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テクノロジーが拓く未来の暮らし

Vol.04 台風をエネルギーに変える!「垂直軸型マグナス式風力発電」とは?

写真)株式会社チャレナジー 代表取締役CEO清水敦史氏
©エネフロ編集部

まとめ
  • 「台風発電」というジャンルに挑戦するベンチャーがある。
  • 「垂直軸型マグナス式」という新型風力発電機実証機が沖縄で始動。
  • 海外展開はフィリピンの島からを計画している。

まさに台風シーズン、日本列島に甚大な被害をもたらすその自然の猛威の前に私たちはなすすべもない。しかし、その台風エネルギーを利用して発電できないだろうか?そんな疑問を抱いた一人の青年が東京の下町でベンチャーを立ち上げた。それが株式会社チャレナジー。「台風発電」という未知の領域に挑む、代表取締役CEO清水敦史氏に話を聞きに行ったのは6月末。その1ヶ月半後の 8月3日、石垣島でチャレナジーの新型風力発電機「垂直軸型マグナス式風力発電機」(発電容量:10kW)の試作機が披露された。いよいよ実証試験が始動、新型の風力発電機が回り始める。

写真)沖縄県石垣市に設置された垂直軸型マグナス式風力発電機(10kW)
写真)沖縄県石垣市に設置された垂直軸型マグナス式風力発電機(10kW)

提供)株式会社チャレナジー

「台風発電」とは?

「台風」と「風力発電」が結びつかない。そもそも強風が吹き荒れる台風時にプロペラを回すのは極めてリスクが大きいのではないだろうか?そう思うのが普通だろう。清水氏によると、現在主流のプロペラ式風力発電機は事故が少なくないという。

「日本の中でも1番台風が来る場所と言うと石垣島や宮古島等の先島諸島です。本州だと考えられないような強烈な台風が来るのです。2003年には、宮古島で全6機の風力発電機が一度の台風で全滅するという事故もありました。」

経済産業省の統計によると、大型風力発電機の故障や事故の発生率は確かに上がっている。そもそも現在のプロペラ式風力発電機の歴史は古く、1890年には存在していた。その後風力発電機は大型化していったが、基本的な構造は変わってない。

図)風力発電故障・事故発生率の推移
図)風力発電故障・事故発生率の推移

出典)NEDO

写真)筆者(左)と清水敦史氏
写真)筆者(左)と清水敦史氏

©エネフロ編集部

「プロペラ式風力発電機はヨーロッパのように風況が安定した環境だと発電効率が高く、故障も少ないのですが、日本では風の強さや向きが不安定な乱流になりやすいため、発電効率が低くなったり、故障しやすいのです。その上、プロペラ式風力発電機は発電機やプロペラが高いところにあるので修理が大変です。そこで、日本のような乱流でも安定して発電できる風力発電機が作れないのか、というところからこのプロジェクトが始まったのです。」

「マグナス力」とは?

そこで清水氏が考案したのが「垂直軸型マグナス式風力発電機」(以下、マグナス式風力発電)だ。プロペラを使わず、円筒を気流中で回転させた時に起こる「マグナス力」の作用で軸が回転し発電する仕組みである。清水氏は、台風のような強風や乱流の多い日本に向いているのは風の強さの影響を受けにくいマグナス式の風力発電機だという。

図)マグナス効果
図)マグナス効果

出典)株式会社チャレナジー

写真)マグナス式風力発電機(左)とプロペラ式風力発電機(右)
写真)マグナス式風力発電機(左)とプロペラ式風力発電機(右)

©エネフロ編集部

マグナス力は基本的にはプロペラの「揚力」と同じ。プロペラの場合は上面と下面で流れの速度差が生じ、速度差に応じて揚力が発生する。マグナス力の場合は、風の中でボールや円筒を回転させることで流れの速度差が生じ、速度差に応じてマグナス力が発生する。野球のカーブやスライダーも同じ原理でボールが曲がる。マグナス式風力発電機は円筒が垂直なのでマグナス力が横方向に発生し、その力で全体が回転する仕組みで、風速の影響を受けにくいという。

「マグナス式風力発電は理論的には風速40メートルでも発電できる。これがプロペラ式風力発電だと、風速20~25メートルで停止します。それ以上の風速では過回転で発電機が燃えたり、プロペラが折れたりする可能性があるからです。」

しかし、幾らマグナス式だとて、過回転は起きないのだろうか?

