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テクノロジーが拓く未来の暮らし

Vol.33 深紫外線で空気中の新型コロナウイルスを不活化「テクノフェア2021」

写真)Energy Vault社の重力蓄電実証機 Castione, Switzerland

写真)「ベストUVエアー」ユニット試作機
出典)エネフロ編集部

まとめ
  • 電力会社と関連協力企業や研究機関、大学などによる研究成果の紹介、「テクノフェア2021」が開催。
  • キーワードは「新型コロナ」。CO₂濃度の測定サービスや空気清浄ユニットなどが開発されていた。
  • 電力会社が外部の研究機関や企業と共に、社会課題の解決に向け、さまざまな技術開発をおこなっている。

電力会社は、現代社会において欠かすことのできないエネルギーを安全に、そして安定的に社会に届けるために、日々研究と技術開発に取り組んでいる。今年も、電力会社と関連協力企業や研究機関、大学などによる研究成果の紹介「テクノフェア2021」(主催:中部電力株式会社技術開発本部)が開催された。

去年は新型コロナ感染症拡大もあり、ホームページ上でのWEB展示会の紹介がメインだったが、今年は編集部も2年ぶりに現地取材をすることができた。現地展示会(大高展示会)は、事前予約制で見学者を制限し、時間による入替制とするなど、感染対策を徹底して実施されていた。
編集部最大の関心事はやはり「新型コロナ」。読者のみなさんに是非紹介したい!と思った展示コンテンツの一部を紹介する。

新型コロナ対策

新型コロナウイルス感染拡大を防ぐには、手指消毒、咳エチケットなどに加え、いわゆる三密(密閉、密集、密接)を避けることが重要だと知らない人はいないだろう。

特に「密閉空間」にしないため、こまめに「換気」をおこなうことが厚生労働省から推奨されている。とはいえ、これから寒くなってくると、外の冷たい空気を入れるのがおっくうになることもあるだろう。そもそもどの程度換気をしたらいいのか、よくわからない人もいると思われる。

実は厚生労働省が、「ビル管理法における空気調和設備を設けている場合の空気環境の基準」の1つとして、「二酸化炭素の含有率(CO₂濃度)が、100万分の1000以下(=1000 ppm以下)」というものを上げている。(厚労省:換気の悪い密閉空間」を 改善するための換気の方法

また、内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室は、寒冷な場面における新型コロナ感染防止等のポイントとして、飲食店等で可能な場合は、CO₂センサーを設置してCO₂をモニターし、適切な換気により 1000ppm以下を維持することを推奨している。(内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室 : 寒冷な場面における感染防止対策の徹底等について

こうした中、感染症対策のカギとして「換気状態の見える化」を図った事例を紹介する。

中部電力グループの販売事業会社である中部電力ミライズは、室内のCO₂濃度の見える化とその情報を可視化して、換気のタイミングを知らせるサービスを中部電力と協調して開発した。

CO₂センサーがCO₂濃度を測定、データをクラウドに送る。CO₂濃度と換気状態を3段階(緑・黄・赤)で一覧表示する。色に加え、顔のアイコンの表情でも換気のタイミングを知らせる。

PC、タブレット、スマートフォンなどのデバイスからいつでも・どこでも確認できる。また、温度、湿度もモニタリングできるので、熱中症対策にも有効だ。無駄な換気も防ぐこともできるので、電気使用量の削減にもなる。

写真)CO₂センサー
写真)CO₂センサー

出典)エネフロ編集部

図)利用イメージ(フロアレイアウト表示)複数箇所の換気状態を三段階表示。換気状態を「色」や「顔文字」で直感的に視認しやすくした。
図)利用イメージ(フロアレイアウト表示)複数箇所の換気状態を三段階表示。換気状態を「色」や「顔文字」で直感的に視認しやすくした。

出典)中部電力ミライズ「ビジエネ

図)利用イメージ(ランキング表示)複数箇所の換気状態を「色」「顔文字」に加え、「換気をしてください」などの「メッセージ」でも視認できる。CO₂濃度の高いエリア順に表示できる。
図)利用イメージ(フロアレイアウト表示)複数箇所の換気状態を三段階表示。換気状態を「色」や「顔文字」で直感的に視認しやすくした。

