写真) 自衛隊による停電復旧作業のための倒木・土砂除去支援
出典) 防衛省・自衛隊
- まとめ
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- 6月に入り、今年も豪雨や台風に備える季節に入った。
- 去年大きな被害をもたらした台風15号から学ぶべきことは多い。
- 今年は新型コロナもある。普段から緊急事態に備えよう。
5月10日に沖縄県奄美地方、11日に沖縄地方が梅雨入りした。全国的に梅雨のシーズンを迎える日も近い。さらに、12日には台風1号が発生。豪雨災害に備えるべき季節がやってきた。
2019年は、大規模なものだけでも
・8月九州北部豪雨
・9月台風15号
・10月台風19号
と、日本列島は多くの自然災害に見舞われた。
特に台風15号は、記録的な被害をもたらした。猛烈な防風雨が関東地方などを襲い、千葉県を中心に最大93万戸で停電が発生した。復旧したのはピーク時から約12日後のことだった。この継続時間は、近年の例と比べても突出している。
出典) 経済産業省資源エネルギー庁 「『台風』と『電力』〜長期停電から考える電力のレジリエンス」
台風15号大規模停電 復旧作業の困難
東京電力に加え、全国9電力会社から駆け付けたのべ約1万名が復旧作業に当たった。過去最大規模の復旧部隊は、最高気温約30度の暑さの中、数々の困難に見舞われた。
1.電線・電柱の修復作業
記録的暴風の影響で倒木や飛来物が発生し、電線が切れたほか電柱が傾いたり倒れたりする被害が起きた。東京電力管内で計1,996本もの電柱が損壊した。
倒木や飛来物、倒壊した電柱は道路をふさぎ通行を妨げた。被害の多くが山林地帯に集中したことも相まって、状況把握と修復作業は困難を極めた。
出典) 経済産業省資源エネルギー庁 「『台風』と『電力』〜長期停電から考える電力のレジリエンス」
さらに、情報通信システムが一時機能しなくなる事態も発生した。電線が損壊し、通信回線が断たれたためだ。現場の状況が共有できず、復旧部隊同士の連携や自治体との情報共有が阻害された。
2.電源車の配置・運用
こうした中、電力各社は、停電が続く福祉施設などに電力を提供するため、電源車を直ちに派遣した。各電力会社からの応援者は、昼夜を徹して作業に当たった。
出典) 東京電力ホールディングス株式会社「台風 15 号対応検証委員会報告書(最終報告)」
(2020年1月16日)より抜粋
出典) 東京電力ホールディングス株式会社 台風15号に伴う停電復旧対応の振り返りについて 別紙4:停電復旧に向けた対応等について(2019年10月31日)より抜粋
台風15号大規模停電 問題点と改善
台風15号に伴い、広範囲・長期間に及ぶ停電が発生したことについて、次のような課題が浮き彫りになった。
1.正確な状況把握と情報発信
2.関係機関の連携
3.一極集中型のエネルギーシステム
1.正確な状況把握と情報発信
東京電力は停電発生当初、9月11日中には復旧を目指すと公表していた。主に千葉エリアで被害状況の把握が進まない中、過去の事例をもとに推定した。ところが、実際の被害は想定以上に甚大だった。
出典) 経済産業省産業保安グループ「令和元年台風15号における鉄塔及び電柱の損壊事故調査検討ワーキンググループ中間整理」令和元年12月4日 より抜粋
例えば、千葉県君津市の鉄塔2基は、現行の技術基準で定められた風圧荷重40m/s(10分間平均風速)を満たしていた。しかし、40m/sを大きく上まわる突風を受け、倒壊した。私たちは台風のエネルギーの物凄さを目の当たりにした。経済産業省は、基準の見直しを検討している。
こうした甚大な被害に、復旧作業は困難を極めた。千葉県は、災害救助法の適用が遅れた要因を検証した報告書(注1)で、これほどまでの停電の長期化に伴う様々な状況を事前に十分想定できなかった、と振り返っている。
2.関係機関の連携
