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エネルギーと私たちの暮らし

Vol.34 再生可能エネルギーのさらなる普及を 4月スタート「FIP制度」

写真)イメージ(本文とは関係ありません)アルトモンテの「エネルグリーンパワー太陽光発電所」の概観。イタリア・コゼンツァ州 2022年2月18日

写真)イメージ(本文とは関係ありません)アルトモンテの「エネルグリーンパワー太陽光発電所」の概観。イタリア・コゼンツァ州 2022年2月18日
出典)Photo by Ivan Romano/Getty Images

まとめ
  • 再生可能エネルギーのさらなる普及を促すFIP制度が今年4月からスタート。
  • 市場連動型のFIP制度は、再生可能エネルギーの「自立化」や安定供給を目指す。
  • 再生可能エネルギー中心の持続可能な社会の実現に向け、FIP制度に大きな期待が集まる。

世界的な「脱炭素化」の潮流の中で、各国は再生可能エネルギー導入拡大を目指している。日本も2050年カーボンニュートラルを目指し、エネルギーミックスの見直しをおこなっている。

その再生可能エネルギー拡大を促す制度が、「固定価格買取制度(FIT:Feed In Tariff)」だ。東日本大震災の翌年、2012年に導入された。この制度は、再生可能エネルギー発電によってつくられた電気を電力会社が買い取るよう義務付けているが、その買取費用の一部は、電気料金に上乗せして利用者(=国民)が広く負担することになっている。それを「再生可能エネルギー発電促進賦課金」と呼んでおり、その総額は実に2兆円を超えていることをご存じだろうか?

図)固定価格買取制度導入後の賦課金の推移
図)固定価格買取制度導入後の賦課金の推移

※ 平均モデル:東京電力EPや関西電力がHPで公表している月間使用電力量260kWhのモデル
出典)経済産業省資源エネルギー庁

この賦課金単価は年々増えており、2021年度は3.36円/kWhで、前年度より0.38円増加した。平均モデルで月額873円の負担となる。普段電気料金の検針票をまじまじと見ない人がほとんどかもしれないが(最近では検針票をWEB化した電気会社もある)、私たちが払っている電気料金の一部、それもかなりの割合が、再生可能エネルギー普及を支えていることは自覚しておくべきだろう。

さて、その再生可能エネルギーのさらなる普及を促す新たな制度が、この4月からスタートする。それが、「FIP(Feed-in-Premium)制度」だ。

FIP制度とはなにか

FIP制度は、再生可能エネルギーのさらなる普及と将来的な主力電源化を進めていくために設けられた制度。再生可能エネルギーの発電事業者が、卸電力取引市場(注1)などで発電した電気を売ったとき、その売電価格に一定のプレミアム(補助額)が上乗せされるというものだ。

この「プレミアムの上乗せ」により、発電事業者は通常の市場価格よりも高い価格で売電ができるため、再生可能エネルギーへの投資を拡大するインセンティブが生まれ、再生可能エネルギーの導入をさらに促進することが期待できるというわけだ。

FIP制度による国民負担の軽減

では、FIP制度と従来のFIT制度にはどのような違いがあるのだろうか。

FIP制度導入の意義としてまず挙げられているのは、「FIT制度の下で拡大してきた国民負担を軽減できる」という点だ。

従来のFIT制度の下では、発電事業者が発電した再生可能エネルギーが市場取引を経ずに、需要に関係なくいつ発電してもすべて固定価格で買い取られてきた。この固定価格での買取にかかる費用は、先に述べたように「再生可能エネルギー発電促進賦課金」として一般の電気利用者の電気料金に上乗せされ国民が負担してきた。この買取費用は、再生可能エネルギーの普及とともに今も年々増え続けている。

写真)従来のFIT(固定価格買取)制度の概要
写真)従来のFIT(固定価格買取)制度の概要

出典)経済産業省資源エネルギー庁

こうした国民負担の増大に歯止めをかけるべく誕生したのが、FIP制度だ。

FIP制度では、プレミアム額こそ国民負担となるものの、市場価格での取引が原則となるため、市場競争によるコスト低減が見込まれる。これによりFIT制度のもとで拡大してきた国民負担が、軽減されることが期待されている。

図)FIT制度とFIP制度の比較
図)FIT制度とFIP制度の比較

出典)経済産業省資源エネルギー庁

脱炭素社会の実現に向けて、今後も再生可能エネルギー比率の上昇が見込まれることを考えると、国民負担を抑制しながら再生可能エネルギー導入を促進するFIP制度の意義は大きいと言えるだろう。

FIP制度が進める再生可能エネルギーの「自立化」

FIP制度の意義として2点目に挙げられるのが、FIP制度による再生可能エネルギーの「自立化」の促進だ。

風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーには、発電量が気候などの自然条件に左右されやすいため、電力需要に柔軟に対応することが難しいという欠点がある。

