出典) 写真AC
- まとめ
-
- 東日本大震災以降、インターネットを活用した災害情報発信が発達。
- 被災者自らが情報を発信できる反面、デマに惑わされる恐れも。
- あらかじめ信用できる情報源の確保とデマを拡散しない心構えを。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言が延長された。ゴールデンウィークも自粛が続いたが、次は経済の段階的再開が課題となりつつある。
そうした中、長野県、茨城県、千葉県、鹿児島県などを震源とする地震が4月以降頻発しており、不安を覚えている人も多いのではないか。
災害時に大切になるのが情報収集だ。今置かれている状況をいち早く把握し、次の行動に繋げることが被害を最小限に抑えるうえで重要となる。
東日本大震災以降、災害情報を入手するためのあり方が大きく変化している。新たにTwitterなどのSNSを利用する人が急増したのだ。
総務省は東日本大震災(2011年)と熊本地震(2016年)の際、被災地域の人々が、情報収集のために利用した手段についてインタビュー調査を行った。東日本大震災の際は、テレビやラジオを中心に情報を得ていたのに対し、熊本地震の際はこれらに加え、携帯電話の通話やメール、SNSを利用した人が大幅に増加していたことが分かった。
出典) 総務省「熊本地震におけるICT利活用状況に関する調査」(平成28年)
これを踏まえて政府も『災害対応における SNS 活用ガイドブック』を地方自治体などに向けて公開し、SNSを駆使した災害情報の発信に力を入れている。内閣官房によれば、災害対応においてSNSを情報発信に活用した市区町村数は2018年時点で1090、これは全市区町村の62.6%にのぼる。こうした自治体は大都市に多いため、人口ベースでは9割近くをカバーしている。
災害時の情報発信にSNSを活用する動きは政府や自治体に限ったことではない。中部電力は2011年にTwitterで公式アカウント(@Official_Chuden)を開設。2018年の台風21号・24号による大規模な停電被害を受け、SNSでの情報発信を強化する方針を発表した。
2019年10月に台風19号が日本に上陸した際は、千曲川が大規模な氾濫を起こすなど、管内の多くの世帯で停電被害が発生した。
出典) Twitter : @ 航空自衛隊百里基地
中部電力公式Twitterは、停電時の注意喚起をはじめ、停電の発生状況や復旧状況、復旧見込みなどの情報を精力的に発信した。特に浸水被害に遭った世帯に対し、水に濡れた電気機器を使わないよう呼びかけるツイートは日本語だけでなく、外国人居住者にも配慮して、英語、中国語、ポルトガル語でも発信された。いつもは災害情報に限らず月に20-30件ほどツイートを行っているが、2019年10月は災害に関するツイート数だけでも130件以上にのぼった。
管内の利用者に対して英語で注意を呼び掛けるツイート
Please do not use wet interior wiring or electrical appliances, or damaged electrical appliances. It is dangerous.
— 中部電力株式会社 (@Official_Chuden) October 13, 2019
出典) 中部電力公式アカウント(@Official_Chuden)
情報発信の変化によるメリット・デメリット
災害情報は「SNSを活用する」時代に変化したが、こうした情報発信の変化は私たちにどのようなメリット・デメリットがあるだろうか。
まずメリットとして挙げられるのは、被災者自らが情報発信者となることだ。
気象情報会社のウェザーニュースはTwitter Japan社と連携し、災害被害を見つけた利用者にハッシュタグ「#減災リポート」と位置情報をつけてツイートしてもらうことで、災害情報をリアルタイムに収集・公開している。
被災者自らが情報を発信する機会が得られたことで、自治体が救助情報をタイムリーに得ることができる他、支援物資を効果的に届けることも可能になる。
出典) facebook : @陸上自衛隊中部方面隊
2つ目のメリットは行政が被災地ごとにきめ細かい情報を提供できる点だ。
被災地では情報が生命線だ。テレビやラジオは広域に向けられているため、どうしても被害の大きかった地域の情報や、多くの人にとって関心が高い情報のみが発信される。しかし、SNSを活用すればマスメディアが十分カバーしきれない、地域ごとの避難所や仮設住宅に向け、きめ細やかな情報を提供できる。
3つ目はプッシュ通知機能の充実により、迅速に多くの人に注意喚起が出来る点だ。
携帯電話会社が気象庁や各自治体が配信する緊急情報をその地域の携帯電話に通知するサービスは以前から行われていた。しかし、様々な防災アプリは、スマートフォン(以下、スマホ)上の設定により強制的に情報を画面に表示させる、いわゆる「プッシュ通知機能」を活用し、直接防災情報を届けることが可能だ。これまで防災行政無線が届きにくい地域にも伝達が可能になったことに加え、文字情報として受け取ることが出来るために、音声情報よりも伝達が確実になった。
より迅速に、かつ確実に注意喚起が行えるため、被災の恐れがある人がいち早く被害軽減に向けて動き出せるだろう。
逆にデメリットとして挙げられるのは、デマに惑わされやすい点だ。
2016年4月に起きた熊本地震の際には「動物園からライオンが逃げ出した」というデマが、SNS上で拡散し、動物園の職員が対応に追われた。また、北海道胆振東部地震(2018年)でも「自衛隊からの情報で、数時間後に大地震が来るらしい」などというデマが拡散するなど、災害が発生するたびに必ずと言って良いほどデマが拡散する。
出典) © AfricaCheck
こうしたデマは被災者の不安を不必要に煽るだけでなく、救援活動の支障となったり、災害時の限られた通信網におけるデータ通信量を圧迫したり、本当に必要な情報発信を妨げる恐れがある為、現に慎むべきだ。
ちなみに、ライオンのデマを流した神奈川県の男性は、偽計業務妨害の疑いで逮捕されたが、2017年に反省しているとの理由で、不起訴処分となっている。
私たちが気を付けるべきこと
では今後、私たちは何に気をつけて災害時にSNSを活用すれば良いだろうか。
まず、情報収集も備蓄と同じで日ごろから備えておくことが重要だ。
スマホに:
①防災アプリをインストールする
②公的機関の防災ウェブサイトをブックマークする
③防災に役立つSNSアカウントをフォローしておく
など、災害が発生する前から信頼できる情報源を確保しておけば、災害時に慌てずに済む。
また、Twitter社は、Twitterライフラインの公式アカウント(@TwitterLifeline)を提供している。47都道府県別に災害時に使えるアカウントをリスト化したものだ。登録しておけば、リストに含まれているアカウントのツイートが自動的にタイムラインに掲載され、いざ災害が発生した際にスムーズに情報を受け取ることができる。
出典) 写真AC
さらに、様々な情報で溢れているSNSではデマに惑わされない、デマを拡散しないことが大切だ。
SNSでは情報の信頼性や重要度に関わらず、個人が「有益でみんなに伝えるべき情報」だと判断すれば拡散されやすい性質があり、多くのデマはこうした人々の善意によって拡散される。自分の善意が周りの人を惑わせる、ということがないよう、情報の真偽を見極めることが肝心だ。
一般社団法人 日本データ通信協会は、デマかどうか見極める習慣として以下の3点を挙げている。
① 情報の発信元は誰なのか確認する。
② いつの時点の情報なのか確認する。
③ ネットだけでなく、複数の報道機関、媒体でも確認する。
災害時は情報が錯綜し、正しい情報を見極めるのは難しいかもしれないが、少しでも「怪しい」と感じたら拡散しないという心構えは日頃から持っておきたい。
災害が発生した際は、正確な情報を素早く入手できるかどうかが生死を分けることもある。十分な情報を得られる準備は出来ているのか、今一度確かめてみてはどうだろうか。
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