また、今回課題となったのは、関係機関の管理体制の混乱や、役割分担の不明確さだ。
例えば、倒木・障害物の撤去と道路の復旧について、電力会社は自治体による撤去を待つか、樹木の所有者の許可を得る必要があった。倒木・障害物が電線や電柱に接触している場合、自治体は電力会社の技術者の到着を待つ必要があった。
出典) 経済産業省資源エネルギー庁 「『台風』と『電力』〜長期停電から考える電力のレジリエンス」
さらに、電源車の配置については、次のような問題が指摘されている。
・災害対策本部を通さない要請が殺到した
・派遣要請の優先順位が不明瞭だった。
・電力各社から派遣された電源車・作業車両・専門職員を一元管理する仕組みがととのっていなかった。
自治体と電力会社は、都度連絡を取り合って対応に当たった。土地勘のある自治体職員が効率的なルートを検討し、電力会社に共有した事例や、自衛隊と東京電力との共同調整所が設置され復旧が加速した事例もあった。
しかし、対応をより迅速に行えるようにするためには、連携体制を普段から整備しておく必要があることが今回明らかになった。
そうしたことから、千葉県と東京電力パワーグリッド千葉総支社は今年2月、「災害時における停電復旧の連携等に関する基本協定」を結んだ。覚書(注2)では、道路復旧作業や電源車配備における協力体制、相互連絡の手段などを具体的に取り決めた。
また、予防伐採について協力体制をとることも定めた。予防伐採とは、倒木が電力設備を損壊することを防ぐため、事前に伐採する措置を指す。他の電力事業者では、中部電力の雪害対策に前例がある。
出典) 電力レジリエンスワーキンググループ「各審議会における検討状況等について」(令和元年12月5日)より抜粋
3.一極集中型のエネルギーシステム
大規模な発電所が広域に電力を提供する一極集中型のエネルギーシステムは、災害に対する脆弱性が指摘されてきた。台風15号の停電対応では、太陽光やコージェネレーション、蓄電池などが効果を発揮する事例が見られた。分散型電源を活用した、災害に強いエネルギーシステムの構築が求められている。
NTTと東京電力ホールディングスは4月23日、「千葉市におけるスマートエネルギーシティの実現に向けた共同実証について」を発表。次のような実証に取り組むとした。
・市内の避難所182か所へ太陽光発電設備・蓄電池を導入。
・市内のNTTビルに太陽光発電設備・蓄電池を導入、地域の避難所と結ぶ配電線を敷設。
・地域内の再エネ・蓄電池や需要家設備、既存の電力系統を高度に連携・制御し、地域のエネルギー価値を高める取り組みを進める。
出典) 東京電力ホールディングス「実証イメージ:千葉市におけるスマートエネルギーシティ実現に向けた取り組み」より抜粋
おわりに
雨の季節を目前に控え、昨年の災害について振り返った。自治体や電力事業者の、台風15号発災当時の奮闘や、対応改善の取り組みを見てきた。
電力事業者と県、各自治体などの情報連携の仕組みを整えることは何より重要だ。とはいえ、「想定外」を完全になくすことはできない。自助・共助の姿勢も重要だ。
例えば、家庭や地域に分散型電源として、太陽光パネルや蓄電池を導入する。台風15号の災害では、自動車会社各社が派遣した合計約140台の電気自動車(EV)や燃料電池自動車(FCV)が避難所や老人ホームなどへの給電を行ったが、自治体がEVやFCVの保有台数を増やすことも必要だろう。
各家庭では、情報の遮断は一番避けたいところだ。昨年の記事にも書いたが、発電機は比較的高価なので、自治会などで購入することも検討に値する。ソーラーチャージャー(充電用ソーラーパネル)とモバイルバッテリーがあれば、停電時でもスマホに充電できる。
自然災害は突然私たちを襲う。今年は、新型コロナウイルス感染症にも備えねばならない。家族で緊急事態への備えを今一度話し合ってみたらいかがだろうか。
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