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「安全」を考える

Vol.14 【防災2020】相次ぐ自然災害にどう備える?

トップ画像) 「令和2年7月豪雨」道路に溢れた瓦礫
2020年7月8日熊本県人吉市西瀬小学校付近の「ながのはし」一帯の道路
出典) 陸上自衛隊西部方面隊

まとめ
  • 降水量は年々増加しており、豪雨による被害が増えている。
  • 「自分は大丈夫」は禁物。特に高齢者などは早めの避難が重要。
  • 日頃からハザードマップや避難経路をチェックし災害に備えるべき。

令和2年7月豪雨」により、九州や中部地方(岐阜・長野)で記録的豪雨が観測された。亡くなられた方々にお悔やみ申し上げると共に、被災された方々に心よりお見舞いを申し上げたい。

今後も梅雨前線の影響で、局地的な大雨が発生する可能性がある。土砂災害、河川の増水や氾濫、低い土地の浸水に十分警戒してもらいたい。また、竜巻などの激しい突風や落雷にも注意が必要だ。

ここ数年こうした豪雨被害は全国各地で多発しているが、どうすれば逃げ遅れを防ぎ、被害を少なくすることができるのだろうか。

豪雨被害頻発の原因

近年、豪雨による災害が増えていると感じる人は多いだろう。昨年の東日本台風(台風19号)に伴う豪雨災害や、2018年7月の豪雨(西日本豪雨)などは記憶に新しい。

実際に雨量は増えているのだろうか?気象庁の調べによると、過去120年間の間で1日の雨量が200ミリという大雨を観測した日数は明らかに増加傾向を示している。

図) 日降水量200ミリ以上の年間日数の変化
図)日降水量200ミリ以上の年間日数の変化

出典) 気象庁

大雨の頻度が増加している背景には「地球温暖化」が関係していると思われる。雨は空気中の水蒸気が水になって降るものだが、空気は気温が高くなればなるほど水蒸気を多く含む性質があるので、地球温暖化による気温上昇は降水量を増やすことにつながるのだ。

気象庁の調べによると、上空約1,500メートルの空気中に含まれる水蒸気量は増加傾向にある。地球温暖化に伴う気温上昇による空気中の水蒸気の増加により大雨が起こりやすくなっていると推察される。

地球温暖化に伴う大雨リスクに備えるために、気象庁はあらゆる科学的知見に基づき、気候変動の監視と予測の強化、情報発信を行っている。

豪雨の被害

次に気象庁が発する警報について見てみたい。

豪雨がもたらす災害は3種類ある。それが、①土砂災害、②浸水害、③洪水害の3つだ。そのメカニズムは以下の図のようになっている。

図) 雨によって災害リスクが高まるメカニズム
図) 雨によって災害リスクが高まるメカニズム

出典) 気象庁

気象庁は、大雨警報(浸水害)の発表基準に、短時間強雨による浸水害発生との相関が雨量よりも高い指数(表面雨量指数)を用いている。「表面雨量指数」とは、地面の被覆状況や地質、地形の勾配など、その土地がもつ雨水の溜まりやすさを考慮して、 降った雨が地表面にどれだけ溜まっているかを数値化したものだ。
そして、過去20年間浸水害が発生した時の表面雨量指数を基準として、大雨警報(浸水害)を出すようにしている。

大雨警戒レベルについて知っておこう

そうした中、気象庁は2019年から防災気象情報について、住民が「自らの命は自らが守る」意識を持ち、取るべき行動を直感的に理解出来るよう、5段階の「大雨警戒レベル」での表現を開始した。テレビなどでこの「警戒レベル」を見た人も多いだろう。

図) 大雨警戒レベル
図)大雨警戒レベル

出典) 気象庁

実は筆者もこの表をじっくり見たことがなかった。レベル5では既に災害が起きており、レベル4の段階で全員避難、高齢者など避難に時間がかかると思われる人は、レベル3で避難を開始しなければいけないということだ。内閣府が作成した以下のチラシを見れば一目瞭然だ。

図) 警戒レベルに関するチラシ(内閣府・消防庁作成)
図)警戒レベルに関するチラシ(内閣府・消防庁作成)

出典) 内閣府

「自分は大丈夫」は危険、「正常性バイアス」再び?