出典)中部電力ミライズ「ビジエネ

各部屋などに「Airoco」を設置すれば、複数の空間のCO₂濃度が一元管理できるので、学校や保育施設、病院、介護福祉施設などではクラスター発生を未然に防止できる点が評価されるだろう。また、衛生マネジメントやコロナ対策をPRしたいホテル屋飲食店、レジャー施設、スポーツジムなどでも幅広く導入検討が進みそうだ。

空中のウイルスを不活化

新型コロナ感染症拡大で、家庭用空気清浄機の売れ行きが好調だ。日本電機工業会の調べ(2021年3月時点)によると、2020年度の出荷額は対前年比177.9%の970億円(実績見込み)となった。2021年度も好調に推移するという。

こうした中、オフィスなどの大空間を「深紫外線」を使って効率的に空気清浄する技術に注目した。空調機メーカーの木村工機株式会社と中部電力および中部電力ミライズが共同で開発した。

紫外線は可視光線よりも波長が短い光で、特に100~400㎚の波長域のものを指し、「深紫外線」は紫外線の中でも波長が短く、ウイルスを不活化する能力が認められているという。

オフィスなどでは、
・エアコンで室温管理しているため、窓を開けたくない(もしくは開けられない)
・窓を開けると花粉や騒音が気になる
・空気清浄機を床に複数台置くとスペースを取るし、見た目も悪い
などの問題がある。

今回3社が開発した空気清浄ユニット「ベストUVエアー」は換気ダクトに組み込み、天井内に設置するため、床のスペースを取らない。また、空調の気流を活かし、大空間を効率よく空気清浄できるのが特徴だ。

図)「ベストUVエアー」開発機の概要
図)「ベストUVエアー」開発機の概要

出典)中部電力・中部電力ミライズ・木村工機「ベストUVエアーの概要

紫外線を利用したウイルス不活化には多くの企業が参入している。(参考記事:「ウィズ・コロナ:続々登場!暮らしを助けるロボットたち」)

「ベストUVエアー」は、室内の空気を吸い込み、ユニット内部で「フィルタ」と、ウイルスを不活化(ウイルスのDNAやRNAに作用し、増殖を抑制すること)する「深紫外線」の相乗効果で、室内の浮遊ウイルスを99%削減(特定試験環境における結果)するもの。

自然換気と比べ、年間空調エネルギー消費量を22%削減できる高い省エネ効果を有することもメリットだ。新設だけでなく、多くの既設のダクトにも設置することが可能で、オフィスや病院、店舗などの大空間を効率よく空気清浄するのに向いている。

図)「ベストUVエアー」のウイルス削減性能と省エネ性能
図)「ベストUVエアー」のウイルス削減性能と省エネ性能

出典)中部電力・中部電力ミライズ・木村工機「ベストUVエアーの概要

私たちは、水をペットボトルで飲んだり、家に浄水装置をつけたりしている。いよいよ空気の清浄化も当たり前の時代になったようだ。今後はマンションなどでもこうした装置が標準でつくようになるかもしれない。

高齢者見守り

前期高齢者の筆者にとって、体力の衰えは最大の関心事だ。またコロナ禍にあって、親と離れて暮らしている家族の心配の声を聞くことが多くなっている。

これまでも、高齢者のみまもりサービスとして、電気ポットや、ガスコンロの使用頻度を測るサービスがある。

中部電力株式会社株式会社インターネットイニシアティブが設立した合同会社ネコリコは、見守りロボット「BOCCO emo LTEモデル Powered by ネコリコ」を開発した。

写真)「BOCCO emo LTEモデル Powered by ネコリコ
写真)「BOCCO emo(ボッコエモ) LTEモデル Powered by ネコリコ」

