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編集長展望

Vol.26 「新規開発目標200万kWの半分以上は風力発電で」中部電力株式会社再エネカンパニー鈴木英也社長

写真) Tesla Powerwall

写真) 中部電力株式会社専務執行役員再生可能エネルギーカンパニー社長鈴木英也氏
出典) ©エネフロ編集部

まとめ
  • 再生可能エネルギーカンパニー「2030年頃に200万kW以上の新規開発」へまい進。
  • 新規開発目標の半分以上は洋上風力発電で担うことを目指す。
  • 既存水力の運用最適化、新技術の開発・導入に積極的に取り組む。

「追い風というか、突風です」

再生可能エネルギーカンパニー社長の鈴木氏が思わず口にしたこの一言がすべてを物語っている。再生可能エネルギーを取り巻く事業環境についての率直な思いだ。

今、低炭素化・脱炭素化が世界的に大きな潮流となっている。日本も例外ではない。菅義偉総理大臣は、「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指す」との目標を打ち出している。

写真) 第203回国会における菅内閣総理大臣所信表明演説
写真)第203回国会における菅内閣総理大臣所信表明演説

出典) 首相官邸

再生可能エネルギーカンパニーは、中部電力社内の再生可能エネルギー事業部を格上げして2019年4月に誕生した。「2030年頃に200万kW以上の新規開発」を目標に掲げて、再生可能エネルギーの積極的な拡大を推進している。

図) 中部電力グループの再生可能エネルギー設備容量
図)中部電力グループの再生可能エネルギー設備容量

出典) 中部電力

カンパニーとして取り組む姿勢に、中部電力の本気度が伺える。他の電力会社では、グループ会社が再生可能エネルギー事業を担う例もある。

2016年度の再生可能エネルギー事業部創設以来、組織のトップを務める鈴木氏。現在特に力を注いでいるという次の事業について、話を聞いた。

・ 水力発電の拡大・発電効率向上:未利用落差の活用・AI活用
・ 風力発電の拡大:洋上風力発電の開発
・ バイオマス発電の拡大:PKS(パームヤシ殻)利用への理解獲得
・ 太陽光オーバーフローへの対応:揚水発電所の活用

(C)エネフロ編集部

© エネフロ編集部

水力発電の拡大・発電効率向上:未利用落差の活用・AI活用

まず、水力発電について聞いた。鈴木氏は入社以来長年水力発電に関わってきた。実は筆者の父親も東北電力のダム屋だった。小学生の頃新潟県・奥只見ダムの建設現場に連れて行ってもらった思い出がある。そんな縁もあり、真っ先に水力発電について聞いてみようと思ったのだ。
水力発電は寿命が長い電源だ。中部電力の水力発電所は平均約80歳。100歳を超えた発電所が38も稼働しているという。投資という意味では、短期的に競争力を向上するには不向きであり、ハードルは高いと思われたが、「社内には理解があった」と鈴木氏。「長期の視点で競争力を少しでも高められるようにという開発の意識がある」という。実際、既存の水力発電所の運用最適化に関し、新たな取り組みが進められている。

例えば「未利用落差の活用」。活かせていないわずかな高低差を最大限利用できるよう、中部電力の全水力発電所について未利用落差を調査した。これによって生まれたのが、長野県飯田市で建設中の黒川平水力発電所だ。新大田切水力発電所の放水口から河川までの未利用落差を活用して発電する。このように小さなエネルギーも見逃さず、新たな発電所の建設や既存設備の改良につなげている。岐阜や静岡などでも新規の水力発電の工事が進行中だ。

AIの活用」にも挑戦する。河川の流出量は、天候や地形、川沿いに連なる発電所の運行状況などに左右される。水の流れを無駄なく電気エネルギーに変換するためには、これら多くの変数を含む複雑な方程式を解かなければならない。従来は、経験に基づく職人技的な判断に頼ってきた。しかし「それをAIでやれば、日々運用を変えられるので楽になるし、経験だけでは気づけなかった運用があるかもしれない」と期待する。

写真) 越戸水力制御所のダム監視状況
写真)越戸水力制御所のダム監視状況

出典) 中部電力

「欲を言えば、」と鈴木氏。一日のうちの電力需給バランスの変化や、太陽光発電や風力発電の供給電力の変化をも組み込んだ方程式をつくりたいと考えているという。まず第一歩として今年、非常に複雑な水系を持つ飛騨川での適用が検討されている。既存の設備もテクノロジーの力でより効率的に利用できることに期待したいと思う。

風力発電の拡大:洋上風力発電の開発

再生可能エネルギー導入量拡大の鍵を握るのが「風力発電」だ。
鈴木氏は、「洋上風力が一番開発量を担ってくれる電源。一番の肝だ」と明確に位置付ける。新規開発目標「200万kW」の達成は、半分以上を洋上風力発電で担うことが必要条件だ、と言い切る。

洋上風力発電の開発は唯一、公募入札制で行われる。公募入札制に基づく開発には、特有の困難がある。電源開発一般において大切なのはまず、緻密な調査、建設地点発掘、地元・行政からの理解獲得、そして設計だ。「ただ入札制は、いくら準備しても蓋を開けたらダメになることもある」と鈴木氏。「やれることをとことんやるしかない。プレッシャーはあるが、やりがいはある。みんな頑張っている」。現在は秋田、千葉でプロジェクトが進行中だ。

