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グローバル・エネルギー・ウォッチ

Vol.16 グローバルEV戦争3 迷走テスラ

写真)テスラCEOイーロンマスク氏
出典)flickr:Steve Jurvetson

まとめ
  • 世界でEV市場が拡大中。特に中国での伸びが顕著。
  • 米テスラ・マスクCEOの舌禍問題で業績に不安も。
  • 日本はEVシフトの潮流に乗り遅れないようにすべき。

電気自動車(Electric Vehicle:以下、EV)について書くのは1年ぶりだがその間、世界のEVシフトは一段と加速した。

急拡大するEV市場

2017年のEV市場は中国や欧州のEVシフトを受け、前年比58.3%増の76万台となった。特に中国市場は、来年、自動車会社にEVを含むエコカーの一定比率の現地生産を義務付ける「NEV(新エネルギー車)規制」(注1)を導入する方針で、今後台数は急速に拡大するとみられる。2020年前後から外資系自動車メーカーの現地生産モデルが投入されることから更に上積みされるだろう。

下の図を見ると、HV(ハイブリッド車)の伸びはマイルドだが、PHV(プラグインハイブリッド)とEV(電気自動車)の伸びは2025年以降急激に右肩上がりになる予測だ。

図)HV(ハイブリッド車)、PHV(プラグインハイブリッド車)、
EV(電気自動車)の世界市場
図)HV(ハイブリッド車)、PHV(プラグインハイブリッド車)、EV(電気自動車)の世界市場

出典)富士経済研究所

カギ握る中国市場

急拡大する中国のEV市場に日本メーカーは対応に躍起だ。EVで一歩先を行く日産自動車は、中国における合弁会社で2017年8月にEV「シルフィ ゼロ・エミッション」の生産を開始。2019年度までに新型EV5車種の投入を予定している。

写真)日産自動車「シルフィ ゼロ・エミッション」
写真)日産自動車「シルフィ ゼロ・エミッション」

出典)日産自動車

トヨタ自動車は、スポーツ用多目的車(SUV)「C-HR」をベースにしたEVなどを2020年に発売する方針を表明した。2020年までにこれらの車種を含む10の電動車を新たに中国市場に導入する計画だ。ホンダは2018年に現地ブランド「理念」のSUVのEVを中国専用車として投入。2025年までに20車種以上のEV投入を予定している。

写真)トヨタ自動車 C-HR (左)and IZOA (右)
写真)トヨタ自動車 C-HR (左)and IZOA (右)

出典)トヨタ自動車

写真)ホンダ 理念 EV CONCEPT
写真)ホンダ 理念 EV CONCEPT

出典)本田技研工業

独フォルクスワーゲン(VW)も中国で2025年までに年150万台以上のEVを販売する目標を掲げている。また、米テスラも中国上海にEVと電池を生産する工場を設ける計画だ。どの自動車メーカーも中国市場で乗り遅れまいと必死なのだ。

迷走するテスラ

さて急拡大するEV市場において、なんといっても注目は、かの有名なイーロン・マスク氏が率いる米EV専業メーカーのテスラだろう。特に販売価格300万円台の普及モデルとして開発したMODEL3を2016年に発表し、翌年2017年4月に時価総額でGMを抜いた時、その人気は頂点に達した。

写真)テスラMODEL3
写真)テスラMODEL3

出典)テスラ

しかし、同モデルは思うように立ち上がらず、生産計画の遅れが続いた。この問題について筆者はかねてから指摘してきた。(記事:グローバルEV戦争1 米・テスラの大いなる野望)モデル3は2017年7月から、生産を開始し、まず2017年内、1週間あたり5000台を組み立て、2018年には1週間あたり1万台へ生産能力を倍増させる計画だった。その時点で年間生産台数約50万台になる計画だったわけだが、これはかなり無謀だったと言わざるを得ない。

テスラには年産数十万台規模の大量生産の経験がなかった。EVの部品点数は、ガソリン車のおよそ10分の1だとはいっても、高速で公道を走る機械を、精密にかつ大量に製造するノウハウは一朝一夕に会得できるものでもない。

