写真) 四足歩行型ロボット「Spot」による屋内電力設備巡視
出典) 中部電力株式会社
- まとめ
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- 電力事業者と関連協力企業や研究機関、大学などによる研究成果の紹介、「テクノフェア2020」が開催。
- 今回紹介するコンテンツのテーマは「電力業界×ロボット」。
- 5Gを活用した電力事業でのユースケースの検証や四足歩行型の巡視ロボットの実証実験がおこなわれている。
電力事業者は、現代社会において欠かすことのできないエネルギーを安全に、そして安定的に社会に届けるために、日々研究と技術開発に取り組んでいる。今年も、電力事業者と関連協力企業や研究機関、大学などによる研究成果の紹介「テクノフェア2020」(主催:中部電力株式会社技術開発本部)が開催された。
今年は新型コロナ感染症拡大もあり、ホームページ上でのWEB展示会がメインとなっている。編集部が特に興味を持った展示の一部を前回に引き続き紹介する。
昨今の自然災害の激甚化により、電力業界は、現場での安全確保や業務の効率化に加えて、災害発生時の迅速な情報収集と設備復旧などが重要な課題となっている。それら課題を解決するため、ロボットの活用が研究・開発されるようになってきた。特に、電力設備の巡視業務を安全かつ効率的に行うための巡視ロボットが注目されている。
今回は、「テクノフェア2020」で展示された「電力業界×ロボット」をテーマにした研究開発を紹介する。
5G×ロボットによる巡視業務の効率化
最初に紹介するのは、「5G(5th Generation:第5世代移動体通信システム)を活用した巡視ロボット」だ。
今や、あらゆるモノがインターネットにつながる、いわゆるIoT (Internet of Things:モノのインターネット)の普及がグローバル規模で進んでいる。すでに、スマートフォンやパソコンだけでなく、乗り物や家電など、あらゆる機器がインターネットにつながる時代となっている。5GはこのIoTの普及に拍車をかけることが期待されている。
従来の無線ロボットは、遠隔操作時においてリアルタイム性に課題があった。そこで、大量で高速な情報伝達が可能となる技術開発が求められてきた。こうした背景から、中部電力株式会社とKDDIは、変電所における現場業務の効率化に向け、5Gを活用した共同検証をおこなっている。
(1) 5Gの特徴
なぜ5Gなのか?それには5Gの特徴を知る必要がある。以下の3つの特徴を見てみよう。
1.「高速・大容量」:高速で大容量な通信によって、より高精細な画像や動画の利用が可能となる。(通信速度最大10Gbps:bit/秒)
2. 「低遅延」:通信において遅延が短縮され、リアルタイムに近い通信が可能となる。(遅延1m秒程度)
3.「同時多接続」: 多数の機器に同時に接続ができ、IoT分野での活躍が可能となる。(100万台/㎢)
※この「5G」の3つの特徴は目標性能であり、現状、実現されている訳ではない。
(5Gについては、エネフロのこちらの記事を参照:「5Gで社会が変わる超高速通信の衝撃」)
出典) 総務省
(2) 「5G」を活用した実証実験の内容
KDDIの協力の元、中部電力株式会社は、変電所と研究所の2拠点に5G環境を構築した。そして、上記の5Gの特徴を活用し、ロボットによる遠隔からの監視や巡視、作業支援などの実運用を見据えた様々な検証をおこなっている。具体的な検証内容を説明する。
出典) 中部電力株式会社
(3) 検証内容
主な検証内容は2つ。
まず「建物構造物による通信への影響を調査」し、次に「変電所におけるユースケースを想定した検証を実施し、有用性・利便性を評価」している。
・ 建物構造物による通信への影響
変電所には大型変圧器など遮蔽物がある。5G向けの28GHz(ギガヘルツ)の電波は障害物の影響を受けやすいため、その影響を検証している。また、4GやWi-Fiとの違いなども確認している。
出典) 中部電力株式会社
・ 変電所におけるユースケースを想定した検証
出典) 中部電力株式会社
次に変電所で実際に5Gを活用した検証事例について紹介する。
まず、「巡視ロボットの遠隔運転操作」。中部電力株式会社と三菱電機株式会社は、現場業務の効率化や災害発生時の迅速な情報収集を目的とした自律走行可能な巡視ロボットを共同開発し、5Gを活用した遠隔操作の実証実験をおこなっている。
出典) 中部電力株式会社
巡視ロボットは、災害発生時は特に、不安定な砕石上の走破性が求められる。遠隔操縦でも悪路を安定して走行できるかどうか検証している。
またロボット使用時には、周辺状況が詳しくわかるように高精細な映像を送信できることと低遅延である事が求められる。実証実験により、遠隔操作であっても映像品質を確保でき、リアルタイムに伝送できるかどうかを検証している。
興味深いのは、ロボットの目(カメラ)を人の目線の高さに合わせる工夫だ。既存設備のメーターや表示類は当然のことながら、人間の視点に合わせて設置されている。このロボットはアームによりカメラの高さを調節することが出来るというきめ細やかな性能を誇る。また、設備の運用状況によって、監視対象や内容が変わるため、監視項目に対応したセンサーが搭載可能となっている。これらの仕様から、高画質映像と大容量データの取得が可能となることを検証している。
出典) 中部電力株式会社
さらに現場作業者が、メガネのようにグラス越しに映像をみることができる「スマートグラス」を装着することによって、視界を遠隔にいる作業指示者に高精細映像で共有する実証もおこなっている。作業指示をリアルタイムに現場作業員のスマートグラスの画面上へ表示することが可能となり、作業の効率化が図られる。
また、「MECサーバ活用によるAI分析」により、AIを活用する検証もおこなっている。MEC(マルチアクセスエッジコンピューティング)とは、一定エリア内の通信処理の効率化を図る技術のことで、エリア内にサーバを設置することにより、インターネットにアクセスするまでの時間を大幅に短縮し、より早い通信が可能になる。このMECを活用し、カメラからの映像をAI(人工知能)で解析することによって、不審者の侵入監視や設備異常の早期検知、作業員の安全確認などへの活用が期待される。
出典) 中部電力株式会社
四足歩行型巡視ロボット
出典) Boston Dynamics
2つ目に紹介するのは、「四足歩行型の巡視ロボット」だ。従来、電力業界では、従来現場作業員による点検や記録業務などの巡視業務がおこなわれてきた。しかし、作業員の高齢化に伴う技能伝承や人員不足といった問題も浮上してきたため、ロボット活用による自動化が検討され始めた。
中部電力株式会社とソフトバンクロボティクス株式会社およびソフトバンク株式会社は、最先端のロボット技術を保有するBoston Dynamics社の四足歩行型ロボット「Spot(スポット)」を世界に先駆けて電力設備で活用することを目指し、本格活用に向けて実証実験をおこなった。
1つ目のSpotの特徴は、「不整地な路面や段差の歩行移動が可能」であることだ。また、本体に搭載されているカメラによって、巡視や点検対象を撮影することもできる。
出典) 中部電力株式会社
2つ目の特徴は、「変化する現場への適応力」だ。決められたルートに沿って自律移動し、障害物を自動で回避することが可能なため、日々変化する現場にも適応できる。
このように電力事業者は、関連会社とともに、電力設備でのロボット活用の効果を検証し、現場における生産性向上や業務効率化を目指して奮闘している。また、これらの先端技術は、安全性やレジリエンス(強靱性)の強化のためにも極めて重要だ。2回にわたって紹介した技術開発事例はほんの一部だ。それ以外の事例は、「テクノフェア2020 WEB展示会」(12月18日まで開催)をご覧いただきたい。
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