写真) 令和2年台風10号 鹿児島県中之島での搭乗時の様子
出典) 防衛日報デジタル(陸上自衛隊西部方面隊)
- まとめ
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- 台風10号では早めの対策によって、想定より被害が抑えられた。
- 一人一人の避難計画を定めた「マイ・タイムライン」で迅速な避難を。
- 風水害は特に早め早めの備えが肝心。家族で話し合いを。
台風10号に異例の対応
9月6、7日にかけて超大型の台風10号が日本に接近し、九州地方を中心に被害をもたらした。
気象庁は早い段階から警戒を呼びかける異例の対応を取り、台風接近前から国土交通省と合同で緊急記者会見を行った。台風10号は死者・行方不明者約5000人となった「伊勢湾台風」(1949年)級の勢力を保ったまま接近し、甚大な被害をもたらす恐れがあるとして、各地に厳重な警戒を呼びかけた。台風接近前からテレビなどで頻繫に台風情報が放送されるのを見て、警戒感を抱いた人も多かったのではないか。
出典) 内閣府
これを受け今回、関係機関や民間企業は早め早めの準備に動いた。
国土交通省は九州や四国地方のダムで水位を下げる事前放流を行い、大雨による河川の増水に備えた。
JR西日本、JR四国、JR九州はそれぞれ6、7日にかけて在来線の計画運休を行った。九州新幹線は5日の時点で、全区間での計画運休を決定したほか、山陽新幹線は広島駅~博多駅間で7日は終日運休することを発表した。山陽新幹線はさらに、福岡県の車両基地にある車両の一部を広島県や岡山県の車両基地に避難させた。これは昨年10月の台風19号で長野県の車両基地が浸水し、北陸新幹線の車両が大きな被害を受けたことを教訓とした新しい取り組みだった。
大手コンビニ、飲食店、百貨店、工場もそれぞれ計画休業を発表した。大手コンビニチェーンのセブンイレブンは4日という異例の早い段階から1000店舗近くの計画休業を発表して注目を集めた。被害が発生してからではなく、被害が発生する前に休業を決める対応がここ数年で当たり前になりつつある。
早期からの警戒により被害は想定より抑えられたが、それでも九州地方を中心に各地で被害が発生した。消防庁によれば、2名が死亡、4名が行方不明、111名が負傷したほか、合わせて894棟の住宅に被害が出ている(9月14日時点:消防庁調べ)。
また、九州電力管内では最大約46万戸が停電し(7日午前5時時点:経済産業省「令和2年台風10号による被害・対応状況について」)、各地で復旧作業に追われた。その他にも四国、沖縄県、山口県などの一部地域でも停電が発生したものの、多くの地域では9日のうちに復旧した。
出典) 九電グループFacebook
自分だけの避難計画「マイ・タイムライン」
災害時に自分の命を守るためには迅速な避難が不可欠だが、いざ避難するとなると、何を準備すべきか分からず戸惑う人も多い。そこで注目されているのが「マイ・タイムライン」だ。
「マイ・タイムライン」とは、災害発生時に自治体や関係機関が「いつ」「何をするか」を時系列順にまとめた「タイムライン(防災行動計画)」を個人レベルに落とし込んだものだ。河川の増水などによって身の危険が迫ったら「いつ」「何をするか」を一人一人が予め決めておくことで、いざという時に余裕を持って避難への準備ができる。
出典) 国土交通省
「マイ・タイムライン」作成までの基本的なステップは以下の通り。
① 自身の住んでいる地区等の洪水リスクを知る
地形図やハザードマップなどを確認し、自分が住んでいる地域でどのような災害が発生する恐れがあるのか把握する。
② 大規模水害時に得られる情報とタイムラインの考え方を知る
気象庁や各自治体から発表され、避難行動を判断する際の手助けとなる有効な情報と情報の獲得手段について確認する。
③ 「マイ・タイムライン」を作成する
「台風が発生」してから「川の水が氾濫」するまでに自分が取るべき備えを考え、時系列順に記入する。
出典) 東京都防災ホームページ
「マイ・タイムライン」が生まれるきっかけとなったのは、平成27年(2015年)9月の関東・東北豪雨だ。川の堤防が決壊し、大規模な浸水被害が発生した鬼怒川流域では、避難が遅れ周囲が全て水で囲まれ孤立してしまう「逃げ遅れ」が多発した。
出典) 国土地理院
これを教訓として、鬼怒川周辺の自治体で構成される減災対策協議会は災害発生までに全員の避難が完了している「逃げ遅れゼロ」を目指してソフト・ハード両面で対策を進めており、「マイ・タイムライン」はその取り組みの一つだ。
出典) 防衛省Facebook
減災対策協議会は2016年から「マイ・タイムライン」普及に向けて検討会を実施して、作成に必要な資料や教材の検討を進めるとともに、鬼怒川流域で「マイ・タイムライン」を作成する講座を開催している。翌年には9月1日の「防災の日」に合わせて、茨城県常総市全ての小中学校で「マイ・タイムライン」作成の授業が行われたほか、小中学生向けのオリジナル教材「逃げキッド」が完成した。
こうした取り組みは徐々に注目を集め、「マイ・タイムライン」作成の動きは全国の自治体へと広まっている。東京都では「マイ・タイムライン」作成キット 東京「マイ・タイムライン」 を都内の全ての小中学校に配布しているほか、東京都防災ホームページ上の入力フォームを埋めるだけで「マイ・タイムライン」の作成・保存ができるデジタル版を配信している。
横浜市、仙台市や静岡県も独自の作成シートをインターネット上に公開しているが、これらの自治体に住んでいない人でも十分活用できる。
まとめ
今回の台風10号からも分かるように、災害による被害を減らすためには事前の備えが何よりも大事になる。まさに「備えあれば憂いなし」と言える。特に暴風や豪雨による災害は地震などと比較すると、災害の危険性が事前に察知しやすいため、早めの対策が可能になる。
台風シーズンは10月まで続く。これを機会に風水害への備えを見直してみてはどうだろうか。エネフロでは過去にも【防災2020】相次ぐ自然災害にどう備える?、変わる災害情報発信のかたち、豪雨に備えよ!防災意識向上がカギなどの記事で災害への備えについて紹介している。こうした記事も参考にしてみて欲しい。
【参考サイト】
- 国土交通省 関東地方整備局 「マイ・タイムライン」
https://www.ktr.mlit.go.jp/river/bousai/index00000043.html - 国土交通省 関東地方整備局 下館河川事務所 みんなでマイ・タイムライン」
https://mytimeline.river.or.jp/ - 東京都防災ホームページ 「東京マイ・タイムライン」
https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/mytimeline/index.html
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