そのため現時点では、火力発電などの他の電源を利用して、電力需要に応じた総発電量に調整する必要がある。しかし、今後再生可能エネルギーを主力電源としていくためには、再生可能エネルギー自体が電力需要に応じた供給をおこなうことができるようにしていかねばならない。これを「自立化」と呼んでいる。

また、FIP制度は市場価格が高くなる電力需要のピーク時に売電し、市場価格が低くなる需要が少ない時期に販売を抑えた方がビジネスとして有利となる。

再生可能エネルギーの「自立化」を支える技術としては、蓄電池や発電量の予測技術などがあるが、まだ実際に活用されている例は少ない。今後、こうした技術を積極的に活用し、需要量に応じた再生可能エネルギー発電をおこなっていくことが求められている。

写真)蓄電池を利用した再生可能エネルギーの電力供給安定化のイメージ
写真)蓄電池を利用した再生可能エネルギーの電力供給安定化のイメージ

出典)日本ガイシ株式会社

市場取引を基本とし、市場での売電価格に一定のプレミアムが上乗せされるFIP制度では、発電事業者に、電力需要と市場価格に応じて発電量を調整するインセンティブが生まれることは先に述べた。これにより、電力需要に応じた再生可能エネルギー発電がおこなわれるようになると考えられる。

こうした中、FIP制度においては、発電事業者に発電量の見込みである「計画値」と、実際の発電量(実績値)を一致させる、いわゆる「バランシング」が求められる。

計画値と実績値に差が発生した場合は、その差を埋める費用を発電事業者が負担することになっている。したがって、発電事業者は必然的に再生可能エネルギーの発電量を正確にコントロールするようになると想定される。
このように、FIP制度は再生可能エネルギーの「自立化」、ひいては再生可能エネルギーの「主力電源化」を促進するものとして注目されているわけだ。

FIP制度の導入による「アグリゲーション・ビジネス」の発展

FIP制度を導入する意義として3点目に挙げられるのが、「アグリゲーション・ビジネス」が発展することだ。

「アグリゲーション・ビジネス」とは、複数の発電事業者が発電した電力を「統合調整」して、電気の供給を円滑化する事業のことである。この「統合調整」のことを「アグリゲーション:aggregation」という。

FIP制度の下では、各発電事業者に市場での売電と「バランシング」など高度な発電量の調整が求められる。そのため、複数の再生可能エネルギー発電事業者をたばねて、発電量の管理や市場取引の代行などをおこなう、「統合調整」すなわち、「アグリゲーション・ビジネス」が発展すると考えられるのだ。

写真)アグリゲーション・ビジネスのイメージ
写真)アグリゲーション・ビジネスのイメージ

出典)経済産業省資源エネルギー庁

もう少し説明すると、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーは、従来の火力発電などよりも小規模な発電所で発電がおこなえるために、小規模発電事業者が分散して発電をおこなう、「エネルギーの分散化」に繋がるといわれてきた。

この「エネルギーの分散化」は、大規模災害などへの備えには有効だが、各発電業者が発電した電力を、電力消費者に最適に供給することが難しい。

そのため、再生可能エネルギーの普及をさらに進めるに当たっては、発電事業者の電力を統合調整し、電力供給の最適化をおこなう「アグリゲーション・ビジネス」の発展が必要だと考えられるようになったのだ。

以上のことから、FIP制度の導入は、「アグリゲーション・ビジネス」の発展を促し、再生可能エネルギーを中心とした社会を実現するために重要な施策といえそうだ。

写真)アグリゲーション・ビジネスのイメージ
写真)アグリゲーション・ビジネスのイメージ

出典)東芝エネルギーシステムズ

政府は、2030年までに温室効果ガスの排出量を46%削減することや、再生可能エネルギーの導入率を22~24%にするといった目標を掲げており、今後も再生可能エネルギーのさらなる普及と将来的な主力電源化は、日本のエネルギー政策において最優先課題となっている。

FITからFIPへの移行は、再エネが導入初期から本格的な普及期へと入ってきたことの現れであり、FIP制度下で事業者の工夫などが進展し、再エネが他電源と同様に自立した電源になることが期待されている。最終的に補助が不要となる競争力を持つことが、再エネの主力電源化の必須条件といえよう。

こうした野心的な目標を達成し、再生可能エネルギーを中心とした持続可能な社会を実現するために、FIP制度に期待がかかる。同制度が実際にどのように機能していくのか、今後とも見守っていく必要があるだろう。

  1. 卸電力取引市場
    電力自由化にともなう2003年の第3次電気事業制度改革の一環として、国内唯一の会員制卸電力取引市場である「日本卸電力取引所(JEPX)」が設立された。事業者の供給量と需要量の季節毎・時間毎に起こる電力の過不足分を市場で販売・調達できる。2009年に一般社団法人になり、取引会員は大手電力会社に加えて、新電力各社、エネルギー、石油事業、商社などの一般企業など300社に迫る。(2022年3月11日現在)
安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
・日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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