写真) 鈴木英也氏。座右の銘は「人事を尽くして天命を待つ」。「最初から天命を待っていたらただのさぼりですが、『人事を尽くす』というところが大事なんだろうな」。
写真)鈴木英也氏。座右の銘は「人事を尽くして天命を待つ」。「最初から天命を待っていたらただのさぼりですが、『人事を尽くす』というところが大事なんだろうな」。

© エネフロ編集部

鈴木氏は、なお一歩先を見据えている。それは「浮体式」洋上風力発電所の開発だ。日本にとって、技術開発と運用で成長する大きな潜在的可能性を秘めている。現在取り組んでいる「着床式」と比べ、設置可能領域が広いこと、世界各国の技術開発段階に未だ大きな差がないことがその理由だ。

図) 陸上・着床式・浮体式の区別
図)陸上・着床式・浮体式の区別

出典) 中部電力「浮体式洋上風力の水理模型実験」

重要なのは、安定性と経済性だ。鈴木氏は、五島列島の浮体式風力発電所が超大型の台風を複数回経験していることを挙げた。「それをいかに安く造るかはこれからだ」。

写真) 運転中の「崎山沖2MW浮体式洋上風力発所」。所有者:五島市。運転管理者:五島フローティングウィンドパワー合同会社。2016年3月より日本で初めての浮体式洋上風力発電所として実用化し運転を開始。定格出力2000kwの風車1基、福江島崎山漁港沖約5kmの海上に浮かぶ。
写真)運転中の「崎山沖2MW浮体式洋上風力発所」。所有者:五島市。運転管理者:五島フローティングウィンドパワー合同会社。2016年3月より日本で初めての浮体式洋上風力発電所として実用化し運転を開始。定格出力2000kwの風車1基、福江島崎山漁港沖約5kmの海上に浮かぶ。

出典) haenkaze.com

バイオマス発電の拡大:PKS利用への理解獲得

洋上風力発電のみ新規開発を行い、2030年頃に100万kW以上というのは、極めて高い目標だ。「難しい目標だが、それを少しでも軽くするために陸上風力、バイオマスでできるだけ増やしていこうと思っている」と鈴木氏は話す。

図) 中部電力グループ全体発電設備容量
図)中部電力グループ全体発電設備容量

出典) 「中部電力グループレポート2020」

バイオマス発電開発の障壁になっているのが、パームヤシ殻(PKS)の認証取得問題だ。パームヤシは、産地での熱帯雨林の破壊や劣悪な労働環境が問題視され、燃料としての使用に批判の声があがっている。それを受けてPKSについても、人権や環境について配慮を保証する第三者認証の取得が困難となっている。

中部電力は、PKSを100%または混合燃料の一部として利用するバイオマス発電所を5か所で計画中だ。「PKSはパームオイルの残渣物を有効利用している。バイオマス協会と一緒にそこをしっかり説明し、日本のPKSのバイオマスが認められるようにしていかなければいけない」。

写真) 四日市バイオマス発電所
写真)四日市バイオマス発電所

出典) 中部電力

太陽光オーバーフローへの対応:揚水発電所の活用

再生可能エネルギーは不安定で、電力を安定供給するのが難しい。例えば、電力の供給過多(オーバーフロー)は最悪の場合、停電を招く恐れがある。太陽光発電の導入が進む九州電力管内では2017年4月、太陽光発電による出力が需要の7割を超え、火力発電を一時的に減らすなど苦しい対応を迫られた。

中部電力エリアでは現状オーバーフローの問題はほとんど見られない。しかし「(発電量は)どんどん増えてきているので、いずれそういう時が来るのは時間の問題」と鈴木氏は話し、対策として、大きな蓄電池として機能する「揚水発電所の活用」を挙げた。「それが必要な時に必ず動くように手厚くメンテナンスして動かしている」。

図) 揚水式発電の仕組み
図)揚水式発電の仕組み

出典) 中部電力

鈴木氏は、「今はネットワークが電気を貯める役割を担っている。将来的に発電側でも、例えば蓄電池の大型化などに取り組んでいかなければいけない時代が来るだろう」と語った。

おわりに

中部電力社内の各分野の専門家が集まり、縦割りシステムを打ち破ってつくられた再生可能エネルギー事業部(現 再生可能エネルギーカンパニー)。商社・金融・ディベロッパーなどこれまであまり縁が無かった他業種との協働も増えている。鈴木氏は、「すごく刺激的。プレッシャーもあるが楽しい」と目を輝かせる。

写真) 鈴木英也氏。「何屋だとか関係なくて『再エネ屋』だという思いでやってもらえるようにしてきました。それから、技術営業だと思ってとにかくとことんやってパートナーの企業から信頼を得ようと」
写真)鈴木英也氏。「何屋だとか関係なくて『再エネ屋』だという思いでやってもらえるようにしてきました。それから、技術営業だと思ってとにかくとことんやってパートナーの企業から信頼を得ようと」

カンパニー社長就任時には、特別な使命感を感じる出来事があった。社の大先輩から、激励の手紙を受け取ったのだ。「それを読んで震えました」と鈴木氏。「高度成長時代に水力発電所のダム建設をやってきた先輩に対して恥ずかしくないように、私たちは脱炭素の中で再生可能エネルギーを頑張っていかないといけない」。そう前を向いた。意気込みは今も変わらない。

「2030年頃に200万kW以上の新規開発」という大胆な目標に向かって突き進む、再生可能エネルギーカンパニー。エネフロ編集部は、そのプロセスを今後も見守っていく。

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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