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エネルギーと私たちの暮らし

Vol.23 北欧のエコビレッジ訪問記

イメージ(Plastic Waste)

写真) パーマトピア
出典) パーマトピア ウェブサイト

まとめ
  • 注目を集めるデンマークの最新エコビレッジを訪問。
  • 北欧のエコビレッジは、技術を駆使した最先端社会でもある。
  • 敷地内ではサステナブルなエネルギーの供給や農法が構築されている。

北欧のエコビレッジが注目を浴びている。エコに暮らす、という言葉からは、自然に溶け込み、裸足で過ごしたり、現代文明を拒否するなどのイメージを持つ人も多いだろう。そのようなエコビレッジも北欧には複数あるが、本稿で紹介するエコビレッジは、先端技術を駆使し、環境に配慮した生活を訴求する最先端社会だ。

そこで見られるのは、環境に良い先端素材の活用、循環する素材を使った家、土や植物の長期的な循環を考えた農業、廃材を活用したコジェネの利用、風力発電や太陽光発電、ヒートポンプ、冷却ポンプを駆使した発電や熱利用である。

多くのエコビレッジの中から、本稿では、先端的なエコビレッジとして、訪問者がひっきりなしのデンマーク最新のエコビレッジ・パーマトピア(Permatopia)を紹介する。

エコビレッジとは何か

エコビレッジとは、持続可能な社会を実現するための実践コミュニティだ。環境に配慮した暮らしをしながら、既存の資本主義社会の枠組みから一歩距離を置いた、第三の生活の選択肢を作り出そうとしている。

本稿で紹介するのは、デンマークの首都コペンハーゲンから車で1時間ほどの場所にあるエコビレッジ、パーマトピア。その最大の特徴は、「パーマカルチャーの思想に基づいたエコビレッジ」であるという点だ。本稿では、まず、パーマカルチャーについて解説し、次にパーマトピアについて紹介したい。

写真) パーマトピア
写真)パーマトピア

出典) パーマトピアFacebook

パーマカルチャーとは

パーマカルチャー(注1)とは、農産物、エネルギー、住居が一つのクローズドなエコシステムとして働く、持続可能な生活を営むための仕組みだ。再生可能エネルギー、サーキュラーエコノミー、そして自給自足といった言葉と親和性が高い。

背景には、人は文化的存在であるが、文化が環境を悪化させてはならないという考えがある。例えば、現代社会では多くの食物は化石燃料を使って遠方より運ばれる。輸送で出されるCO2が環境に影響を与え、環境変化をもたらすことになると、環境は食物生産を持続的に行うことができなくなる。環境に配慮しつつも持続可能な現代的なコミュニティを構築するためのヒントが、自然のエコシステムにあるのでは、そう考える人たちによってパーマカルチャーが展開されている。

本稿で紹介するパーマトピアは、このパーマカルチャーの思想に基づき構築され、コミュニティと農業、エネルギーのリソースサイクルを考慮したサプライシステムが構築されているところに特徴がある。

パーマトピアPermatopia、カリセの実験

コペンハーゲン近郊のカリセ駅から徒歩5分の場所にあるパーマトピアは、29ヘクタールのエリアを保有、パーマカルチャーの思想に基づくコミュニティとして設立された。資金が集まった2016年に建設が開始され、最初の住民が2018年に入居した。

パーマトピアは森、居住区、農地、エネルギー施設などからなり、パーマカルチャーへの理解でつながるコミュニティ、地域でのエネルギー自給自足、サステナブル農業による地産地消の取り組みが見られる。

筆者は、2019年秋パーマトピアを訪問した。パーマトピアは、一部の思想家による独断で造られたものではなく、多くの建築、農業、エネルギーなどの専門家のアドバイスを元に、より望ましい生活空間をコミュニティで構築している点が興味深い。

具体的には、居住者で構成されるパーマトピア協会を中心に、ハウジング企業、エンジニアリング企業、エネルギー・オーガニックコンサルタントが設計や建設に関わる。工科大学とも提携し望ましいエネルギー循環の実験などを実施した時期もあったという。
住人は、定期的にコミュニティに貢献する。週に数時間の農地での仕事が義務で、その他、現在も続くコミュニティの施設の建設や食事作り、シェアモビリティなど、コミュニティで必要な仕組みの多くが住民主体で提供される。

