2015年12月12日、COP21でのパリ協定採択を喜ぶ国連の潘基文事務総長ら
- まとめ
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- パリ協定の目標:2020年以降、平均気温上昇を2℃未満に、今世紀後半には 温室効果ガス排出を実質ゼロに
- 先進国だけでなく発展途上国も含めた世界的な国際合意
- アメリカは脱退の可能性あり、法的拘束力がなく、各国の成果は不確定
- 技術大国日本が担うべき国際支援
どうなるパリ協定
パリ協定とは、2015年12月に採択、翌年11月に正式発効となった地球温暖化対策のための新しい国際ルールです。
2020年以降、すべての国が参加し「世界の平均気温上昇を2℃未満に抑える(1.5℃に抑えれば、さらによい )」、「今世紀後半には世界全体で温室効果ガスの排出を実質的にゼロにする」、「参加国は排出量削減目標をたて、5年ごとに見直す」等が盛り込まれています。
先進国に対してのみ温室効果ガス排出量の削減を義務付けた「京都議定書」とは違い、この「パリ協定」は、発展途上国も含めた世界初の国際合意である。主要な温室効果ガス排出国であるアメリカや中国、インドが批准するなど、先進国・開発途上国の区別なく気候変動対策の行動をとることを決めた画期的な合意であり、環境問題における大きな前進と見られていました。
しかしオバマ政権時に批准を決定したアメリカでは、 パリ協定からの離脱を公約に掲げたトランプ氏が大統領に就任。アメリカの政治専門紙ザ・ヒルによると(2017年3月31日付)トランプ氏は5月までにパリ協定から脱退するかどうか結論を出すといいます。「アメリカ第一主義」を掲げ、石炭産業を奨励しているトランプ氏。twitterでは「地球温暖化問題は、中国人によって、中国人のために作られたもので、米国の製造業の競争力を削ぐ」とも発言しています。
またパリ協定は、一部の先進国に対して削減を法的に義務づけた京都議定書と異なり、目標の設定・提出や達成に向けた努力(「貢献」)は求めるものの、目的達成を法的義務とはしていません。そのため、中国をはじめとする批准した国々がどれだけ真剣に取り組むのかは不確定なのです。
温暖化の意味
さて、パリ協定の目的の一つである地球温暖化対策。その地球温暖化とはそもそもどういった現象なのか、改めて考えてみましょう。科学者の見解としては、地球の気温が上昇していること、そしてその原因が人間活動にあることはほぼ間違いが無いとされているといいます。実際、世界平均地上気温は、1880~2012年において、0.85℃上昇しておりこれは数字にも表れています。
出典)国際環境経済研究所 「地球温暖化は起きているのか」竹内純子国際環境経済研究所理事・主席研究員より
1980年代以降、化石燃料の消費増により、二酸化炭素などの温室効果ガスが増え、温室効果が強まり、地球環境に影響を与えていると考えられています。しかし学問としての歴史も浅く、まだこれが定説とまではいかないようです。気温の上昇によって、干ばつ、洪水、異常気象、水・食糧難など様々な自然環境問題を引き起こすため、包括的に表すときには「気候変動」と呼ばれています。この「気候変動」を防ぐため、地球温暖化対策が行われているのですが、トランプ氏が言うように、現在の地球温暖化対策が自国の利益になるかどうかはわからない部分があるのは確かです。しかし、すべての国が自国の目先の利益を優先させていたら、いずれは自国の不利益につながるのではないか、という疑問も当然生じるのです。
技術大国日本が担うべき国際支援
では、世界5位のCO2排出国、日本のすべきことはなんでしょうか?アメリカ、中国やEUには遅れを取る形となりましたが、日本も2016年11月8日、パリ協定を批准しました。2030年CO2排出量26%減(2013年度比)の目標に向け、経済産業省は2015年7月に火力や水力、風力などエネルギー源をミックスさせ、電源構成の最適化を図る「長期エネルギー需給見通し(エネルギーミックス)」を発表しました。2030年時点の望ましい電源構成案として再エネ22-24%、原子力20-22%、LNG(液化天然ガス)・火力27%、石炭火力26%、石油火力3%としたのです。
経産省「長期エネルギー需給見通し」より
しかしながら、原発はいつ再稼働できるのか、再生エネルギーのコストなどエネルギーミックスの達成そのものが実現困難なのではないのか、などの指摘もあります。目標へのタイムスケジュールや、目標設定そのものの見直しを迫られることもあるかもしれません。
また、自国の地球温暖化対策を進めるのはもちろんですが、日本は、途上国の目標達成を支援する役割を期待されています。パリ協定と京都議定書の相違点であり、最大のポイントは、世界196の国と地域、先進国から途上国まですべてが参加する初めての枠組みであることです。途上国の排出削減、ないし気候変動への適応対策のニーズが高まっている現在、日本の省エネ技術はそうした途上国のニーズに応えることができるといえそうです。
出典)独立行政法人 国際開発機構 「炭素の貯蔵庫を火災から守れ!(インドネシア)」より
世界の温室ガス削減に日本の技術が貢献
そんな技術大国日本ならではの国際支援として、インドネシアの例を上げましょう。インドネシアは2010年に温室効果ガス削減目標を設定、2013年に「気候変動適応のための国家行動計画」を策定しています。農業や漁業など一次産業が盛んなインドネシアは、気候変動の影響を受けやすく、自然災害による損失の大きさは社会問題にも発展しているからです。
特に問題とされているのが、森林・泥炭地の保全です。泥炭地での火災は温室効果係数がCO2の20倍以上であるメタンを多く排出するため、森林・泥炭地の火災を防ぎその適切な再生・管理を進めることが排出削減策の重要な柱の一つとされています。(注1)
また、同国では泥炭地での稲作も行われており、農林業で生活している国民生活の保護のためにも重要です。こうした状況を受け日本の清水建設株式会社は、水門水路整備、水位管理を行って、稲作を行う泥炭地の再湿潤化に成功、微生物分解を抑制することでCO2排出削減に貢献しました。
この例からもわかる通り、日本企業の技術が先進国の温室効果ガスの削減に役立っています。さらに、少ない温室効果ガスでの発電技術や省エネルギー技術、高潮・土砂災害発生予測、災害救助など途上国が期待する技術は多くあります。
途上国に対し、企業レベルでも政府レベルでもそして民間レベルでも、日本ができることは多くあり、それが温暖化や気候変動への対策になるでしょう。日本の国際貢献がここでも問われています。
- インドネシアの広大な熱帯泥炭地では、1990年代、排水路を掘り乾燥させる手法で大規模な石炭開発が行われた。その結果、地下水位の低下と土地の乾燥化が進み、森林火災が起こると同時に微生物分解も進み、大量の温室効果ガスが大気中に放出されている状況となっている。
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