写真) イメージ図
出典) free photo
- まとめ
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- 豪雨による大規模災害が列島で頻発している。
- 災害時は正常性バイアスが働きやすく避難率が低い。
- 一人一人の防災意識の向上がなにより重要。
気候変動を取り巻く状況
列島を襲う豪雨による大規模災害が頻発している。
今年7月初旬、九州の広い範囲が大雨に見舞われた。7月20日、長崎県の離島では台風5号の影響で記録的豪雨となり、対馬と五島列島に警戒レベル5に相当する大雨特別警報が発令された。
そのわずか1か月前、6月末にも、九州南部や熊本県の広い範囲で大雨が降り、土砂災害の危険度が高い状態が続いた。この時鹿児島市では、市内全域の約59万人に避難指示(緊急)が出された。
甚大な被害がでた2018年7月の西日本豪雨(正式名称:平成30年7月豪雨)も記憶に新しい。14府県で260人以上が犠牲になり、3万棟近い家屋被害に加え、都市中心部での電気や上下水道のライフライン、交通インフラなど、想像を絶する被害に襲われた。
気象庁によると、異常気象の定義は、「30年に1回以下で発生する現象」のことだが、最近は毎年のように、“記録的豪雨”や“記録的猛暑”に見舞われている。自然災害は増えているのだろうか?
災害が起きる原因
地球温暖化
災害が発生する原因の一つに、地球温暖化による気候変動が指摘されている。気象庁は「気候変動監視レポート2018」で、「このような極端な気象・気候現象の長期的な増加傾向には、地球温暖化の影響があると考えられる」としている。
世界各地でも「今後、地球温暖化が進行すれば、大雨や干ばつ、異常高温など極端な気象・気候現象がさらに増加していくと予測されている」とし、気候変動への対応が緊急の課題だとしている。また、今年5月31日にひらかれた国土交通省の有識者検討会は、地球温暖化によって、20世紀末頃(1984~2004年)に対する21世紀末(2080年〜2100年)の豪雨時の降水量が、全国平均で1.1倍になるとの試算を示した。
都市型水害
近年の集中豪雨によって大都市特有の「都市型水害」の問題が顕在化している。これは都市の持つ地理的な条件から発生する水害で、日本では東京、名古屋、大阪、福岡などで過去に発生した。
都市部では、地表がコンクリートやアスファルトで覆われているため、保水能力・遊水機能が低下していることが要因として挙げられる。短時間で大量の雨が降ることにより、雨水が行き場を失い、中・下流の都市部で水害が起こりやすくなる。都市部での治水をさらに進めるにあたり、河川改修、流域対策や被害軽減対策など、総合的な取り組みが続けられている。
出典) 国土交通省
災害時、何故人は逃げないのか?
前述した昨年の西日本豪雨は、警戒レベル5相当の「大雨特別警報」が11府県で出されるかつてない緊急事態であった。この警報は何らかの災害がすでに発生している可能性が非常に高い状況で、「命を守るための最善の行動をとる」に値するレベルである。
しかし、岡山県倉敷市内の真備地区の被害状況は際立っていた。亡くなった方の大半が高齢者だったことに加え、その9割が自宅で見つかっている。もちろん、高齢者の被害が多いのは体力面や逃げ遅れなどの原因が考えられるが、それ以外の原因はないのだろうか?
