画像) ゴミ廃棄場(インドネシア)
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- まとめ
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- 廃棄物(ゴミ)から水素を製造する技術が日米で開発された。
- 日本は国内での水素製造に加え、国際水素サプライチェーンも構築中。
- 再生可能エネルギーへの取り組みや水素社会構築に向けて課題は多い。
「ゴミ」の排出は世界的に問題視されてきた。しかしそのゴミがエネルギーの原料になるとしたらどうだろう?
そんな夢のような話が今、テクノロジーの力で現実になろうとしている。その最前線を紹介する。
今、ゴミの山から水素を抽出して燃料にする技術が注目を集めている。ゴミから本当に水素が生まれるのか?その最先端の仕組みを見てみよう。
全米1のゴミ投棄場
アメリカのカリフォルニア州イースト・ロサンゼルスにある「プエンテヒルズごみ投棄場」は、ゴミの量が全米1である。
出典) ロサンゼルス郡衛生地区
ゴミに含まれる有機物が微生物に食べられると、二酸化炭素とメタンが混ざった有毒なガス(埋立地ガス)が発生する。プエンテヒルズにあるエネルギー回収プラント(発電能力50MW)は、この埋立地ガスを地中に張り巡らせたパイプによって回収し、蒸気タービン発電機に供給している。
廃棄物を原料に
このプラントは、ゴミから発生したガスを燃やして発電するものだが、Ways2Hというアメリカのエネルギーベンチャー企業は全く別の発想で新たなビジネスモデルを作ろうとしている。
創業者はジャン・ルイ・キンドラー。彼は、世界中の廃棄物を原料にして未来の燃料「水素」を製造すると宣言している。
出典) Ways2H
このビジネスモデルが誕生した背景には、日本企業との長年のパートナーシップがあった。株式会社ジャパンブルーエナジーがその会社だ。
Ways2Hはジャパンブルーエナジーと共に20年間近くの研究開発期間を経て、都市固形廃棄物、医療廃棄物、プラスチック、下水汚泥の様々な廃棄物から水素を抽出することに成功した。2020年10月には、廃棄物から水素ガスを製造する初の処理施設をカリフォルニアにて建設予定だ。第一段階として、1日あたり1トンの廃棄物を処理し、1日あたり40〜50キログラムの水素を生産する計画だという。
出典) Ways2H (写真提供:JBEC / TsubasaEngineering)
このシステムは、廃棄物を焼却しないのが特徴だ。熱媒体としてアルミナボール(セラミック球)を使用する。まず熱分解器で下水汚泥等のバイオマス原料が加熱されたアルミナボールに接触、メタン等のバイオガスが発生する。さらに改質器でこのガスがより高温のアルミナボールと水蒸気に接触し、最終的にバイオ水素が製造されるというものだ。Ways2Hは来年以降、同プラントの商業化を目指している。
日本のゴミの現状
ここで日本で一体どのくらいのゴミが排出されているのか見てみよう。
下のグラフによると、ごみ総排出量は平成24年(2012年)から減少傾向にある。とはいっても、平成30年度(2018年度)は4,272万トン、東京ドーム約115杯分にあたるのだから、相当な量だ。
出典) 環境省
ごみの排出量を排出形態別でみると(以下グラフ)、平成30年度(2018年度)は生活系ごみが2,967万トン、事業系ごみが 1,304万トンであり、生活系ごみが約69%を占める。
出典) 環境省
日本は食品ロスが多いことで知られる。飲食店やコンビニで働いた経験のある人なら、その廃棄の多さを痛感したことがあるだろう。
以下の図をみると、平成28年度(2016年度)時点で日本の食品廃棄物等は年間2,759万トン、うち食品ロスは643万トンである。また、家庭系食品ロスをみると291万トンと、約半分が一般家庭から出ていることが分かる。
出典) 環境省
日本の生ゴミ発電
