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テクノロジーが拓く未来の暮らし

Vol.37 「世界最大級の干満差」で潮流発電

写真)水力発電向け機器製造などを手がけるグローバル企業、Andritz Hydro Hammerfest社のHS1000 2014年末、同社は英国の潮流開発会社MeyGen Ltd.からスコットランドのペントランド湾内海峡向けに、1.5MW潮流タービン3基を受注した。(記事中のカナダ「イシュカ・タパ潮流発電事業」には写真とは異なるAndritz Hydro Hammerfest社の新型式の水中タービン発電機が使われる予定)

写真)水力発電向け機器製造などを手がけるグローバル企業、Andritz Hydro Hammerfest社のHS1000
2014年末、同社は英国の潮流開発会社MeyGen Ltd.からスコットランドのペントランド湾内海峡向けに、1.5MW潮流タービン3基を受注した。(記事中のカナダ「イシュカ・タパ潮流発電事業」には写真とは異なるAndritz Hydro Hammerfest社の新型式の水中タービン発電機が使われる予定)
出典)Andritz

まとめ
  • 日本は再生可能エネルギーの主力電源化に取り組んでいる。
  • そうした中、「潮流発電」が新たな選択肢として注目されている。
  • 中部電力らがカナダの潮流発電事業に参画。技術の発展・普及の第一歩に。

急務とされる再生可能エネルギー導入。日本の取り組みは一定の成果を上げている。例えば太陽光発電は、導入容量で世界第3位。平地面積当たりの再エネ発電量は世界第1位。国際的に見ても高い水準だ。

画像)各国の太陽光導入容量
画像)各国の太陽光導入容量

出典)経産省「今後の再生可能エネルギー政策について」2021年3月1日

画像)平地面積当たりの各国再エネ/太陽光・陸上風力の発電量
画像)平地面積当たりの各国再エネ/太陽光・陸上風力の発電量

出典)経産省「今後の再生可能エネルギー政策について」2021年3月1日

それでも、カーボンニュートラル達成・再エネの主力電源化には不十分だ。今後さらなる追加導入をおこなうことが必要とされる。太陽光発電に適した土地が減少しているとも言われる今、新たに発電ポテンシャルを掘り起こすことが不可欠だ。

画像)再生可能エネルギーの導入状況
画像)再生可能エネルギーの導入状況

出典)経産省「今後の再生可能エネルギー政策について」2021年3月1日

潮流発電

今回取り上げるのは「潮流発電」。潮の満ち引きの運動エネルギーを使った発電方法だ。かつて、波の力を利用して発電する「波力発電」をとりあげたことがある(参考記事:「洋上風力発電と波力発電の大いなる可能性」)が、それとは異なる。

現時点で商用化の事例は世界的にも少なく、日本も導入目標値を掲げていない。しかし近年、再エネの新しい選択肢として注目を集めている。

期待の理由はその特徴にある。「系統の安定性維持」、「自然条件への対応」、「社会制約への対応」の3点において優れており、太陽光発電・風力発電の弱点をカバーできる。

1「系統の安定性維持」

太陽光発電や風力発電は、出力を天候に左右されやすい。それに対して潮流は規則的だ。潮流とは、月・太陽の引力によって起こる、1日に2回または4回の周期的な潮の満ち引きのこと。1日の中の出力差はあるものの、その変動は高精度に予測可能。そのため、年間を通じて安定した発電が可能で、系統への影響も小さい。

2「自然条件への対応」

太陽光発電・風力発電導入における課題の一つは、日本の自然条件だ。どちらも設置に適した場所が少ない。また日射量が少ない日本は太陽光発電にとってハンディとなるし、風力発電に適した風況の地域も限られている。一方、四方を海に囲まれた海洋国である日本は、潮流発電導入には有利だ。

3「社会制約への対応」

太陽光発電や風力発電の設備の設置に際しては、農業など他の土地利用目的との調整や、景観への配慮が必要になる。しかし潮流発電では、タービンそのものを海中に設置するため、このような陸地の制約は少ない。

商用化への第一歩

欧米では実証実験が重ねられ、一部は商用段階に入っている。一方、日本はまだ実証段階にとどまっており、商用化が急がれる。このほど、新しい動きがあった。

中部電力と川崎汽船による、カナダ「イシュカ・タパ潮流発電事業」参画だ。

画像)イシュカ・タパ潮流発電事業
画像)イシュカ・タパ潮流発電事業

出典)中部電力株式会社・川崎汽船株式会社プレスリリース「カナダにおける潮流発電事業に係る共同開発契約の締結について」2021年8月4日

イシュカ・タパ潮流発電事業」は、カナダ・ノバスコシア州の「ファンディ湾」でおこなう潮流発電事業である。中部電力と川崎汽船は2021年8月、開発を主導するアイルランド企業「DP Energy」と共同開発契約を締結。日本企業が海外で潮流発電事業に参画する初の事例となった。

