写真) 千葉市大木戸アグリ・エナジー1号機の空撮画像
出典) 千葉エコ・エネルギー株式会社
- まとめ
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- 農業と太陽光発電事業を同時に行う「ソーラーシェアリング」が増えている。
- 農業+売電のダブル収入や耕作放棄地活用がメリット。
- 環発電ありきの事業に危惧、長期的視野で経営を。
ソーラーシェアリングとは?
最近、太陽光発電所を目にすることが多くなった。一方で、最近では従来のように広大な土地にソーラーパネルを敷き詰めた、いわゆる「メガソーラー」とはちょっと趣の違う太陽光発電所が話題となっている。その名を「ソーラーシェアリング」という。
「ソーラーシェアリング」は、「営農型太陽光発電」ともいわれ、その名のとおり、農地に支柱を立てて上部空間に太陽光発電設備を設置し、太陽光を農業生産と発電とで共有する取り組みだ。(出典:農林水産省「営農型太陽光発電について」)
太陽光(ソーラー)を発電と農業の両方で分け合う(シェアする)ことから「ソーラーシェアリング」と呼ばれている。従来の農業収入に加えて、新たに売電収入が得られることから、農家の経営状況を改善し、農業の衰退を食い止めることができると、農林水産省でも取り組みの支援がおこなわれている。
以前の記事(「ヒマワリと進化する太陽光発電」)でも取り上げたが、「ソーラーシェアリング」のための農地転用許可件数は順調に増えている。2018年度(平成30年度)には過去最高の481件を記録した。
2018年(平成30年)5月に、営農型太陽光発電設備の取扱いを見直して、担い手が下部の農地で営農する場合などについて、一時転用期間をそれまでの3年以内から10年以内に延長した影響で許可件数が増えたものと思われ、その傾向が今後も続くことが期待されている。
出典) 農林水産省「営農型太陽光発電設備設置状況詳細調査(平成30年度末現在) 調査結果について」
「ソーラーシェアリング」のメリット
「ソーラーシェアリング」のメリットとしては以下が挙げられる。
- 1. 農業+売電のダブル収入
- 2. 耕作放棄地(休耕地)の活用
- 3. 固定資産税が高くならない
- 4. 後継者不足の解消
- 5. 食糧自給率の向上
「ソーラーシェアリング」と自家消費
「ソーラーシェアリング」の実例を見てみよう。
ソーラーシェアリング協会の試験農園である「SUNファーム市原」(千葉県市原市)では、作物とソーラーシェアリングの相性を検証すると共に、ソーラーシェアリングを利用した自家消費の取り組みもおこなっており、確保した食料・エネルギーを地域社会に還元する社会を目指している。
ハウス内ではトマトの水耕栽培をしており、水の潅水・循環や気温調整、肥料(養液)の自動制御までをおこなう環境制御に特化している。結果として、収穫量のアップや安定した品質に繋がるわけだが当然、設備には大量の電気が必要となり、そのエネルギーコストを賄うためソーラーシェアリングが活躍している。
具体的にはハウス上部に設置したパネルの遮光率を10%に絞り、地面には反射シートを敷き詰めることで、ハウス内に日光が届きやすい環境を作っている。さらに、不足電力は敷地内における他のソーラーシェアリング(ブルーベリー栽培・キノコ栽培)からも電力を供給することで、電気代の大半を補う仕組みとなっている。
(※ブルーベリーの設備は売電額を電気代に充当)今後は作物の種類もさらに増やして行く予定とのことで、「農業」という点からも多くの選択肢と可能性を持った農園になるだろう。
出典) ソーラーシェアリング協会
ソーラーシェアリングのデメリット
一方で、デメリットもないわけではない。
- 1. 初期投資が高い・金融機関の融資が下りにくい
- 2. 一時転用再申請の手間がかかる
- 3. 長期的な運営が必要
- 4. 自然災害による設備損傷リスク
などだ。
