写真) 令和二年豪雨による被害 岐阜県高山市上宝町の被害の様子 2020年7月9日
出典) 中部電力公式Twitter
- まとめ
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- 8~9月に多発する台風。昨年の台風19号は河川の氾濫や洪水を各地で引き起こした。
- 大規模停電に備えて電力事業者は様々な対策を取っている。
- 早急な電力復旧作業のためには、自治体との連携が不可欠。
7月上旬、九州や中部地方で記録的豪雨が観測され、甚大な被害が発生した。新型コロナウイルスの感染拡大も収束の兆しが見えない中、改めて災害対策の重要性が私たちに突きつけられている。中でもこれからの季節、特に注意しなければならないのが、台風だ。
台風19号における被害状況
ここ数年の台風被害の中でも特に甚大な被害をもたらしたのが、2019年10月に発生した台風19号だ。気象庁によると、台風19号による豪雨は東日本から東北地方を中心に広い範囲で観測史上1位の記録を更新する大雨となり、河川の氾濫や洪水などが各地で発生した。
出典) 国土交通省
特に長野県をはじめ中部地方では堤防の決壊や土砂災害が発生するなど被害が深刻で、中部電力(注1)では広範囲にわたって停電も発生した。
出典) 中部電力
こうした深刻な状況下において、電力事業者はどのような対応をとったのか、調べてみた。
台風19号発生当時の電力事業者の対応
被害状況が深刻だった長野県をはじめとした中部エリアに電力を供給している中部電力は、次のような対応を取った。
① 浸水地域における早急な一次対応
千曲川の堤防決壊により中部電力管内では、豊野変電所が浸水した。
そのため、中部電力では浸水した豊野変電所において、静岡県浜松市及び長野県塩尻市に配備してある移動式変電所を持ち込み、応急送電を実施した。
そして、長野県内の比較的大きな避難所3ヶ所において、中部電力社員が避難住民に対して停電復旧への流れや注意事項について説明を実施した。特に浸水した豊野地区においては、屋内配線の安全確認を行うために全戸訪問を実施、感電や漏電の危険性を予防することで安心して電気を使えるように絶縁抵抗測定という作業を実施した。
② HPやアプリを用いた情報発信
災害発生時においては、被災者に分かりやすく必要な情報発信をする事が極めて重要だ。中部電力は、停電ホームページやラジオ・SNSなどを通して情報発信を行った。
また、「停電情報お知らせサービス」というアプリのプッシュ通知で停電情報や、停電地域をマップでわかりやすく知らせた。また、チャット機能を活用し、電力設備への異物接触などを撮影した写真を投稿して問い合わせる人などもいた。
スマートフォンの普及でアプリによる情報提供が容易になっただけでなく、被災した方との双方向のやりとりも可能になったことは大きい。
出典) 中部電力パワーグリッド
③ 自治体や社外との連携
災害時、電力事業者は自治体をはじめ様々な機関と連携した対応を行う必要がある。中部電力では主に以下の3つを実施した。
・ 自治体へのリエゾン派遣依頼
停電や復旧に関する情報発信や停電復旧に係る道路啓開などについて、被災した地方公共団体との連絡調整を行う「リエゾン(情報連絡員)」を中部電力から4県8市町へ派遣した。
・ 陸上自衛隊と共同で電力復旧作業を実施
中部電力は各自治体においていち早く電力復旧を行うため、自治体・自衛隊と現場確認を実施し、瓦礫を除去したりする道路啓開作業を依頼した。
出典) 中部電力
・ NEXCO中日本・東日本との連携
より迅速な電力復旧作業を行うために、通行止め区間において復旧応援車両134台の緊急通行の許可を依頼した。
2018年度アクションプランの分析の背景
2018年も平成最大規模の台風災害となった台風21号・24号が発生していた。台風は東海地方を縦断し、中部エリアでは大規模な停電が発生・長期化した。この経験を踏まえ、検証委員会が対応の振り返りを行い、今後に備えてアクションプランを策定していた。その中では次の「3つの視点」が強調された。
1 設備復旧の体制
2 お客さまへの情報発信
3 自治体等との情報共有・連携
がそれだ。
出典) 中部電力
そうした中、翌年に台風19号が発生した。そこで、このアクションプランが有効であったか、検証が行われることとなった。
2018年度アクションプランの分析結果と課題
検証は、アクションプランで定められた3視点と15項目ごとに行われた結果、様々な課題が明らかになった。ここでは、分析結果のうち特に重要な課題を示す。
① 設備復旧体制は適切だったか
「初動の迅速化」
2018年のアクションプランでは、効率的な応援体制の立案を目指して「台風被害推定システム」(注2)の精度向上が目指された。台風19号の経験を踏まえ、新たに降雨による土砂災害リスクや倒木リスクも踏まえ、システムのさらなる精度向上が目指されることになった。
「復旧工程管理の改善」
2018年のアクションプランにおいて、停電発生から、被害状況の把握、復旧工事までの一連の工程を一元管理する「配電災害復旧支援システム」の導入が決定された。今回、非常災害対応に係る関係会社とシステムの情報を共有するためシステム改修を行うこととした。
「設備被害巡視の早期化」
ドローンの自律飛行プログラムを活用した自動巡視について、障害物回避技術の確立が目指されている。
ここまでの項目3つは主にシステムの強化だが、社内の体制強化も同時に行われている。
「後方支援体制の強化」
