写真) 赤外線サーモグラフィカメラの画像例
出典) フューチャースタンダード
- まとめ
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- 新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、新サービスが生まれている。
- 衛生管理や、業務効率の向上を助ける取り組みが続々登場。
- 感染症終息後を見据えた社会変革に期待。
外出を控えるため思うように用事を済ませられない。不慣れなテレワークで仕事に支障が出た。衛生面で過度に神経質になってしまう・・・。
新型コロナウイルス感染症の拡大と緊急事態宣言下の外出制限に伴って、多くの人が不便な生活を強いられている。その中で、様々な企業が課題解決に乗り出した。最新のデジタル技術を用いたものなど、新たなサービスが続々と登場し、社会の在り方は大きく変わろうとしている。
タッチレスエコノミー
多くの人が頻繁に触れる場所は、病原体の媒介になりやすい。手を触れずに操作できる製品の開発・販売が加速している。
例えば、エレベータ・エスカレータ・動く歩道の専業メーカー「フジテック」は、エレベーターに「非接触呼び登録」の機能を加えた。センサーに手をかざすことで、行先階を指定したりドアを開閉したりすることができる。
出典) フジテック
NECの「顔認証技術」にも期待が集まる。顔認証は、識別時に画面やキーボードに触れる必要がないため衛生的とされてきた。NECの最新技術は、マスクを着けた状態でも高精度で識別が可能であるため、手が顔やマスクに触れることはない。
出典) NEC
最近ではドアノブやドアのハンドルを触るのも躊躇してしまう。ついに、ドアの開閉を「ハンズフリー」にする製品も登場した。プラスチック総合メーカー甲子化学工業(大阪府東大阪市)が開発した「ハンズフリー ドアオープナー」は既存のドアを傷つけることなく簡単に、そして様々な形状のドアノブに装着できるよう開発されている。開き戸用は5月下旬、スライドドア用は6月中旬から発売予定だ。
出典) 甲子化学工業株式会社
接触感染防止に明日にも実行できそうなのが、旭川医科大病院・阿部泰之准教授が考案・製作した「アンタッチャプル」だ。これを引っ掛けて使うことで、手や指を触れることなく扉や窓の鍵の開閉を行えるほか、タッチパネルも操作できる。材料は、バッグを机などにぶら下げるバッグハンガー、ケーブルコード、アルミテープ、ストラップなど、全て100円ショップで手に入る。詳しい作り方や「アンタッチャプル」の活用例は阿部泰之氏のYouTubeチャンネルで紹介されている。
出典) facebook : 阿部泰之
自作は面倒くさいという人には、こんな商品も販売されている。抗菌作用がある真ちゅうを素材に使った、ドアのハンドルやATM、エレベーターのボタンなどの公共スペースの表面に直接触れるのを防ぐ器具だ。
出典) Wavcare
そして、とうとう、タッチパネルそのものをタッチレス化する新提案も登場した。アルプスアルパインは、パネルから離れた手指を検知しタッチレス操作を可能にする技術を発表。パネルに触れなくても操作できる時代が来た。2021年ごろの製品化を目指している。そのうち、キーボードもタッチレスになるかもしれない。
非対面サービス
外出を自粛する生活が長引く中、食品のテイクアウトサービスや宅配サービスに対する需要が高まっている。ものの受け取りに潜む感染のリスクを取り除くため、様々な取り組みが始まっている。
回転寿司チェーンの「スシロー」は、一部店舗に「自動土産ロッカー」を設置した。レジで待つことなく指定した時間に、冷蔵ロッカーからお寿司を受け取ることができる。店員から商品を受け取らなくて済む。
出典) スシロー
アマゾンジャパンは「置き配」を配送方法の初期設定とする取り組みを30都道府県で開始した。出前館やマクドナルド、ドミノピザ、ピザハットなどのフードデリバリーサービス各社も、キャッシュレス決済を利用した「非接触デリバリー」を推奨している。将来的にもこれがデファクト(標準)になりそうだ。
出典) ピザハット
行動を変える仕組み
不特定多数の人がいる状況では当然、接触感染のリスクが高まる。ウイルスが付着した手で、無意識に顔などを触ることで、ウイルスが粘膜から体内に入り込み感染を引き起こす。そのため、手洗いをこまめに行うことが、感染リスクを減らすうえで重要となるが、つい億劫になるのが人間だ。
手洗いを促進するグッズとして今注目されているのが、「手を洗いたくなるシール」だ。透明なシールにウイルスのイラストをあしらったもので、作成者が自らのTwitterで紹介したところ、大きな反響を呼んだ。
現在ではオンラインで販売されているほか、個人利用であれば、作成者のブログからダウンロードできる。このシールを不特定多数の人が触れるところに貼ると、見えないウイルスが可視化され、触れた人は「気持ち悪いから手を洗いたい」という気持ちになる。「手を洗いなさい」と何度も呼びかけることなく、手洗いを促進できることが人気の理由だ。