「プロペラ式風力発電の場合、プロペラの形状そのもので揚力が発生します。風が強くなると揚力も大きくなるのでプロペラの角度を変更したりして調整しますが、強風では調整しきれなくなり過回転になる場合があるのです。マグナス式風力発電の場合、円筒を回転させることでマグナス力が発生しますが、この時、マグナス力の大きさは円筒の回転数で調整できます。風が強くなっても、円筒の回転数を小さくすることで過回転を防止できます。さらに、円筒の回転を止めれば”ただの棒”です。ただの棒にいくら強風を吹き付けてもマグナス力は発生せず、風車も回りません。つまり、円筒の回転さえ止めれば、風車を必ず停止できます。」

写真)清水敦史氏
写真)清水敦史氏

©エネフロ編集部

清水氏の説明のとおり、マグナス力は、風速x回転数で決まる。しかし、風速は常に変化しているので、マグナス力を一定にするためには回転数も変え続けなければいけない。でも、どうやって?

「(円筒を回転させている)モーターの回転数を風速に応じてリアルタイムで制御するんです。プロペラ式風力発電の場合、プロペラの角度を変えるのに時間がかかるため、例えば突風が来たときに対応できない場合があります。マグナス式風力発電の場合は回転数を変えるだけなので、秒単位で制御できるのです。」

写真)清水敦史氏
写真)清水敦史氏

©エネフロ編集部

実は、円筒自体はモーターで回している。その部分は電気の自己消費がある。発電機が自分でモーターを回している、その分電気を消費していることになるのだが。

「モータの自己消費電力はこの風車のデメリットではあります。しかし、床屋の看板みたいに円筒を回転させるだけなので、それほど消費電力は食いません。」

写真)沖縄県南城市に設置された垂直軸型マグナス式風力発電機(1kW)
写真)沖縄県南城市に設置された垂直軸型マグナス式風力発電機(1kW)

提供)株式会社チャレナジー

2016年沖縄南城市で実証試験を行った垂直軸型マグナス式風力発電機

加速する技術開発

実はマグナス式風力発電の発電効率は、従来のプロペラ式風力発電に若干劣る。現在20%程度の発電効率をプロペラ式風力発電並みの30%台に近付けたいと清水氏は言う。今後の技術開発計画について聞いた。

「課題の1つは風車全体の徹底的な軽量化です。軽いほどよく回り効率は上がるけど、軽くしすぎると強度が落ちて台風で壊れてしまう。トレードオフの関係になっています。今は頑丈気味に作っているので発電効率が犠牲になっている状態です。」

円筒はボートや下水管などに使われている、FRP(Fiber Reinforced Plastics:繊維強化プラスチック)製で耐久性は十分という。GFRP(Glass Fiber Reinforced Plastics:グラスファイバー強化プラスチック)製の下水管をベースに可能な限り薄くすることで強度を確保しながら軽量化出来た。今回石垣島に設置された新たな10kWの実証機にも採用している。

もう一つの取り組みがコストダウンだ。

「コストも、強度とのトレードオフです。頑丈に作れば重く、高くなり、軽くすれば安くできる。強度とコストのバランスの見極めが重要です。」

次に来るのは、独自技術を磨くことだ。チャレナジーはマグナス式風力発電の特許を持っている。

「当社はマグナス式風力発電に関するいくつかの特許を保有していますが、コアとなる特許技術は円筒翼の後ろに整流板という構造物をつけている点です。実は、円筒だけだと垂直軸型マグナス式風力発電機は回らないんですよ。私は整流板をつけるというアイデアでブレークスルーを果たしました。世界で垂直マグナスを実際に回して特許まで取れているのは当社だけです。」

図)株式会社チャレナジーの特許技術
図)株式会社チャレナジーの特許技術

提供)株式会社チャレナジー

フィリピンでの事業計画

清水氏の目指す未来は日本だけではない。エネルギー問題で困っている世界の国々だ。特に深刻な台風災害の多いフィリピンで事業展開を加速させる。2018年5月には、フィリピンの国営電力公社と「垂直軸型マグナス式風力発電機」の普及に向けた協業を開始する合意書(Memorandum of Understanding)を締結した。2019年には1号機を建設する予定だという。

「我々は戦略上、島を目指しています。特にフィリピンには約7,000もの島があり、人が住んでいる島だけで2 〜3,000島あります。また、フィリピンは、日本同様に風力発電の可能性・ポテンシャルがすごく高いんです。フィリピンの風力発電のポテンシャルは約80GW(ギガワット)ほどあるとみられています。設備容量だけで言えば、原発約80基分に相当します。」

特に風力発電のポテンシャルが高いのは、太平洋に面した東側だという。一方で、台風もまた、フィリピンの東側から襲来する。2013年の台風ヨランダではフィリピン東部で大きな被害が発生した。フィリピンでも現在、複数の風力発電所の建設計画があるが、台風の通り道になりにくい西側に集中しており、東側は集落単位の小規模ディーゼル発電所が主流となっている。