個人的に気になるのはデメリットの4、自然災害による設備損傷リスクだ。2019年10月の令和元年東日本台風(台風第19号)による暴風雨は多くの電柱や木をなぎ倒し、千葉県に長期間の停電をもたらすほどすさまじかった。当然、太陽光発電設備を持つ「ソーラーシェアリング」も被害は甚大だったのではないか。
災害と「ソーラーシェアリング」
前述の「SUNファーム市原」は、台風に襲われたが、驚いたことにその影響はほとんどなかったという。
一般的なビニールハウスとは違い、鉄骨を使った構造になっていたためだと同農園は説明している。太陽光設備もハウスで育てているトマトやブルーベリーの苗も無事だったそうだ。しっかりと設計し、強度を保てば自然災害による被害を最小限に抑えることが可能だということが分かる。しかし、それなりのコストはやはり必要だろう。
出典) 「ソーラーシェアリング」協会
また、こんな試みもある。自然災害の際には、停電や交通網が寸断され、ガソリンスタンドにたどり着けないなどのリスクが農村部にも降りかかる。千葉エコ・エネルギー(千葉県千葉市)は、「千葉市大木戸アグリ・エナジー1号機」の所在地にある自家消費型太陽光発電設備(千葉県千葉市緑区)にて、「ソーラーシェアリング」と電気自動車(EV)を組み合わせて、都市近郊農村の低炭素化と災害支援モデルの構築を目指すプロジェクトを実施中だ。太陽光で発電した電気は売電せず、ハウス内や電動農機具などに使う。
出典) 千葉エコ・エネルギー株式会社
出典) 千葉エコ・エネルギー株式会社
出典) 千葉エコ&つなぐファーム
また、同地域にて清水建設が発電事業を行い、千葉エコ・エネルギーが設立した農業法人「つなぐファーム」が営農し、千葉エコ・エネルギーが発電設備の管理運営を行うという取り組みも実施している。
出典) 千葉エコ・エネルギー株式会社
出典) 千葉エコ・エネルギー株式会社
こうした大企業の参入は「ソーラーシェアリング」の発展にとって望ましいことだ。2050年カーボンニュートラルを目指す我が国において、各企業は、消費電力を100%再生可能エネルギーで調達することが求められている。100%というハードルは極めて高い。その目標を達成するためには、自らが再生可能エネルギー発電設備に投資していかざるをえない。そういう意味において、この「都市近郊型ソーラーシェアリング」は有望なモデルケースとなろう。
「ソーラーシェアリング」の課題
このように基本的には今後も拡大していくであろう「ソーラーシェアリング」だが、課題もある。
1つは、本来「ソーラーシェアリング」が目指す、営農がないがしろになっているケースが見られることだ。
2年前の調査になるが、千葉大学倉阪研究室とNPO法人地域持続研究所が、全国の農業委員会に対して「ソーラーシェアリング」に関する実態調査を実施した結果、太陽光パネルの下で育成する品種に偏りがあることが分かった。
具体的には、その地域の従来の作付け品種ではないものが多く見られたという。例えば、芝の代替として地面を覆う、ダイカンドラやレッドクローバー、そして陽が当たらなくても育つ、しいたけや薬用ニンジンなどだ。太陽光発電事業ありきの姿勢は、地域の農業にとって決して好ましいものではないだろう。
出典) Pixabay
2つ目は、固定価格買取制度(FIT)の運用についてだ。50kW未満が多い「ソーラーシェアリング」では、農林水産行政の分野における厳格な要件確認を条件に、特例として自家消費を伴わない案件であっても、災害時の活用が可能であれば地域活用要件を満たすとして全量売電が認められている。しかし、FIT制度における固定買取価格は年々減額されており、初期設備投資に見合った売電収入が得られない可能性もある。また、FITの買取期間終了後の売電先をどう確保するかという問題もある。「ソーラーシェアリング」導入にあたっては、将来の世代交代を視野に入れつつ、営農と太陽光発電の両立を目指す高度な経営手腕が問われる。
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