写真)Energy Vault社の重力蓄電実証機 Castione, Switzerland
出典)Energy Vault社 HP
- まとめ
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- 再生可能エネルギーは供給量が不安定で、蓄電が不可欠。
- 現在は揚水発電や蓄電池が主流だが、コストや効率に課題。
- 重力の位置エネルギーを活かした重力蓄電池の実用化が期待される。
政府は10月22日、エネルギー政策の中長期の方向性を示す「エネルギー基本計画」を3年ぶりに改定し、閣議決定した。再生可能エネルギーの普及に「最優先」で取り組むと明記。2030年度の総発電量に占める再生可能エネルギーの割合を「36~38%」と、前回「22~24%」から大幅に引き上げた。
再生可能エネルギーのうち、太陽光発電や風力発電は、天候の変化により発電出力が不規則に変化する。したがって、需要量に応じて発電量をコントロールすることは難しい。再生可能エネルギー発電を活用するためには、蓄電システムが必要になる。つまり、発電量が需要量を上回ったときに蓄電し、下回った時に放電するというわけだ。
今回は、さまざまな蓄電システムを紹介する。
これまでの蓄電システム
蓄電といえば、これまで「揚水発電」がその役割を担ってきた。水力発電は上流の貯水池からの水流の力でタービンを回し発電するものだが、揚水発電は、その水を一旦下流の貯水池に貯めておき、発電電力の余剰分を使って水を上流の貯水池に汲み上げる仕組みだ。これにより、供給電力を調整することができる。
すなわち、電力需要の多いときは水を上から下に落とすことで、発電(放電)し、逆に電力需要が少ないときは、電気を使って上部貯水池へ水を汲み上げることで、次の発電に備える(蓄電)のだ。
高い所にある物体は、重力によって落下すると他の物体に当たってそれを動かすことができる。つまり、高いところにあるだけでその物体はエネルギーを持っている。これを、重力による位置エネルギーと言う。揚水発電は、水の位置エネルギーを電力に変換することで、蓄電と放電を行っていることになる。
これまで揚水発電の多くは昼間に発電し、夜間に揚水(蓄電)するのが一般的だった。しかし、近年は九州地方など、太陽光パネルの設置が急速に進んだ地域を中心に、昼間の電力供給量が需要量を大きく上回り再生可能エネルギー発電の出力を制御するという事態が生まれている。産業集積地である中部地方では電力需要が多く出力制御には至ってはいないが、2020年度のGWにおいて多くの工場が操業停止をするため供給量が需要量を上回り、火力発電の出力抑制や揚水運転などによって需給バランスを維持したという。これは従来とは逆に、昼間に再生可能エネルギーで発電した余剰電力を使って揚水(蓄電)し、夜間に発電(放電)する運用であり、その用途は広がっている。
出展)中部電力
出典)中部電力パワーグリッド
揚水発電の課題
従来から使われているこの揚水発電だが、課題が2つある。
1つ目は、微細な出力調整が難しいことだ。電力会社は電力の需要量と供給量を一致させるため、発電所の出力調整をおこなっている。原子力発電や火力発電と比べ、揚水発電の出力調整は容易ではあるものの、数十秒程度の応答時間がかかる。一方、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの出力変動は秒単位で、こうした再生可能エネルギーの増加に伴い現在の調整機能だけでは対応しきれない恐れがある。
2つ目は、コストだ。近年は、後に述べるリチウムイオン電池などの新しい蓄電池の低価格化が進んでおり、揚水発電のコストが割高になりつつある。低炭素社会戦略センターの算出によれば、耐用年数なども考慮に入れた揚水発電の設備コスト(総建設費/蓄電容量)は15 円/Wh、発電コスト(年総経費/年蓄電量)は22.6 円/kWh で、いずれも蓄電池の約1.5倍だった。
加えて、揚水発電に必要な貯水池となる大規模ダムの立地条件は限られており、今後我が国で新たに建設地を見つけるのが困難だという問題もある。
大規模容量蓄電池
こうした中、揚水発電以外の蓄電技術として、大規模容量の蓄電池がある。主な種類は、鉛蓄電池・ニッケル水素電池・リチウムイオン電池・NAS電池などだ。
その中で、リチウムイオン電池は蓄電池の主流となっているが、やはり課題がある。