写真) パーマトピアでは子供も大人も一緒に農作業をするのが決まり
写真)パーマトピアでは子供も大人も一緒に農作業をするのが決まり

出典) パーマトピア

居住エリア

居住エリアは、90軒の家と共有の食堂・キッチン・広間・ランドリーで構成される。共有キッチンは2019年夏に完成し、毎日の夕食や頻繁に実施されるイベントで活躍する。テラス付きの2階建の家は、モダンなデザインで、環境に良い「呼吸する素材」(注2)が利用されており、自然にも人にも優しい設計だ。各家には庭が併設されているところもエコビレッジらしい。

写真) パーマトピアの居住区
写真)パーマトピアの居住区

出典) パーマトピアFacebook

写真) 内装はモダン、開放感のある家だ
写真)内装はモダン、開放感のある家だ

出典) パーマトピアFacebook

各家庭では水が循環利用され、トイレも糞尿分離トイレだ。

写真) 糞尿分離トイレで水の循環に配慮している
写真)糞尿分離トイレで水の循環に配慮している

撮影) 筆者

家のサイズは5種類で、70㎡から115㎡の広さが選択可能。賃貸家屋が40軒、所有家屋が40軒、残りが共同管理住宅である。

農地

パーマトピアが所有する農地では、植物の循環を考えたサステナブルな農業が実施される。近隣オーガニック農家の支援の元、約150名の成人住民と70名の子供が役割分担をし、維持運営をする。域内の農地で、コミュニティ住民に1日に必要な量の野菜が毎日収穫できており、自給自足の生活が成立している。

写真) 各種動物も飼育している
写真)各種動物も飼育している

提供) パーマトピア

自然エネルギーの利用

パーマトピアでは、エネルギーの100%自給自足が目標とされてきた。しかしながら、現在の法律では、域内に閉じたエネルギー供給は許可されておらず、法律に準拠する範囲での自給自足が進められている。

熱源は、地熱とヒートポンプで、2機の地熱ヒートポンプ(低温70kW, 高温30kW)が、90世帯に供給するだけに足る熱を生み出している。ヒートポンプの電源は、300kWの風力発電機から取得される。余剰電力は、住民の電気自動車のバッテリーに蓄えられる。

雨水は洗濯やトイレ水として利用される。農業エリアでは、大規模な土壌洗浄装置で再生された土を使って野菜が作られ収穫されている。エネルギー、熱、電気、農業などが繋がり、生活全般を支えるサステナブルなエネルギーの供給がエリア内で構築されている。パーマトピアは、持続可能なコミュニティ構築が評価され、2018年には、EUのサステナブルエネルギー賞を獲得している。

写真) 敷地内の風力発電機と居住エリア(奥)
写真)敷地内の風力発電機と居住エリア(奥)

提供) パーマトピア

終わりに

カリセ・パーマトピアは、自分たちの生活スタイルやより環境に優しい過ごし方を広く知ってもらうための周知活動にも余念がない。視察受け入れ、パーマトピアの情報提供、および遠隔支援者としてのNPOメンバー登録を受付けている。2020年の鉄道の新路線開通によりコペンハーゲンと51分で結ばれ、より訪問もしやすくなる。多くの人に、実際にその目でより環境に配慮した第三の生活の仕方を確認してもらいたい。

写真) 案内をしてくれたパーマトピアの住人
写真)案内をしてくれたパーマトピアの住人

撮影) 筆者

  1. パーマカルチャ―
    パーマカルチャーとは、パーマネント(永続性)と農業(アグリカルチャー)、そして文化(カルチャー)を組み合わせた言葉で、永続可能な農業をもとに永続可能な文化、即ち、人と自然が共に豊かになるような関係を築いていくためのデザイン手法。
    出典) パーマカルチャ―センタージャパン
  2. 呼吸する素材
    調湿機能のある、無垢材、漆喰(しっくい)、不燃石膏ボードなど。
安倍宏行 Hiroyuki Abe
安岡 美佳  /  Mika Yasuoka
コペンハーゲンIT大学アシスタントプロフェッサー、北欧研究所代表
慶應大学で図書館情報学学士を取得後、京都大学大学院情報学研究科にて社会情報学を専攻し修士号を取得。東京大学工学系研究科先端学際工学博士課程を経て、コペンハーゲンIT大学より博士号を取得。京都大学大学院情報学研究科Global COE研究員などを経て現職。現在は「情報システムのための参加型デザイン」への関心から派生し、北欧のデザイン全般、社会構造や人生観、政治形態にも関心を持ち、参加型デザインから北欧を研究。また、参加型デザインで日本に貢献することを念頭に、最近ではデザイン手法のワークショップやデザイン関連のコンサルティング、北欧(デンマーク・ノルウェー・フィンランド・アイスランド・グリーンランド)に関する調査・コンサルティング業務に従事。

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