しかし、この「警戒レベル」を用いた避難情報が発令されても、今回の「令和2年7月豪雨」では、死者約80名、行方不明約10名(2020年7月18日現在)という被害状況だ。なぜ逃げ遅れる人が出てしまうのか。

原因の一つに、エネフロでも何度か取り上げている、「正常性バイアス(normalcy bias)」がある。正常性バイアスとは、人間が予期しない事態に対峙したとき、「ありえない」という先入観や偏見(バイアス)が働き、物事を正常性の範囲だと自動的に認識する心の動き(メカニズム)を指す。この正常性バイアスは災害時に人々の行動を大きく制限してしまう。

西日本豪雨の被災者に対するアンケート調査では、岡山県倉敷市で避難指示が出た後も避難しなかった人の理由について、「たいしたことがないと思ったから」が3割台半ばを超え、次いで「避難する必要を感じなかったから」が3割となっていた。また、自宅の上階に避難をした人も「周囲や道路が冠水していたから」という回答が4割を超えていた。(岡山県 平成30年7月豪雨災害検証委員会より)避難指示が出た後も、自分は大丈夫だろう、と楽観視してしまう傾向がよく分かる。
しかし、これだけ毎年豪雨災害が日本を襲っている中、「正常性バイアス」だけで、逃げ遅れは説明できないと感じている。

避難勧告は万能か?

内閣府は、「(平成26 年 9 月版)避難勧告等の 判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」にて、「市町村が発令する避難勧告等は、空振りをおそれず、早めに出すこと」という基本方針を提示している。背景には、避難勧告が「はずれ」た時に、住民やメディアから自治体の責任を問う批判がある。

では自治体が早目早目に避難勧告を出せばそれで全て解決するかというと、必ずしもそうではないだろう。余りに避難勧告が頻繁だと、人はだんだん慣れてしまうという問題が起きる。

また、避難勧告について、「深夜や早朝で寝ていた」、若しくは「雨音が大きくて、避難勧告が聞こえなかった」とテレビのインタビューに答えていた被災者がよくいる。防災無線での伝達の限界であろう。

毎回よく聞く理由として「想定以上の雨量があった」「河川の増水が思いのほか早かった」というものもある。災害のリスクを適時適切に住民に伝えることの難しさが浮き彫りになっている。

結局は、避難勧告は万能ではなく、「自分の身は自分で守る」、という原則に立ち返ることになる。

洪水ハザードマップ

洪水ハザードマップ」というものがあるが、読者の皆さんは見たことがあるだろうか?実は、国土交通省が「ハザードマップポータルサイト」というものを作っている。「洪水」、「土砂災害」、「津波」、「道路防災情報」が地図上に表示されるものだ。自分が住んでいる町のハザードマップにリンクしているので、是非一度見ることをお勧めする。

筆者は東京都に住んでいるが、近くに大きな河川はない。洪水には無縁だと思っていたが、実は昭和40年代に小さな河川はほとんど暗渠(あんきょ)になっており、1時間59ミリの大雨が降れば家の近所の一部が1~2メートルの深さに水没することを最近知った。マンションなどの地下構造部分に水が流れ込む可能性もある。非常用電源などがある建物は要注意だろう。普段から自分の住んでいる場所の災害リスクを知っておくことが重要だと実感する。

浸水想定地域に住む私達

自分が「浸水想定地域」に住んでいると自覚している人は多くはないだろう。「浸水想定地域」とは、洪水などにより河川の堤防が決壊した場合に浸水が予想される区域のことで、河川管理者が指定する。

人口減少や高齢化に伴い、多くの市町村は、コンパクトシティ化を目指そうとして「居住誘導区域」というものを定めている。しかし、その「居住誘導区域」が「浸水想定地域」と被っている所があるのが実状だ。

こうしたことを受け、国土交通省は、「立地適正化計画等と防災対策を連携させること」が重要だとしているが、(参考:「台風第19号や気候変動の影響・社会動向等を踏まえて 対応すべき課題」)私たちも自分の住んでいる所の浸水・洪水リスクを正しく把握することが重要だろう。

 問われる「自助」

防災対策の三要素としてよく知られている、「自助・共助・公助」だが、今一度「自助」の持つ意味を考えたい。

高齢化や地方の過疎化が進む中、両親や祖父母と離れている子供、孫世代が、離れて暮らす老親や祖父母・親戚らの住む地域のリスクについてよく理解し、災害発生時に取るべき行動について平時から話し合っておくことが大切だと感じる。

高齢者は情報の入手経路が限られている。災害時に停電などが発生したらテレビからの情報が途絶えるほか、電池が切れてしまえばラジオや携帯電話も使えなくなる。インターネットで情報を入手できる高齢者は多くない。よくニュースで「命を守る行動を!」と言うが、普段から、どのタイミングで、どう避難したらいいかを考えて予行演習しておかねば、人はそう簡単に動けないだろう。

毎年起こる豪雨災害を前に、今一度、家族間で災害リスクについて考えてみたい。

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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