1つ目は資源が偏在していることだ。例えば、リチウムの埋蔵量は約1億1,100万トンと決して少なくないが、埋蔵量の6割弱をチリが占め、オーストラリア、中国、アルゼンチンのわずか4カ国で9割以上を占めている。
またリチウムイオン電池の生産に不可欠なコバルトは、約半分がコンゴ民主共和国に埋蔵されている。コンゴ民主共和国では内戦が2009年に終息してからも、不安定な政情が続いている。世界全体の埋蔵量も約710万トンと限られており、供給の不安定化が懸念される。
2つ目は長期間の利用に適さないことだ。リチウムイオン電池の寿命は10年程度で、40年以上の使用を想定する揚水発電に比べると短い。また、充放電を繰り返したり、温度変化に晒されたりすると蓄電容量が低下するという問題もある。
3つ目は発火や爆発の危険性があることだ。スマホやパソコンのバッテリーが突然発火することがあるが、主な原因は、製造不良や、製品が水に触れたり急激な力が加わったりすることで、バッテリー内の回路がショートし異常な電流が流れることなどだ。大容量化すれば、より慎重な管理が必要となる。
重力蓄電
こうした中、近年注目を集め始めているのが「重力蓄電」というものだ。
重力蓄電とは、コンクリートなどの重りを上げ下げすることで、電気エネルギーを位置エネルギーに変換する蓄電方法を指す。
そう聞くとえらくローテクな感じがするが、電気エネルギーを位置エネルギーに変換して貯めるという点では、揚水発電と共通だ。重力蓄電は揚水発電や蓄電池の欠点をカバーできるとされる。詳しく見てみよう。
既に、英・スコットランドのGravitricity社とスイスを拠点とするEnergy Vault社が、重力蓄電の実用化へ向けて動き出している。
Gravitricity社の重力蓄電の仕組みは、地中15~150mの穴に500~5000トンの重りを吊し、発電機が取り付けられたウィンチを使って上げ下げするシンプルな構造だ。穴の深さや重りの重さによって、貯蔵できる電力量が変化する。
同社によると、起動から僅か1秒で最大出力に達することができ、応答時間の大幅な短縮が実現可能だという。最低でも25年間劣化することがなく、50年近く使用できることが蓄電池に対する優位性だ。また、リチウムイオン電池に比べておよそ半分のコストで開発、運用ができるとしている。
2021年4月には、スコットランドのエディンバラに高さ15mの実験機を建設し、3か月の実証実験をおこなった。出力は250kWで、25トンの重りを2つ使用しながら性能を確認した。今後はイギリス、ヨーロッパ、南アフリカの廃坑を活用し、4MW(4000kW)級の大規模な実証機の建設を目指す。
出典)Gravitricity
一方、Energy Vault社が開発する蓄電システムは、コンクリートブロックが積まれたタワーとその上に取り付けられた特殊なクレーン車で構成されている。1つ35トンのコンクリートブロックをクレーン車で上げ下げすることで電気エネルギーと位置エネルギーを自在に変換する。
クレーン車の動きを独自のソフトウェアによって自動化しており、同社は、一般的な揚水発電の変換効率が約70%なのに対して90%という高効率を実現したと発表している。30年以上の使用が可能なほか、コンクリートブロックの一部として廃材を活用することで環境負荷を低減し、リチウムイオン電池よりも安価なコストで運用できるとしている。
2018年に創業した新しい会社だが、2019年にはソフトバンク・グループの投資ファンド、Softbank Vison Fund(ソフトバンク・ビジョン・ファンドから1億1000万ドル(約150億円)の出資を受けるなど、国内の投資ファンドからも注目を集める存在だ。
2020年7月には、実験機「EV1 TOWER」をスイスに建設し、ソフトウェアの実証実験に取り組んでいる。高さは120mで最大80MWの電力を蓄電することができる。今後は、より大容量で悪天候にも耐えられ、構造物の高さも40%程度抑えた改良版「EVx」や「EVRC」の開発にも取り組む考えだ。
当たり前のように存在する重力だが、そこには意外なエネルギーが秘められている。
今回紹介した重力蓄電は一見原始的な方法にみえるが、構造がシンプルな分、汎用性が高いうえ、環境への負荷やコストも抑えることができるという点で優れている。
再生可能エネルギーの主力電源化を実現させるには、安定した電力供給が必要だ。ローテク重力蓄電は、再生可能エネルギー拡大の台風の目となる可能性を秘めていると感じた。
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