図)Andritz Hydro Hammerfest社のHS1000の内部アニメーション
図)Andritz Hydro Hammerfest社のHS1000の内部アニメーション

出典)ANDRITZ GROUP公式Youtube

中部電力と川崎汽船はいずれも、環境への取り組みに積極的な企業だ。それぞれ、「ゼロエミチャレンジ2050」、「環境ビジョン 2050」という環境方針を掲げている。前者は「事業全体のCO2排出量ネット・ゼロに挑戦し、脱炭素社会の実現に貢献」を、後者は「2050年GHG(温室効果ガス)排出ネットゼロ」という高い目標を掲げている。同事業への参画は、その実践の1つだ。

画像)潮流発電に用いる水中タービン発電機の一例(イシュカ・タパ潮流発電事業)
画像)潮流発電に用いる水中タービン発電機の一例(イシュカ・タパ潮流発電事業)

出典)中部電力株式会社・川崎汽船株式会社プレスリリース「カナダにおける潮流発電事業に係る共同開発契約の締結について」2021年8月4日

中部電力株式会社 執行役員 経営戦略本部 部長(海外事業担当)の佐藤裕紀氏は、「本事業はグローバルな脱炭素社会に貢献する次世代海洋エネルギー利用の第一歩になると期待しています」と述べ、また、川崎汽船の担当役員・金森聡氏は、「本事業を通じてパートナー会社と共に国際海上輸送の分野で培った経験も活かしながら社会の脱炭素化を支える事業の担い手となることを目指します」とコメントしている。

発電システムの運転開始は2023年。最終的には出力4.5MWの運用を目指している。商用電源として十分な発電量が期待できる規模だ。この発電容量を可能にする鍵は、ファンディ湾の特徴にある。実はこの湾の干満差は世界最大級だ。カナダ観光局によると、湾を1日に2回出入りする水量は1600億トンにのぼる。

同事業では、カナダの地元電力事業者との間で15年間の電力販売契約を締結する予定である。また、カナダ天然資源省より事業に対する補助金として総額約3,000万カナダドルを受領する予定としている。

日本や世界で潮流発電の商用化が進む足がかりとして期待が高まる。

潮流発電の課題

ただし解決すべき課題もある。コストの問題だ。

潮流発電の発電コストは設置場所の地形に大きく左右されるため、一概に比較することは難しい。

少々古いデータではあるが、NEDO(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)の2014年時点の試算によれば、太陽光発電の発電コストと比較しても高い水準だ。

「潮流発電では,プレ実証プロジェクトの発電コストは 59~70 円/kWh であるが,実証プロジェクトでは 23~32 円/kWh まで削減されると試算されている.2020 年には 23~26 円/kWh までコスト削減が進むと考えられている」

表)波力・潮流発電の発電コスト試算例(万円kWh)
表)波力・潮流発電の発電コスト試算例(万円kWh)

出典)独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「NEDO 再生可能エネルギー技術白書 第2版―再生可能エネルギー普及拡大にむけて克服すべき課題と処方箋―」2014年2月)

画像)2019年における発電コスト
画像)2019年における発電コスト

出典)独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「太陽光発電開発戦略 2020」2020年12月

コストを低下させるために必要なことは何か。一つは高効率の発電を可能にする技術開発だろう。もう一つ考えられるのは、潮流発電に適した場所の見極めだ。流速や地形が不適切であれば、発電効率が悪く、高コストなものになりかねない。

全ての湾がファンディ湾のような特徴を持つわけではない。英国貿易産業省(DTI)の試算では、世界全体の潮流発電のポテンシャルは 3,000GW。ただし発電に適しているのは、そのうち3%程度だという。

画像)世界の潮位分布
画像)世界の潮位分布

出典)独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「NEDO 再生可能エネルギー技術白書 第2版―再生可能エネルギー普及拡大にむけて克服すべき課題と処方箋―」p.21-22 2014年2月

日本における潮流発電のポテンシャルは約22GW、適地を考慮すると現実的な導入量は約1.9GW、発電可能量は年間電力需要の約 0.7%と試算されている。

しかしこれらの試算はいずれも約10年前のもの。潮流の強さ速さを詳細に調査することが、潮流発電を実用化する重要なステップになる。日本には、瀬戸内海や九州西岸、津軽海峡など適地として期待できる地域がある。

画像)日本の潮流エネルギー密度
画像)日本の潮流エネルギー密度

出典)独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「NEDO 再生可能エネルギー技術白書 第2版―再生可能エネルギー普及拡大にむけて克服すべき課題と処方箋―」p.23 2014年2月

天候に左右されにくい潮流発電は、適地さえ確保できれば導入できる。現段階では課題が残るとはいえ、魅力的なエネルギーといえるのではないだろうか。

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
・日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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