「フィリピンの集落では、日本だと工事現場にあるような小さな10kWくらいのディーゼル発電機が1つ2つ置いてあって、それで全戸の電気を賄っているところがたくさんあります。ディーゼル発電は発電コストが高いため、夕方から夜しか発電していない場所もあります。」

写真)台風ヨランダ通過後の町
写真)台風ヨランダ通過後の町

出典)Lawrence Ruiz

フィリピンの抱えている課題はまさに発電コストだ。ディーゼル燃料を小さな島に運んで発電するのだから当然と言えば当然だ。国営電力公社が赤字で電気を作っている。本当に必要なときしか発電しないという前近代的な生活を強いられているのが現状だ。そこにチャレナジーのマグナス式風力発電機が参入するチャンスがある。

「フィリピンの国営電力公社は、ディーゼル発電をできるだけ早くなくしたいという強いニーズがあるから、実証試験の土地を提供してくれたんですよ。実証試験の結果をみて次のステップに進もう、と言うことで、彼らが選んだフィリピンの北の端、バタネス島で来年から実証試験を開始します。」

まさにフィリピンの台風銀座ともいうべきこの場所でマグナス式風力発電機の結果が出れば、フィリピン中に普及していく次のステップに進むことになる。ある意味社運をかけていると言ってもよさそうだ。清水氏の描く経営戦略を聞いてみた。

「フィリピンには、小型のディーゼル発電機で発電している所が数百カ所程度あるので、そこをまず置き変えていきます。同時に、フィリピン以外の島嶼(とうしょ)国にも進出していきます。風力発電全体の市場規模は8兆円程度と言われています。その中でも小型風力発電の市場は数千億円程度。マグナス式風力発電の市場は数百億円程度を想定しています。将来的にはマグナス式風力発電の大型化開発を進めることで、マグナス式風力発電市場をプロペラ式風力発電市場と同じくらいまで拡大していきたいです。」

こうした経営戦略の根底には、世界中の電気が不足している島の人々の暮らしをなんとかしたい、という清水氏の強い思いがある。

写真)2013年の「ヨランダ台風」で被害を受けた
フィリピン・レイテ島にて(中央:清水氏)
写真)2013年の「ヨランダ台風」で被害を受けたフィリピン・レイテ島にて(中央:清水氏)

出典)株式会社チャレナジー

2019年夏頃からフィリピン国内での実証試験を経て、2020年から国内外での量産販売開始を目指しているという清水氏。実は、マグナス式風力発電機の普及によって更なる社会課題の解決に取り組もうとしている。

「水素社会」に向けて

清水氏の掲げるビジョンは風力発電にとどまらない。目指すのは「水素化社会」への挑戦だ。政府の水素基本戦略上は、再エネによる水素活用は、経産省のロードマップだと10年後だが、それをもっと前倒したいと清水氏は言う。なんと、台風で水素を作ろうというのだ。

図)2017年に公表された「水素基本戦略概要」
図)2017年に公表された「水素基本戦略概要」

参照)経済産業省

「よく、日本も含めて島国には資源がないと言われていますが、実は二つだけ、全ての島に共通する資源があるんです。一つは絶えず吹き続ける、もう一つは見渡す限りの海水です。簡単に言うと、風力発電で電気を作り、海水を電気分解すると水素ができます。水素を使うとまた水に戻る。再生可能エネルギーで水素を製造すれば究極の循環社会を実現できます。国全体を水素社会化するには長い年月が必要ですが、小さな島であれば比較的容易に実現できるはずです。島の風と海を活用して水素を作ることで、エネルギーを自給でき、余った水素を輸出することすら可能になります。将来的には、世界中の島が水素の製造基地になり、台風が来れば来るほど水素価格が安くなるような社会になるかもしれません。つまり、台風の資源化です。」

驚くべき発想だ。清水氏はさらにその先も見ている。

「例えば、無人タンカーにマグナス式風力発電と水素製造装置を搭載して、台風を目指して出航し、タンクが満タンになったら自動で戻って来て、水素を陸でおろしたら次の台風を目指す、というような“水素製造ドローン”を実現できたら面白いですね。」

なんとも大胆な発想ではないか。台風の莫大なエネルギーを回収し水素を作って輸出品にする。奇想天外な事にも思えるが・・・。

「水素化社会は、日本がエネルギーシフトのリーダーになるチャンスなんですよ。日本はすでに、水素の利用技術や輸送技術では世界有数です。水素の製造技術を加えれば、水素インフラに加え、水素そのものを日本が世界中に供給することも夢ではありません。まさに、“水素立国”です。」

写真)筆者(左)と清水敦史氏
写真)筆者(左)と清水敦史氏

©エネフロ編集部

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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