一刻も早くその場から逃げなければならない非常事態にも関わらず、人は何故その場に留まるという選択をするのだろうか。これを心理学で、「正常性バイアス」と呼ぶ。予期しない事態に遭遇したとき人は、「自分だけは大丈夫」「きっと大したことない」という危険な状況を否定するような、脳の防御作用(=正常性バイアス)が働くのだ。特に独居高齢者には正常性バイアスが働きやすいという。高齢化が進む日本において、高齢者視点の避難対策も重要だ。
内閣府の防災情報の資料(平成30年7月豪雨における課題・実態)によると、2018年7月豪雨、2017年7月九州北部豪雨、2014年8月豪雨(広島)ともに、亡くなった方の多くは
こうした事実が大きく報道されてわずか1年後の今年7月、鹿児島市の豪雨では市内全域、約59万人に対して「避難指示」を出されたにも関わらず、
以下は真備地区で被災された方への、避難しなかった理由に関するアンケート結果だ。
「2階に逃げれば大丈夫だと思ったから」「これまで災害を経験したことはなかったから」という回答が多い。
(アンケートは、真備町地区で被災して避難所、親族宅などで暮らしたり、同地区で復旧作業に当たる男女100人(男54人、女46人)に面談方式で実施*阪本真由美(兵庫県立大学)・松多信尚(岡山大学)廣井悠(東京大学)が山陽新聞社とともに実施した調査に基づく)
「最初に避難するきっかけになったのは何か」という質問では約3割の人が「川の水位が上がってきたから」など「周辺の環境の悪化」と答えている。要するに
また、「避難する際に参考にした情報は何か」に対しては、半数近くの人が「
「被災者になって初めて分かる」では遅すぎる。住民の被害を軽減し、確実に避難するための意識づけや、実効性を確保する仕組みの強化が急がれるのではないだろうか。
(広島県、岡山県、愛媛県の被災者310人対象)
今後求められる災害対策
国土交通省はこれまでに発生した災害を受けて、「施設では防ぎきれない大洪水は必ず発生するもの」という認識のもと、社会全体で洪水に備える
ハード対策とソフト対策を一体的、計画的に進める方針だ。
(参照:国土交通省 資料)
皆さんは防災対策として何か取り組まれていることはあるだろうか?個人ですぐに実践できる防災対策を見ていこう。
地域防災コラボチャンネル
円滑な避難のためには、確実な「
出典) 総務省
逃げなきゃコール
同じく6月から「逃げなきゃコール」というサービスも開始した。アプリをダウンロードするだけなので、登録も簡単。登録地域の河川情報をキャッチしプッシュ通知で知らせてくれる。離れて暮らす家族や友人の住む地域を登録しておくことで、安否確認や避難を呼びかけることができるのだ。この季節は熱中症情報まで知らせてくれるので、有効に活用できそうだ。
出典) 国土交通省
マイ・タイムライン
「マイ・タイムライン」という取り組みが広がっている。聞きなれない言葉かもしれないが、これは「事前の防災行動計画」で、災害が起きると予測される時刻に向かって「いつ」「誰が」「何をするのか」をあらかじめ決めておく、防災のスケジュール表だ。住んでいる場所や家族の状況などを考えて、表にまとめていく。
© エネフロ編集部
東京都では「東京マイ・タイムライン」を都内全ての児童・生徒に学校を通じて配布している。実際に、編集部スタッフの小学生の子供が学校から持って帰ってきた(上の写真が配布資料一式)。低学年でも興味が持てるように、シールを貼りながら、自分が取るべき行動を考えることができる。また、自然災害の種類やどのような被害が起きるのかなど、家族と話しながら理解を深めることができる優れものだ。
© エネフロ編集部
避難に必要な防災情報を正しく理解し、自らの環境や地域の特性に合った避難行動をとるための啓蒙活動で、オンライン上で記入できるデジタル版も活用できそうだ。
いつ何時、自分の住む地域が自然災害に襲われるか予測することはできない。確実で迅速な情報を知り、「自分だけは大丈夫」と楽観視することなく安全確保のために行動を起こすこと、そして、個々人の日頃からの防災意識の向上が何より大切だ。「自分の命は自分で守る」私たち一人一人がその意識を持たなければならない。
- 参考)
- 国土交通省 社会全体で気候変動下での防災・減災対策の推進の基本的な考え方
- 国土交通省 第4回 気候変動を踏まえた治水計画に係る技術検討会 配布資料一覧
- 国土交通省 平成30年7月豪雨について
- 国土交通省 将来降雨の予測モデルを活用した 気候変動の影響検討
- 東京都防災ホームページ
- 総務省 ケーブルテレビで洪水時の切迫した河川情報をお届け
- 気象庁
- 気象庁 気候変動監視レポート2018
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