写真)代替肉をつかったハンバーガー「Impossible™ Whopper」
出典)バーガーキング社
- まとめ
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- 牛乳の代替として、アーモンドやオーツ(燕麦)を原料とした「第3のミルク」の需要が拡大している。
- 肉市場でも、「代替肉」(植物肉・培養肉)の開発が進んでいる。
- こうした地球環境に優しい食物の開発は、テクノロジーの力もあり、今後加速していくだろう。
第3のミルク
最近スーパーなどで目につく、アーモンドミルクやオーツミルクなどの植物性飲料。牛乳、豆乳に次ぐ「第3のミルク」と呼ばれて注目を集めている。牛乳ではないのにミルクと名前がついているのは白い飲料だからだ。アーモンドやオーツ(燕麦)以外にも、ココナッツやカシューナッツ、米なども原料になる。
その「第3のミルク」の需要が堅調だ。豆乳を含む植物性飲料の2020年度の国内市場規模は824億円、対前年度比7%も伸びた。2021年度は更に3%増の848億円が見込まれている。(富士経済研究所調べ)背景には、コロナ禍によるイエナカ需要の拡大と健康志向があると見られる。
出典)江崎グリコ株式会社
こうした「第3のミルク」ブームは、ベジタリアンやビーガン(完全採食主義者)が多い欧米から始まった。実はこの「第3のミルク」、単に健康志向だけでなく、環境負荷が低いことから支持されているという。どういうことか?
英オックスフォード大学の研究によると、「第3のミルク」は牛乳に比べ、生産過程で排出される温室効果ガスは約3分の1にとどまる。乳牛が吐くげっぷにメタンガスが含まれていることが原因だ。その量は地球全体の温室効果ガスの5%を占めるほどだ。(北海道大学農学研究院小林泰男教授の研究)
また、1年間毎日コップ1杯の牛乳を生産するには、650平方メートルの土地が必要になる。これはテニスコート約3面分に相当するが、オーツミルクはその10分の1の土地ですむという。さらに牛乳生産は大量の水も消費することにも留意しなければならない。
「第3のミルク」はいかに環境負荷が低いかおわかりいただけただろうか。
代替肉
地球環境に優しい食を追求するトレンドは、「食肉」にも及んでいる。耳にしたことがあるひともいるだろうが、いわゆる、「代替肉」の研究が急ピッチで進んでいるのだ。
「代替肉」は大きく分けてふたつに分類することができる。大豆や小麦などの植物性タンパク質を材料として作った肉(植物肉)と、動物の細胞を取り出し培養して作る肉(培養肉)だ。
「植物肉」では、アメリカ大手ハンバーガーチェーン、バーガーキングが、2019年に全米各地で植物由来の代替肉バーガー「Impossible™ Whopper(インポッシブル・ワッパー)」を販売した。
日本でも、マルコメ株式会社が大豆の油分を搾油、加圧・加熱・乾燥させて「大豆のお肉」を2015年から販売している。
出典)株式会社マルコメ
その他、大塚食品株式会社の「ZEROMEAT(ゼロミート)」や、日本ハム株式会社の「NatuMeat(ナチュミート)」など、多くの企業が代替肉市場に参入し始めている。
提供)大塚食品株式会社
一方、「培養肉」は家畜を飼育する必要がないため、畜産に必要とされる広大な土地や大量の水・飼料の削減に繋がり、環境負荷の軽減が期待できる。それだけではなく、厳密な衛生管理下で製造される「培養肉」は、食中毒や感染症のリスクを低減することができる。まさに、人にも環境にもやさしい食品と言える。
米コンサルティング会社 ATカーニーは、2040 年までに培養肉は全食肉市場の約35%を占めるまでに成長すると予測している。2025年比で実に40%超の伸び率だ。
「培養肉」のパイオニアは、オランダのMosa Meat(モサ・ミート)社だ。同社は、2013年に世界初の代替肉バーガーを発表したが、販売価格は1個約3,000万円と、まだ実験段階だった。
モサ・ミートに継ぎ、2016年・2017年に、培養鶏肉ミートボール・培養鶏肉を発表し話題となった、米UPSIDEFoods社(旧社名: Memphis Meats (メンフィス・ミーツ))は、2021年末までに最初の製品を供給すると明言している。
また、植物由来の代替たまご製品を販売している、米Eat Just(イート・ジャスト)社は、2020 年 12 月 に人工培養鶏肉(ナゲット)、「GOOD Meat(グッド・ミート)」の販売を開始するなど、培養肉市場は着実に成長している。
日本では、東京大学 大学院情報理工学系研究科の竹内昌治教授らが2017年8月から日清食品ホールディングスとの共同研究を進めており、2019年3月には、ウシ筋肉細胞を培養し、サイコロステーキ状の筋組織の作製に世界で初めて成功した。この「培養ステーキ肉」の開発には飛躍的な技術の進歩が必要とされており、今後の同研究に期待が集まっている。
今後の課題
上記で述べた「第3のミルク」と「代替肉」は、「エシカル(Ethical:倫理的な)消費」、つまり、地球環境に対して「倫理的に」正しく、持続可能な消費行動をとるべきだ、という考え方の後押しもあり、今後も需要を伸ばしていくだろう。
また、世界の人口増加は急激に進んでいる。国連の推計によると2015年の世界人口(年央推計)は73億人だったが、2030年までに85億人に達し、2050年には、おもにアジアとアフリカ地域を中心として、97億人にも増加すると予測されている(出典:国際連合広報センター「人口と開発」)。
地球の表面積には限りがある。人口爆発は、食料不足を招き、紛争を引き起こす可能性がある。「第3のミルク」や「代替肉」は、環境問題と同時に食糧問題も解決することが期待されているというわけだ。
一方、現時点では価格の壁が立ちはだかる。
「第3のミルク」で、日本コカ・コーラ株式会社の製品を例に挙げると、2021年3月29日に「GO:GOOD おいしいオーツ麦ミルク なめらかプレーン」を発売しているが、価格は1リットル415円と、「明治おいしい牛乳」900ml 238円と比べ、約1.57倍の価格差があることが分かる。
出典)日本コカ・コーラ株式会社
また「培養ステーキ肉」も、まだ研究開発段階であり、私たちの手が届く価格帯での商品化はしばらく先になりそうだ。
「第3のミルク」と「代替肉」が世界レベルで普及していくためには、さらに研究や改良、大量生産体制の構築などが必要だ。そのために必要な食の新技術、いわゆる「FoodTech(フード・テック)」は今後加速度的に進化していくだろう。
おりしも10月16日は「世界食糧デー」だ。残念なことに日本の食料ロスは年間612万トンにものぼる。これは東京ドーム約5杯分にあたる。(2017年度推計値:農水省)私たちの食べ物の消費に対する考え方もまた、変革を迫られているといえそうだ。
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