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エネルギーと環境

Vol.24 キノコから革!?ヴィーガンレザーとは

写真) キノコ イメージ

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出典) Pixabay

まとめ
  • ファストファッションに対し、スローファッションが台頭。
  • 中でも、植物由来のヴィーガンレザーに注目が集まる
  • 消費者が環境に配慮したファッションを受け入れることが必要。 

最先端のトレンドの服が低価格で手に入るファストファッション。2008年ごろから若い世代を中心に流行りはじめた。今回は、ファストファッションを中心としたアパレル産業の裏側と、それに対抗する形で急速に存在感を高めている「スローファッション」を取り上げる。

ファストファッションとは

ファストファッションとは、最新のトレンドを取り入れた低価格な商品を短期間のサイクルで生産、販売する衣料服のことだ。いち早く消費者に最新の服を提供するために企画・計画・生産・物流・販売までのプロセスを一括しておこなう。

代表的なブランドはスペインのZARA、スウェーデンの H&M、日本のUNIQLOなどが挙げられる。ファストファッションという言葉は、「早くて安い」ファストフードになぞらえており、2009年には新語・流行語大賞トップテンにも選ばれた。(参考:ユーキャン新語・流行語大賞

ファストファッションの問題点

ファストファッションには以下の問題点がある。

1つは、国連貿易開発会議(UNCTAD)は、ファッション業界を世界で第2位の汚染産業と指摘、大量生産・大量消費・大量廃棄のシステムが問題視されている。(参考:国連広報センター(UNIC)

驚くべきことに、日本における衣料品の廃棄量は年間で約100万トン、枚数換算で毎年約30億着の服が捨てられている。これに対し毎年の衣料品供給量は40億着を上回っている。(参考:一般社団法人 産業環境管理協会資源・リサイクル促進センター

地球温暖化の一因である二酸化炭素。世界全体の排出量のおよそ10%をファッション産業が占めていることはあまり知られていない。一着の服を製造から輸送、調達、販売、回収、廃棄するプロセスには、エネルギーの大量消費と共に二酸化炭素や汚染水が発生する。(参考:国連貿易開発会議 MEASURING FASHION

また、ダウンやレザー・ファーなどの素材の調達のために、動物を大量に殺処分するなど、深刻な問題もある。詳しく見てみよう。

2つめは、低賃金問題だ。世界の主要ファストファッションブランドは、多くの商品をバングラデシュで生産している。日本貿易振興機構(JETRO)によると、現在バングラディッシュは中国に次ぐ世界2位の縫製品輸出国である。

写真) ダッカの衣料工場
写真)ダッカの衣料工場

出典) Flickr、Tareq Salahuddin

同国の政府は、縫製工場の初級縫製工の最低賃金は月額8,000タカ(約10,400円相当、1タカ=約1.3円)とアジアでも最低だ。(参考:日本貿易振興機構)政府による最低賃金引き上げ前の2010年まで最低賃金はわずか月額3,000タカ(約3,900円相当)だったのだ。

写真) ラナ・プラザビル崩落事故(ダッカ近郊シャバール)
写真)ラナ・プラザビル崩落事故(ダッカ近郊シャバール)

出典) Dhaka Savar Building Collapse rijans/Flicker

そして、劣悪な労働環境も問題だ。2013年にバングラデシュで起きたラナ・プラザビル崩落事故は世界中に衝撃を与えた。大量発注に応えるため違法増築が行われていたビルが突如崩壊、1,100人以上の労働者が亡くなった。発電機やミシンが共振したことが原因とされている。ファストファッションブランドが、バングラデシュの安価な労働力や劣悪な労働環境に依存している状況が浮き彫りとなった事件だった。

スローファッション・エシカルファッションの台頭

その後、新たなファッションの視点が台頭した。それが、「スローファッション」や「エシカルファッション」だ。

スローファッションとは、「手頃な価格で最先端の衣類が沢山欲しい」という従来の価値観とは真逆の、「数は少なくても、良質な衣類を長く大切に着続けたい」という新しいファッション志向のことである。

エシカルファッションとは、「倫理的・道徳的なファッション」のこと。つまり、「人と地球にやさしいファッション」のことだ。素材の選定、生産、販売までのプロセスで人と地球環境に配慮して作られたファッションを指す。オーガニック・コットンなど環境への負荷の低い素材を使用し、児童労働の撤廃や人権に配慮した生産・流通過程を目指している。

こうしたトレンドに加え、昨年来の新型コロナウイルス感染症の拡大により、ファッションに対する意識が大きく変化してきた。

去年エステー株式会社が、「衣類への価値観に関する意識調査」(2020年9月1日から9月4日の期間、20歳~59歳の男女603名:男性242名、女性361名を対象とする)をおこなった。

「衣類に対する価値観」を聞いたところ、「長く着られるようなお気に入りの服を少しだけもちたい」と回答した人の割合が増え、「価格が安くても、服をたくさん持ちたい」は逆に減少した。

