルで考えねばならない。

今後の見通し

カーボンネガティブ」への取り組みは消費者へのアピールになるため、今後も多くの企業が取り組みを表明するとみられる。特にRE100は加盟すると名前が掲載されるため、パリ協定の目標達成に意欲的な印象を与えるのに効果的だ。

多くの企業が再生可能エネルギー化によるカーボンネガティブを宣言しているが、それ以外にも環境を守る方法はある。森林保護や植林活動の展開や空調設備の更新によるCO₂の削減など、各企業ができることは多い。

2022年度は、ロシアのウクライナ侵攻で、エネルギー需給はタイトになるだろう。欧州各国がロシアへのエネルギー依存度を減らし、原油や天然ガスをロシア以外の国から調達しようとするからだ。そうなると、日本も原油や天然ガスをこれまでのように安定的かつ廉価に調達できなくなるかもしれない。長期的なエネルギー安全保障戦略を再構築する必要性が急速に高まっている。

こうしたさまざまなエネルギー環境を見てみると、温室効果ガスの削減を民間企業の努力だけで達成するのは極めて困難にみえる。官民あげて、カーボンネガティブに取り組まねばならない局面に来ているといえよう。

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
・日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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