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テクノロジーが拓く未来の暮らし

Vol.28 ウェアラブルデバイスと健康革命

写真)イメージ

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出典) Pixabay

まとめ
  • インターネットによりヒトとモノを繋ぐウェアラブルデバイスが注目されている。
  • デバイスを身に着けるだけで、健康状態や個人情報を管理することが可能。
  • 利便性とともに、情報漏洩やプライバシー侵害のリスクも顕在化している。

あらゆるものがインターネットとつながる「IoT(Internet of Things)」が日常になってきている中、腕や脚、頭部など身体の一部に装着できるコンピューター「ウェアラブルデバイス」に今、熱い視線が注がれている。今回は、健康、医療、仕事やその他生活領域でウェアラブルデバイスにより可能になる新たなサービスを紹介する。

ウェアラブルデバイスの市場規模

IT専門調査会社であるIDCによると、2020年のウェアラブルデバイス出荷台数は4億4,470万台。前年は3億4,590万台であり、1年間で28.4%増加した。今後も毎年2桁ペースの成長率で増加し続け、2024年には6億33,170万台に到達する見込みである。

コロナ禍で健康維持に対する人々の意識の高まりなどからウェアラブルデバイスの需要は堅調だ。

デバイスの種類

ウェアラブルデバイスは用途によって、大きく3つに分けられる。

  • 心身に関する情報収集
    血流・心拍数、体温、脳波などの測定が可能である。
  • 位置や速度に関する情報収集
    位置情報、移動情報を集める。
  • 入力・運動支援
    身振りによる操作が可能である。

これらに活用できる身近なデバイスが、スマートウォッチなどのリストバンド型だ。心拍数や血圧、移動した歩数、消費カロリーなどが自動で記録できるため、使用者の健康状態の把握に適している。糖尿病など持病がある人や、離れて暮らす高齢者の見守りにも活用されている。 

写真) Apple Watchを使用して心拍数を図る様子
写真)Apple Watchを使用して心拍数を図る様子

© エネフロ編集部

たとえば、2020年9月米国Appleの「Apple Watch」(シリーズ4以降)に搭載された「心電図アプリ」は、厚生労働省により家庭用医療機器として認可され、自宅でも心房細動(不整脈の一種)の検出が可能になった。心房細動は若年層にも起こりうるが、自覚症状がないこともあり、放置しておくと脳梗塞や心不全を引き起こす原因となる。「心電図アプリ」の開発により、心房細動の早期発見率を高めることが可能になった。

実際に、心電図アプリで心拍数の異常を認知し健康診断を受け不整脈が発覚したケースを、Appleが公式に紹介している。

元陸上選手であるボブ・マーチ氏(当時58歳)が異変に気づいたのは、結婚記念日に妻から贈られたアップルウォッチを装着し、ウォーキングしているときだった。正常値より高い心拍数が繰り返し検出されたため、医師に相談したところ緊急手術となった。手術は無事成功し、現在は以前と同様の生活を送ることができている。

また、衣服として着用するスーツ型のウェアラブルデバイスも注目され始めた。

たとえば、株式会社日立製作所ドイツ人工知能研究センター(以下、DFKI)がスーツ型ウェアラブルデバイスで作業者の身体負荷を測り、動作の改善点を提示するAIを開発した。主に生産・保守現場において作業者の安全確保や作業効率化に役立てるという。日立とDFKIは、今後スポーツやエンタメ業界でも活用していく予定だ。

図) AIによる作業動作認識と作業者へのフィードバックによる支援の流れ
図)AIによる作業動作認識と作業者へのフィードバックによる支援の流れ

出典) 株式会社日立製作所ニュースリリース

AIテクノロジーx医療分野では、爪装着型のウェアラブルデバイスも注目されている。

健康状態の判断に皮膚にセンサーを装着すると、高齢者などは感染症を引き起こす恐れがあるため実用化が難しかった。IBMは、爪が動作により一定のパターンで変形することに着目、爪に微細なひずみを検知するデバイスを装着することで、パーキンソン病患者の運動能力や手の震えなどを評価することに成功した。今後、他の医療分野における活用が期待できそうだ。

写真) ヒトの動作や健康をモニターする爪装着型センサー。ニューヨーク州ヨークタウンハイツの研究所で撮影 (Feature Photo Service)
写真)ヒトの動作や健康をモニターする爪装着型センサー。ニューヨーク州ヨークタウンハイツの研究所で撮影 (Feature Photo Service)

出所) 日本アイ・ビー・エム株式会社

エンタメとウェアラブルデバイス

医療・生活分野への進展が目覚ましいウェアラブルデバイスであるが、エンタメ業界への展開も期待されている。

ゲーミング・コントローラー「BCON」(ビーコン)は、足や腕、頭などの動きによってゲームの操作できるという優れモノ。体に装着したデバイスの傾きを感知する角度センサーによってコマンドが入力される。

たとえば、ゲームの登場人物の動作を真似ることで必殺技を繰り出したり、従来型コントラーでは動かすことのなかった足や頭部などの全身を使ったダイナミックなプレイが楽しめたりする。身体にハンディキャップを抱える人もゲームを存分に楽しむことができることも注目されている。

写真) PCゲーム専用ウェアラブル「BCON」
写真)PCゲーム専用ウェアラブル「BCON」

出典) 株式会社Gloture (ECサイト)

ウェアラブルデバイス普及による懸念

私たちの生活にどんどん身近になっていくウェアラブルデバイス。マイクロチップを体内に埋め込むインプラント型デバイスも現れた。紛失や盗難、不携帯の恐れがなく利便性が高いとして、スウェーデンをはじめとする欧米で受け入れられているようだ。

動画) 「スウェーデンが切り開く新デジタル社会の未来」

出典)VICE News

しかし、進化が加速するウェアラブルデバイスは、以下のようなセキュリティ問題のリスクと常に隣り合わせでもある。

① 盗難によるリスク

まず、ウェアラブルデバイスそのものを盗まれたら、貴重な情報が悪意のある第三者に渡り、クレジットカード情報やさまざまな認証情報が悪用されるリスクが生じる。

② 不正アクセス

物理的に盗まれなくても、不正アクセスにより情報を抜き取られるリスクはある。ハッキングされ、意図的に偽情報をデバイスに表示させることも可能になる。たとえば手術中に医師が使用しているスマートグラスに患者のものとは違うバイタルサイン(体温や血圧、脈拍など)が表示されたら、患者の生命が危険にさらされるだろう。

また、ウェアラブルデバイスを何らかの認証のキーとして使っていた場合、ハッキングにより、企業活動が阻害されるリスクが生じる。

③ 監視型社会になるリスク

ウェアラブルデバイスを社員に付与することで、健康状態を取得することが可能になる。従業員の生活習慣病発症のリスクを減らすことができ、赤字傾向にある健康保険組合の財政改善にもつながる。

また、従業員のバイタルサインと業務遂行能力をリンクさせることで、パフォーマンスを最大限発揮させる環境整備に役立てることができるほか、人事評価制度に反映させるなど管理を強化することも可能になる。
しかし、位置情報含め、過度な従業員の管理強化は、プライバシー侵害などの倫理上の問題をはらんでいる。

ウェアラブルデバイスは今後ますます普及していくだろうが、情報漏洩のリスクにどう備えるかという問題と共に、データの扱いについて十分慎重であるべきだろう。

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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IoT、AI・・・あらゆるものがインターネットにつながっている社会の到来。そして人工知能が新たな産業革命を引き起こす。そしてその波はエネルギーの世界にも。劇的に変わる私たちの暮らしを様々な角度から分析する。