生ゴミは有機性資源の「バイオマス」と捉えると立派な資源エネルギーである。生ゴミ発電は様々な地域で既に商用化している。
愛知県豊橋市では「豊橋市バイオマス資源利活用センター」が2015年から稼働中だ。下水汚泥、し尿・浄化槽汚泥、生ごみをメタン発酵処理して発電、販売量は680万kWh/年で一般家庭換算約1,890世帯分に相当する。
神奈川県横須賀市の「Jバイオフードリサイクル横浜工場」は、2018年から営業開始、JR東日本の駅ビルのレストランや、駅舎の飲食施設、弁当工場などから集めた食品廃棄物(生ゴミ)をメタン発酵させ、発生するバイオガスを収集して燃焼させ発電する。一日80トンの廃棄物を受け入れ、発電量は年約1100万kWh/年、一般家庭約3000世帯分の年間電力量に相当するという。
出典) 豊橋市上下水道局
出典) Jバイオフードリサイクル
このように我が国では、生ゴミなどの廃棄物を発酵させ、発生したガスで発電する設備は多いものの、先に述べた廃棄物から直接水素を取り出す試みはまだ発展途上だ。
水素エネルギー社会
こうした中、日本が水素エネルギー社会の実現に力を入れていることはあまり知られていない。背景には、日本がエネルギーの大半を化石燃料に頼っている現状がある。
2019年には経済産業省が「水素・燃料電池技術開発戦略」を策定した。重点的に取り組む分野を「燃料電池」、「水素サプライチェーン」、「水電解・その他」の3つとし、技術開発10項目を定めている。
出典) 経済産業省
3分野の内、燃料電池は既に車に搭載され市販されている。水素を燃料とする、「燃料電池車」(Fuel Cell Vehicle:FCV)がそれだ。ほとんど目にしたことはないかもしれない。なぜなら今のところ、ハイブリッド車(Hybrid Vehicle:HV)やプラグインハイブリッド車(Plug-In Hybrid Vehicle:PHV)、電気自動車(Electric Vehicle:EV)などが普及期だからだ。FCVの時代はまだまだ先になりそうだ。
出典) トヨタ自動車
そして「家庭用燃料電池」だが、こちらは既にかなり普及している。「エネファーム」と呼ばれ、都市ガスやLPガスから取り出した水素と空気中の酸素を化学反応させて発電する。このとき発生する熱でお湯を沸かし、給湯にも利用できる。これまでに累積約30万台が普及している(エネファーム普及推進協議体「エネファームパートナーズ」調べ 2019年11月現在)
出典) NEDO
水素サプライチェーン
そして水素サプライチェーンの重点項目の一つ、「大規模水素製造設備」。
以前の記事でも触れたが、今年、再エネを利用した世界最大級の水素製造施設「FH2R」が福島県浪江町に完成、稼働を開始した。その名を「福島水素エネルギー研究フィールド」という。再生可能エネルギーなどから毎時1,200Nm3(定格運転時)の水素を製造する能力を持つ。この水素は、2020東京オリンピック・パラリンピックでも利用される予定だ。
また、海外で製造した水素を日本に運送する「国際水素サプライチェーン」の構築も始まっている。外国の未利用エネルギーや再生可能エネルギーを水素に転換し、日本に輸入することで、エネルギー安全保障や低炭素化に貢献する。
出典) 経済産業省 資源エネルギー庁
出典) エネルギー資源庁
水素を巡る様々な取り組みを国内外で見てきた。地球温暖化対策の観点からのみならず、日本のエネルギー安全保障の観点からも、水素社会構築は重要な政策であることには違いない。
日本は今、エネルギー政策の中長期的な指針となる「エネルギー基本計画」の改定に向けた議論を始めている。電源構成の内、再生可能エネルギーの比率をどこまで高められるかも重要な課題だ。今後の議論はより一層複雑で難しいものになりそうだ。
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- エネルギーと環境は切っても切れない関係。持続可能な環境を実現するために、私達は「どのようなエネルギー」を「どのように使っていくべき」なのか、多面的に考える。