このように、人に強制することなく、自発的に望ましい行動を選択させる仕掛けは「ナッジ(Nudge)」と呼ばれ、2017年のノーベル経済学賞で注目を集めた行動経済学に由来する。
京都府宇治市は、市役所に設置した消毒液を使ってもらえるよう、入口から消毒液が設置された場所まで黄色いテープで矢印を引き、誘導している。こうした取り組みもナッジの一例と言えるだろう。
出典) facebook : 宇治市
キャッシュレス決済をめぐる問題
非対面・非接触サービスの多くは、事前のキャッシュレス決済を前提としている。不特定多数が触れる硬貨や紙幣を使うことに抵抗感を覚える人も多いだろう。キャッシュレス決済への需要は高まっている。
一方で、店側からは、現金決済を望む声もある。キャッシュレス決済では、客が代金を支払ってから店が受け取るまでに時間がかかり、資金繰りが困難になるからだ。
一部の決済事業者は対策に乗り出している。LINE Payは、申請に応じて即時に入金する「入金申請」サービスについて、手数料250円/回を6月30日まで無料とすることを発表した。なお、LINE Payの精算サイクルは通常、月末締め翌月末日振込。売上金が店主の手元に届くまで1か月以上のタイムラグがある。
働き方の変化
外出自粛に伴い、多くの会社がテレワークを導入した。しかし中には、電話対応のために必要最低限の人数が勤務を続ける会社もあるようだ。
アイティオール株式会社の「ナイセンクラウド」というサービスは、電話の発着信・内線の取次ぎを、自宅の電話や携帯電話を使って従来通りに行うことができるというもの。アイティオールは、自社でもこのシステムを活用し、テレワークを行っているという。
もう一つ、テレワークに必須なのが、ペーパーレス化だ。いつでもどこでもインターネットを通じて書類にアクセス出きれば効率化・コスト削減・環境負荷の軽減などの利点がある。一方で、データ改ざんの可能性が指摘されてきた。
テレワークの導入が急がれる今、GMOグローバルサイン株式会社は、この課題に対して「電子署名ソリューション」の推進を行っている。電子文書に電子署名を付すことで「いつ」「誰が」作成した文書であるかを明確にし、作成者のなりすましや文書改ざんを検知する仕組みだ。電子文書の信頼性を守って安全に管理できるシステムを提供して、ペーパーレス化を促進する。
出典) Pexels
一方、テレワークを導入できない業種もある。稼働をとめることのできない工場などでは、感染対策が急務だ。
映像解析AIプラットフォーム「SCORER」を提供する「フューチャースタンダード」は、「SCORER 感染症対策ソリューション」を開発し、サービスを提供している。従業員の体温、手洗い・消毒、部屋の換気状態、人の密集度を検知・記録するサービスだ。製造業ではこうしたシステムの採用が増えそうだ。
サーモグラフィーカメラメーカーの日本アビオニクスと組んで開発した検温記録サービス。顔認証技術とサーモグラフィーを用いて発熱者をいち早く感知できる。
出典) フューチャースタンダード
一過性ではない社会変革を
ハーバード大学の研究グループは4月14日、新型コロナウイルス感染症拡大に関する将来予測を、科学誌サイエンスに発表した。それによれば、救急医療体制がより整備されたり効果的な治療法が開発されたりしない限り、外出規制などの措置は2022年まで長期的または断続的に行う必要があるという。感染拡大や外出規制に伴う不便は、長期にわたって続くとみられる。
*外出規制の期間:A:4週間, B:8週間, C:12週間, D:20週間, E:無期限
外出規制を一度だけ行って解除すると、感染症の流行がぶり返すことがわかる。
出典) Stephen M. Kissler, Christine Tedijanto, Edward Goldstein, Yonatan H. Grad, Marc Lipsitch ”Projecting the transmission dynamics of SARS-CoV-2 through the postpandemic period” Science
今回紹介したような新サービスは、新型コロナウイルス感染症に伴う社会課題を解決するだけでなく、より大きな社会変容を促す可能性を含んでいる。
例えば、触れずに操作できるセンサー式のボタンや映像解析による衛生管理システムは、新型コロナウイルスに限らず多くの感染症リスクに対応するだろう。テレワーク環境の整備は、働き方改革に資するものだ。「置き配」は、急な外出や手の離せない用事などで荷物を受け取れない、再配達には手間とコストがかかる、といった従前よりの悩みをも解決する。
新型コロナウイルス感染症終息後をも見据えた新ビジネスの登場や、一過性ではない社会変革に今後も期待が高まる。
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