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編集長展望

Vol.20 新型コロナウイルス エネルギー産業への影響

写真) 中国・武漢駅で体温検査を受ける乗客
出典) China News Service

まとめ
  • 新型コロナウイルス感染症拡大でグローバル経済活動に大きな影響。
  • 中国経済の停滞もあり、原油市場は軟調。電力消費も低迷。
  • 電力事業者らは需要家への対応を始めている。

新型コロナウイルス感染症

新型コロナウイルス感染症の世界規模の拡大で、グローバルな経済活動に大きな影響が出ている。

日本でも政府の要請を受け、全国のほとんどの幼小中高校が休校した。また多くの商業施設が営業時間を短縮、大規模なイベントの中止も続々決まるなど、自粛ムードが急速に広がり、景気への影響が懸念されている。

特に東京株式市場では、日経平均株価が大幅下落を続けている。

画像) 日経平均株価推移
画像)日経平均株価推移

出典) 日本経済新聞 「スマートチャートプラス」

第一生命経済研究所によると、「1-3月期の個人消費は減少が続く可能性が高い」という。(出典:第一生命経済研究所「家計調査2020年1月」)。

画像)日経平均株価推移

出典) 総務省「家計調査報告-2020年(令和2年)1月分-」

自社の業績に対して感染症による「マイナスの影響がある」と見込む企業は6割を超えた。(出典:帝国データバンク「新型コロナウイルス感染症に対する企業の意識調査」による。調査期間 2020 年 2 月 14 日~29 日、調査対象全国 2 万 3,668 社。有効回答企業数は1 万704 社)。

感染拡大に伴って経済の先行き不透明感が高まり、採用を控える企業も多くみられる(出典:帝国データバンク「2020 年度の雇用動向に関する企業の意識調査」)。

株価の暴落は、消費・生産の減退を招く。感染症への警戒は、人やモノの移動を停滞させ、経済活動の縮小・株価の下落を加速させる。こうした悪循環が、日本を含む世界各国で加速している。

画像) 新型コロナウイルス感染者 分布
画像)新型コロナウイルス感染者 分布

出典) WHO Situation Report - 63 (23 March 2020) 

世界保健機関(WHO)テドロス事務局長は11日、新型コロナウイルス感染症を「パンデミック(世界的流行)」と宣言。同機関の報告書によれば、感染症は16日現在、143の国と地域に拡大している。

エネルギー産業への影響

エネルギー産業も、経済活動縮小と株価下落の悪循環にさらされている。企業活動の縮小に伴い、エネルギー需要も停滞することが予測されている。新型コロナウイルス感染症の蔓延による中国経済の停滞が、世界の原油市場に大幅な需要減を招いた(注1)。加えて、石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟主要産油国からなる「OPECプラス」が、3月6日、協調減産の合意に失敗したため、原油価格はさらに下がった。

出典)国際エネルギー機関(IEA)「石油市場レポート」("Oil Market Report - March 2020"

画像) WTI原油先物価格推移(上段)、出来高推移(下段)
画像) WTI原油先物価格推移(上段)、出来高推移(下段)

出典) 楽天証券

IEAは、3月の石油市場レポートにおいて、2020年の世界原油需要を予測した。感染症対応の成功の度合い3パターンそれぞれの推計値を発表した。

まず「基本的見通し」では、前年比・日量9万バレルの減少と予測。従来の予測から、日量110万バレル下方修正した。通年での需要量減少は、2009年以来初めて。この見通しでは、下半期には需要が持ち直し、前年比・日量110万バレルの増加となることが想定されている。

これに対して、感染症の悪影響がより広範囲・長期に及ぶ「悲観的見通し」では、前年比・日量73万バレルの減少が予測された。一方、感染症が早期に収束し輸送に大きな影響を与えない「楽観的見通し」では、前年比・日量48万バレルの増加が見込まれた。

原油価格が下がることは、電力事業者にとって燃料費負担が減ることにつながり、本来は歓迎すべきことなのだが、世界景気の混乱はそれ以上に経済全体へのマイナス要因となるだけに、今後も市場の推移を注意深く見守ることが必要だ。

暮らしへの影響

学校の臨時休校や、リモートワークを採用する企業の増加で、家族が家にいる時間が増えていることから、家庭の電力消費は伸びているものと思われる。とはいえ、自動車産業などに代表されるように、中国におけるサプライチェーンの途絶により、一時的に工場閉鎖などを余儀なくされているメーカーなど大口需要家の電力消費は減少傾向であり、全体として電力事業者にとっては厳しい環境と言える。

そうした中、政府は電気料金を含む公共料金の支払い猶予を事業者に求めた。この要請を受け、大手電力・ガス事業者は、電気・ガス料金の支払い期限を1か月延長する特別措置を行うことを決めた。

また、新型コロナウイルス感染症で臨時休校となっている学校等に対する支援を行っている事業者もある。中部電力は、学校からの連絡を保護者のスマートフォンや携帯電話に迅速に届ける、一斉メール配信サービス「きずなネット学校連絡網」を一定期間無償で提供している。期間は、2020年4月末までに申し込んだ教育機関に対し、サービス開始から6か月後の末日までとなっている。(参考:中部電力

図) きずなネットの学校連絡網の仕組み
図) きずなネットの学校連絡網の仕組み

出典) 中部電力

電力・ガス事業者にとって何より大事なのは社会のインフラであるエネルギー供給をストップさせないことだ。発電所の中枢である中央制御室の運転員のみならず、給電部門や全ての部署で、人員の健康管理はもとより、万が一感染者が出た場合への人員計画策定など、リスク対応に万全を期している。エネルギー産業に対する影響を今後もウォッチしていく必要がある。

  1. 国際エネルギー機関(IEA)による推計
    ・ 今年2月、世界の原油需要は前年比・日量420万バレルの減少。うち、中国は日量360万バレルの減少。
    ・ 今年1月から3月にかけて、世界の原油需要は前年比・日量250万バレルの減少。うち、中国は日量180万バレルの減少。
安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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