図) 「衣類に対する価値観で最も強く当てはまるもの」を聞いた回答
図)「衣類に対する価値観で最も強く当てはまるもの」を聞いた回答

出典) エステー株式会社

また、「スローファッション」を取り入れたいと思うか聞いたところ、「すでに取り入れている」と回答した人と、「今後取り入れていきたい」と回答した人合わせて約60%に達した。新型コロナウイルス感染症の拡大後、「スローファッション」志向が向上したことが明らかになった。

図) 「スローファッションを取り入れたいと思うか」と聞いた回答
図)「「スローファッションを取り入れたいと思うか」と聞いた回答

出典) エステー株式会社

海外の事例

そうした中、アメリカ、そしてヨーロッパ諸国を中心に新たに注目を集めているのが、ヴィーガンレザー(Vegan Leather)だ。

ヴィーガンとは、もともと完全なベジタリアン(菜食主義者)を指す言葉だが、動物由来の食品の摂取を避けるだけではなく、動物を利用した製品(皮革製品など)の使用も避けることもある。

ヴィーガンレザーには「合成皮革」「人工皮革」「植物皮革」の3種類があるが、ここでは、「植物皮革」を取り上げる。

植物皮革の原材料は、キノコからはじまり、パイナップル、ぶどう、りんご、サボテン、バナナなど、さまざまである。これらの原材料は、全て土に還るので、エコ素材として注目を集めているのだ。

アメリカのBOLT THREADS社は、キノコの菌糸体を使用した革のような素材「Mylo™」を開発した。ドイツのnat-2™社は、菌類、トウモロコシ、コーヒーかすなどのリサイクル材料や、コルク、革の残り物、エココットン、パイナップル繊維など、様々な革の代替素材を使ったスニーカーを製造・販売している。また、メキシコのDesserto社が扱っているバッグの原材料は、有機サボテンだ。ヴィーガンレザーはファッションの世界でその地位を固めつつある。

写真) 菌糸体
写真)菌糸体

出典) Rob Hille

ヴィーガンレザーのメリットのひとつは、動物の保護だ。PETA(People for the Ethical Treatment of Animals:動物の倫理的扱いを求める人々の会)によると、毎年何100万もの動物達が革製品を含むファッションの犠牲になっている。皮革製品のほとんどが中国やインドで生産されているが、多くの場合、動物達は劣悪な環境で飼育されている。プラダやラコステなどの大手アパレルメーカーがヴィーガンレザーを採用し始めている。

2つ目は、環境問題の解決だ。PETAによると、クロムなめし(代表的な革のなめし方法)施設では1トンの革を処理するのに約57,000ℓの水を使用する。また、皮革製品には、有害な化学薬品が使われることが多いため人体への影響も懸念されている。

日本の事例

最後に日本の状況を見てみよう。

スローファッションやエシカルファッションの台頭により、多くのアパレルブランドは、サステナブル(持続可能)商品を取り入れ始めた。株式会社ユニクロは、リサイクル・ダウンと、リサイクル・ポリエステルを活用した商品を開発した。

代表的な商品が東レ株式会社と共同開発したペットボトルを再利用したポロシャツである。東レ株式会社の試算によると、ペットボトルリサイクル素材を使用した場合、繊維の原料となるポリエステルチップ生産時のCO2の排出量は、原油を使用した場合に比べて約3分の1の削減になるという。

一般社団法人 Green Down Projectではパートナー企業(株式会社三陽商会、株式会社スノーピーク、株式会社ユナイテッドアローズグリーンレーベルリラクシングなど他多数)を募ることで複数の企業とダウンのリサイクルを進めている。

ダウンのリサイクルは水鳥からの羽毛採取量を減らせるとともに、ダウンをゴミとして焼却した場合のCO2発生量を減らすことにも繋がる。(羽毛はハードケラチンと呼ばれるタンパク質であり、1.0kg燃やすと約1.8kgのCO2が発生する。同社HPより。)パートナー企業が協力することで規模を拡大し、回収スポットは全国で600ヵ所以上にのぼる。

写真) ダウン製品の回収ボックス
写真)ダウン製品の回収ボックス

出典) GreenDownProject公式インスタグラム

株式会社アシックスは、2030年までに製品あたりCO2排出量55%削減(対2015年比)を目指している。同社のランニングシューズ「METARIDE(メタライド)」からはサステナブル要素をふんだんに取り入れた新作を2021年3月に発売した。

写真) ランニングシューズ「METARIDE(メタライド)」
写真)ランニングシューズ「METARIDE(メタライド)」

出典) 株式会社アシックス

アッパー部分は再生ポリエステル材、ミッドソール(中間クッション材)には、軽量・高強度でありながら植物由来のセルロースナノファイバーを混ぜた独自開発のスポンジ材、中敷き繊維の染色には従来の方法と比較し水資源使用量・CO2排出量を大幅に抑えた技術を採用するといった徹底ぶりだ。

このように日本企業も次第に環境に配慮した商品開発に乗り出してはいるが、肝心の消費者の間でそうした概念が浸透しているとは言いがたい。

消費者が「環境のために何かを妥協して選ぶ」のではなく、「商品の本質としての魅力×環境配慮」を両立させることが、スローファッションやエシカルファッションをより広めていくための鍵となるだろう。

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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