とりわけ新型モデルの生産開始時点では不具合が頻発するのが常識だ。数回の試作を組み立て、その間に組立工の習熟度を高め、徐々に台数を増やしながら立ち上げていくのが常識だ。そうした工程を踏んでも、実際にラインが動き出すと様々な部品の不具合が見つかる。それに伴い部品の設計変更が行われ、その間ラインにおける欠品が生じるなど、いわゆる“不具合車両”が大量に発生する。これは電気自動車だとてガソリン車と変わらない。モノを組み立てる、というのはそういうことなのだ。マスク氏はそこを甘く見ていたと思う。

実際、2017年7〜9月期(第3四半期)のモデル3生産台数は260台にとどまり、予定した1500台の2割にも満たなかった。2018年第3四半期(7~9月)になってようやく生産台数も5万3239台に達し、目標5万台を達成した。これは年産ベースでやっと20万台なので当初目標の4割程度という水準にとどまっている。

単に生産計画の見通しが甘かったではすまされない。台数未達は収益計画にも影響を及ぼす。不具合車両は手作業で部品交換などの手直しが必要だ。膨大な工数とコストが発生することから、収益を下押しする。

これがテスラでなく、他の自動車メーカーだったら株価暴落ではすまないだろう。それでもテスラの評価が大きく下がらないのは、マスク氏への経営者としての手腕が依然評価されているからだ。しかし今年に入ってその“マスク神話”が揺らぎ始めている。原因は氏の舌禍問題だ。当初考えられていたよりその影響は大きい。

写真)テスラ イーロン・マスクCEO
写真)テスラ イーロン・マスクCEO

flickr:Heisenberg Media Picture by Dan Taylor

テスラの迷走

きっかけは、マスクCEOの2018年8月7日(米現地時間)のあるツイートだった。マスク氏は「テスラの非公開企業化を検討している。」と呟いた。マスク氏のツイートによれば、テスラ株を「420ドルで非公開化することを考えて」おり、「そのための資金はすでに確保済み。」とのことだった。

公開企業を非公開化するには、事前に株主承認を得る必要がある。マスク氏はさらに「投資家の支援は得られると思うが、これがまだ不確実な理由は株主の投票に結果が左右されるということだけだ。」とツイートした。

株式非公開化を突然呟いた背景には、テスラ株に空売りを仕掛ける投機筋に対抗する為だったと思われる。しかし、株価に大きな影響を持つ情報をCEOがツイッター上で開示する手法に、米証券取引委員会(SEC)が黙ってはいなかった。9月27日には、誤った情報で投資家を欺いたとして、マスク氏が一切の上場企業の経営から退くよう求める訴訟を提起していた。

そのわずか2日後に両社は和解した。テスラ側が裁判の長期化による経営の影響を嫌がったものと思われる。マスク氏にとってツイートの代償は大きかった。氏はCEO職にはとどまることになったが、会長職から退くことになった。また同社は新たに独立した2人の取締役を任命することと、氏の発言を監視する取締役委員会を設立することに同意した。

さらにテスラとマスク氏はそれぞれSECに2000万ドル(約22億円)の罰金を払う羽目になり、氏のツイートによる株価暴落で被害を受けた投資家に対し、4000万ドル(約45億円)の制裁金が裁判所の承認を受けた手続きの下で配分されることになった。代償はあまりに大きいと言わざるを得ない。

この騒動はこれで一件落着ではない。司法省も刑事捜査を進めている模様であり、ツイートによる株価の乱高下によって損失を被ったと主張する投資家からの集団訴訟のリスクも残っている。

日本メーカーへの影響

EV業界の風雲児にしてお騒がせ男のマスク氏の問題は、日本にとって無関係ではない。実はテスラに車載用電池を供給しているのはパナソニックなのだ。

パナソニックはテスラに日本の工場から電池を供給しているだけでなく、米ネバダ州で巨大な電池工場を共同運営している。その名も“ギガファクトリー”。2017年に生産を開始、2019年3月末までに生産能力を年35GWh(ギガワット時、ギガは10億)にする計画だ。総投資額は約5千億円で、このうちパナソニックは約2千億円を負担している。