© エネフロ編集部

このロボットは、部屋の温度、湿度、気圧、照度、空気の汚れや騒音などを計測して、ユーザーに話しかけてくれる。例えば、「熱中症に注意してね!」とか、「暑いからクーラーつけてね!」といった具合だ(おせっかい通知機能)。逆に、emoに「換気は必要?」、「温度を教えて」などと声をかければ返事をしてくれる(へやかくにん機能)。遠くに住む子供から親に声かけをすることも可能だ。専用スマホアプリに「お薬、飲んだ?」などとメッセージを入力すると、emoが代わりに話してくれる。受信者が「飲んだよ!」と話しかければ、その音声ファイルとテキストデータが子供に届くという仕組みだ。スマホの扱いに慣れていない高齢者でも簡単に離れた子供とコミュニケーションできる。

図)BOCCO emoを使ったメッセージやりとり
図)BOCCO emoを使ったメッセージやりとり

出典)合同会社ネコリコ

最近、ペット型ロボットも商品化されているが、このコミュニケーションに特化したロボットは、セットアップも使い方も簡単で高齢者向きだ。また月額レンタル料金も1,980円(税込み)と手軽に始められる。

合同会社ネコリコのもうひとつの見守りサービスは、「冷蔵庫の開閉」に注目して開発された。「まもりこ」と名付けられたこのサービスは、Wi-Fi不要で、冷蔵庫に端末を設置するだけ。ドアの開け閉めを振動センサーで感知し、一定期間開閉がないと、遠くの家族などのスマホアプリに異常があったときに通知する。(1日2回)

こちらも端末本体13,200円(税込)、月額550円(税込)で利用を始めることができる。

図)「まもりこ」の概要
図)「まもりこ」の概要

出典)合同会社ネコリコ

これらの新規サービスを見て感じたことは、電力会社は、社会が何を求めているかを敏感に察知し、その課題を解決するサービスを迅速に開発することを求められているということだ。電気の安定供給という従来からの使命と共に、社会課題解決に向け、暮らしを便利で豊かにするサービスなどのコミュニティサポートインフラ事業に力を入れていることがよく分かった。ウィズ・コロナの時代に、快適性や効率性だけではなく、人々の心を豊かにするようなサービスのニーズはますます高まっていくだろう。電力会社のグループの総力が試される時代になった。

成長調整剤を利用した除草・樹木伐採の軽減技術

最後に、ちょっと毛色が違う技術を紹介しよう。以前、別記事「ドローン森を測る 送電線保守最前線」でも紹介したが、「送電線下の樹木の伐採」は、長年電気事業者にとって課題だった。当時、取材した電力中央研究所によると、送電線にかからないように樹木を定期的に伐採する費用は、年間200~300億円と馬鹿にならない額なのだ。

中部電力株式会社技術開発本部電力技術研究所は、植物の「成長調整剤」に着目した。植物を枯らすことなく、一定期間成長を抑制する農薬だ。すでに高速道路の法面(のりめん)などに一部実用化されているもので、農薬登録済みの市販の薬剤だという。

写真)エネフロ編集部

写真)エネフロ編集部

2018年春に実験を開始、どんな植物にも効果があるのか、使用する量、効果の持続性、作業性やコストなどを、温室と現地で検証した。

その結果はごらんのとおり。成長調整剤を配布した場所の植物の成長は見事に抑えられている。

写真)中部電力株式会社

写真)中部電力株式会社

近年、温暖化の影響もあり、植物の成長が早くなっている。伐採費用が年々高くなっていることもあり、この薬剤で樹木の伸張が抑制できれば、省人化によるコストダウンだけでなく、作業性・安全性もアップする。

電気事業は実に幅が広い。空気のように使っている電気であるが、私たちの元に届くまでにはさまざまな技術開発が日夜行われていることがわかった。今回展示されていた新技術はまだまだたくさんあったが、紙面の関係で今回はこれくらいで。
それ以外の研究事例は、「テクノフェア2021 WEB展示会」(12月24日まで開催)をご覧いただきたい。

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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IoT、AI・・・あらゆるものがインターネットにつながっている社会の到来。そして人工知能が新たな産業革命を引き起こす。そしてその波はエネルギーの世界にも。劇的に変わる私たちの暮らしを様々な角度から分析する。