2018年アクションプランにおいては、事務系要員が担う後方支援業務における社内ルールの整備や教育、応援派遣スキームの確認が行われていたが、台風19号の被害を受け、習得した知識をいざという時に確実に発揮できるよう、ロールプレイングを通じた実務に即した早期復旧訓練が行われることとなった。現場と間接部門一体となった効率的で迅速な災害対応を目指している。
「本部運営体制の強化」
アクションプランにおいて、災害時に指揮を執る本部の体制強化を目指して、後方支援や復旧体制の確立・情報・伝達等に関する訓練が設定されていた。台風19号以後、確実な情報連携体制の強化や特別警報発令前の対策本部の設置基準の明確化が求められることとなった。
② 利用者への情報発信体制
2018年アクションプランが活かされ、台風19号の際はアプリやLINE、HPを活用した情報発信は評価が高かった。今後は「外国人向けの情報発信」の強化や、「お客様ホームページの改修」における非常災害時に設置される特設コーナーにてTwitterでの投稿内容を表示させるなど利便性向上が計画されている。
またデジタル化が進む一方で、「電話対応要員の増強」も図られている。被災時の電話対応力向上を目的として他電力3社(北海道、関西、中国)とのNW(ネットワーク)コールセンターの共同運営に関する同意が為され、2020年6月にはコールセンターの共同運営が開始された。また、電話による停電情報の問い合せに、自動音声で回答する、音声認識機能を活用した停電情報自動応答システムも導入した。
③ 自治体等との情報共有・連携
2018年アクションプランにおいては「非常時における自治体等との連携強化」「外部機関との連携強化」「ライフライン保全対策事業の推進」など関係自治体や省庁との様々な場面を想定した連携強化に力を入れてきた。また、「生活インフラ需要への対応」項目の検証の結果、停電が長期化した際に各県が臨時供給の優先順位等を判断するための基準となる重要施設リストについて、各県と共有が図られることとなった。
ここで、特に2つの項目に注目したい。
まず、「外部機関との連携強化」だ。2018年アクションプランにおいても、中部地方整備局と道路啓開支援に関するホットラインの構築や、NEXCO中日本・東日本と高速道路閉鎖時の緊急通行に関する運用ルールの整備が盛り込まれ、実際に台風19号の際にはいち早い電力復旧に貢献した。
検証の結果、こうした運用ルールの再整備に加えて、更に広範なエリアにおいて災害時の連携強化を目指して、新たなホットラインの設置や、自衛隊要請の枠組みや手順のルール化が図られることとなった。
2つ目は、「ライフライン保全対策事業の推進」だ。アクションプランでは、関係自治体へ「計画伐採」の有効性について説明し、事業化に向けた協議を実施することとなっていた。計画伐採とは、事前に電力設備に近接する樹木を伐採することで、大規模停電や電柱が倒れることによる二次災害を防ぐ目的で行われる災害対策だ。
計画伐採は、今注目を集めている対策の1つだ。これを進めるためには自治体との連携が不可欠となっているため、今後も継続して協議をしていくことが重要だ。
台風19号対応で得られた新たな課題
これらの検証を踏まえ、中部電力では新アクションプランを発表し、新たに4項目を設定した。
1 浸水地域の対応
2 低圧停電の対応
3 復旧見通しの情報発信
4 被災者支援
がそれだ。
出典) 中部電力
まず、設備復旧の体制の課題として、台風19号で変電所が浸水したことを受けて「浸水地域の対応」が新たに盛り込まれた。移動変電設備による復旧を基本とし、移動式変電所の運搬タイミングの検討、設置作業の短縮、試験項目の見直しの改善を行い、2020年度の訓練にて再度検証することとした。
更に「低圧停電の対応」として、低圧(100ボルトや200ボルト)設備の停電、いわゆる「低圧停電」を把握するためスマートメーターの運用方法を整備することも定めている。
新アクションプランで特に力を入れて取り組まれているのが、「復旧見通しの情報発信」だ。復旧の見通しの第一報は、全社大の停電戸数がピークに達してから24時間以内に、かつ利用者の暮らしや自治体の防災会議などを意識したタイミングで発信することを定めた。
また、「被災者支援」では、他電力との資機材融通協定を締結し、停電の長期化の影響を受けた住民への支援リソースの確保を目指す。このように、状況を常に判断しながら、速やかに情報発信と被災者支援を行う、という。人々の生活の重要な役割を担う電力事業者として、電力復旧作業だけでなく、人々の暮らしを意識した対応を強化していく方針だ。
最後に:
電力自由化が進み、私達は電力会社を自由に選べるようになった。今回、見えないところで、電力事業者が継続的にあらゆる災害対応を見直し、改善している一端が見えた。
これからは、各電力事業者や自治体の災害への取り組みも知っておきたい。社会全体で災害時のライフラインに対する意識が高めることが、ひいては防災、減災にも繋がると思うからだ。
- 中部電力
2020年3月以前は「中部電力株式会社」、2020年4月以降は「中部電力株式会社」「中部電力パワーグリッド株式会社」「中部電力ミライズ株式会社」の3社をいう。 - 台風被害推定システム
電力中央研究所開発。過去の災害データや台風の予測進路・風速から設備被害と停電回線数等を予測)」の精度向上を図り、効果的な応援体制を立案するもの。
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