写真)ギガファクトリー完成予想図
写真)ギガファクトリー完成予想図

出典)テスラ

パナソニックは、車載用電池のシェアは世界トップクラスだが、テスラへの供給量が圧倒的に多く、テスラの生産計画が大幅に狂ったり、経営が傾いたりすると同社への影響も少なくない。車載電池のライバル、中国・寧徳時代新能源科技(CATL)などの台頭も懸念材料だ。テスラを成長の原動力と目論んでいた計画を修正し、”脱テスラ依存”を進めざるをえない情勢だ。

写真)大規模電池工場建設に関し合意したパナソニック津賀一宏社長とマスク氏
2014年7月31日
写真)大規模電池工場建設に関し合意したパナソニック津賀一宏社長とマスク氏 2014年7月31日

出典)パナソニック

EV大潮流に乗り遅れる日本

さてここで世界のEV・PHVの普及速度を見てもらいたい。アメリカ、中国が突出しているほか、欧州各国も右肩上がりに保有台数が増えている。国際エネルギー機関(IEA)は、世界のEV・PHV販売台数は2030年に2017年の15倍の2150万台に達すると予測。また、各国の政策的な後押しがあれば、3800万台まで上振れすると見通しを示した。一方、日本における普及のスピードは遅い。

図)世界各国のEV/PHV販売台数の推移
図)世界各国のEV/PHV販売台数の推移

出典)「EV・PHV普及に関する経済産業省の取組

政府は、「EV/PHV普及ロードマップ」(2016年3⽉23⽇公表)で、2020年に国内保有台数を最⼤100万台とすることを⽬標としている。また、2030年には新車販売台数の20~30%をEV・PHVにするとしている。しかし、実際EV・PHVの保有台数は2016年で約16万台に止まり、目標達成には程遠い情勢だ。

図)EV・PHVと公共用充電器の普及状況
図)EV・PHVと公共用充電器の普及状況

出典)「EV・PHV普及に関する経済産業省の取組

図)新車(乗用車)販売台数に占める EV・PHV の割合のイメージ
図)新車(乗用車)販売台数に占める EV・PHV の割合のイメージ

出典)「EV/PHV普及ロードマップ

もともと日本はEVの量産で2009年に三菱自動車「アイミーブ」、2010年に日産自動車「リーフ」で世界に先鞭をつけた。それなのに普及のスピードが遅いのはなぜなのか?

EV普及の課題

一つには環境規制の不在があると思われる。中国は政策的にEV普及を促進している。アメリカ・カリフォルニア州にもZEV(ゼロエミッション車)規制がある。日本もこうした環境規制を導入し、EV関連産業の背中を押す時期に来ている。それにより自動車メーカーのみならず、部品メーカーの技術開発が促進され、国際競争力が高まることが期待される。

もう一つは補助金の少なさだ。現時点でEV、PHV、FCV(燃料電池自動車)などのいわゆる“クリーンエネルギー自動車(CEV)”に対する補助金は、車両販売価格の1割以下にとどまっている。EVの販売価格がガソリン車より割高な事を考えれば、ユーザーがEVやPHVを積極的に購入するに至るインセンティブになっていないと思われる。このままでは次世代自動車普及は掛け声倒れに終わる可能性がある。政策面からの後押しを再考する時期に来ているのではないか。

テスラの迷走を単なる1自動車メーカーの問題と看過すべきではない。

日本が世界的なEVの潮流の中でなぜ勝ち残らねばならないのか。地球温暖化対策だけでなく、化石燃料輸入の抑制というエネルギー安全保障、さらには産業の国際競争力確保の観点からも、その理由は明白であろう。

  1. NEV規制
    中国で年3万台以上生産・輸入する自動車メーカーに対し、一定割合でNEVの生産を義務付ける規制で、2019年に導入予定。初年度は生産・輸入台数全体の10%、2020年は12%。NEVはEV、PHV、FCVが対象。
安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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