写真) JERA川崎火力発電所
提供) JERA
- まとめ
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- 新型コロナウイルス感染拡大で、インフラ産業が対応に追われる。
- 電力事業者は、医療機関や企業、家庭への電力安定供給に取り組んでいる。
- 今後も事業継続性の為の対策に力を入れていくことになろう。
新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が止まらない。あらゆる経済活動に影響が出始めている。そしてわが国でも4月7日に出た緊急事態宣言で、多くの企業が社員の安全の確保と、事業を如何に継続していくか、様々な対策に追われている。
特にインフラ産業、すなわち、公共交通機関や電力・ガス・下水道事業者などは、その公共性から事業を止めることはできない。
電力事業者は、電力の安定供給が至上命題だ。新型コロナウイルス感染症の患者を収容している医療機関への電力供給が途絶えたら、人工呼吸器が使えなくなり、重症患者の命が守られなくなってしまう。
また、今や多くの人がリモートワークをしており、一般家庭への停電も各企業の業務に多大な影響を及ぼす。何があっても電気を止めるわけにはいかないのだ。
特に、万一発電施設で働く従業員の中に、感染者が出たら、電力供給に多大な影響が出てしまう。そうしたことから、電力事業者は対策に全力を挙げている。
東京電力グループと中部電力の火力発電事業を統合したJERA(ジェラ)の取り組みを見てみよう。
同社は、「感染予防・感染拡大防止対策」と「感染拡大後の事業継続対策」に分けて対策を取っている。(注1) まずは、感染の予防と拡大防止であり、もし感染者が出た場合、同事業を継続していくのか、2段階で対策を立てているのだ。
まず、「感染予防・感染拡大防止対策」として、発電所の中枢である、「中央制御室」で働く社員に対して、可能な限り他人との接触を避けるため、以下のような方策が取られている。
・ 中央制御室への入室規制
・ 当直要員に対し自家用車の利用を推奨
・ 当直要員を保護すべく食事等の専用スペースを確保
・ 日勤者は可能な限り執務スペースを分割する等の対応を検討
それでも感染者が出た場合は、「感染拡大後の事業継続対策」として、
・ 当直要員が感染した場合、感染者が所属する当該班は在宅勤務へ移行
・ 現場業務のための出勤者を必要最小限とし、その他は在宅勤務
・ 感染者が発生した執務スペースを分離し、作業を継続
・ 作業継続が困難な場合はユニット単位で原則2週間業務を中断
などを行うとしている。
次に、中部電力グループの取り組みを見てみよう。同グループは4月8日以降、社内において感染者が発生した場合、24時間の交替勤務体制を敷く「中央給電指令所」や「基幹給電制御所」に予備班(注2)を設置するなど、すべての職場において在宅勤務を最大限活用することなどを通じて、有事の際のバックアップ要員を確保し、安定供給に万全を期す体制を整えている。
まさしく、フェイルセーフ(安全性確保のために2重、3重の対策をほどこすこと)の思想である。
余談になるが、筆者がかつて勤務していた放送局も、国民に情報を知らせる重要なインフラ産業であることから、災害時に万が一東京キー局からの放送が出来なくなった場合、どのローカル局から全国に放送を発出するか決まっていた。さらに2番目のローカル局も被災したなら、3番目の局から、といった具合だ。
新型コロナウイルスの感染は年が明けてから急速に世界レベルで拡大し、今すべての企業がその対応に追われている。しかし、感染症といえば過去にもSARS(重症急性呼吸器症候群)やMARS(中東呼吸器症候群)などもあった。目に見えないウイルスとの戦いは今後も続くことが考えられる。
事業継続性の観点から、電力事業者はじめインフラ関連企業は、今まで以上に対策に力を入れることになりそうだ。その為には、ICTの活用はもとより、働き方の改革も重要になってくるだろう。
- JERA「新型コロナウイルス感染拡大による電力の安定供給支障リスクへの対策」
「感染予防・感染拡大防止対策」
発電所・運転支障
・中央制御室への入室規制
・当直要員に対し自家用車の利用を推奨
・当直要員を保護すべく食事等の専用スペースを確保
・日勤者は可能な限り執務スペースを分割する等の対応を検討
本社・支社機能支障
・時差出勤、テレワークの推奨
・経営会議等主要な会議をWEB形式に移行
工事部品供給支障
・工期・納期への影響につき全取引先との情報共有の実施
燃料調達支障
・世界中のLNG・石炭の生産設備や受入基地の状況、市場 動向の把握
・燃料受入に際し、LNG船と基地関係者の直接の接触を極力避ける荷役方法 (非接触型荷役)を準備済み
「感染拡大後の事業継続対策」
発電所・運転支障
・当直要員が感染した場合、感染者が所属する当該班は在宅勤務へ移行
・現場業務のための出勤者を必要最小限とし、その他は在宅勤務
・感染者が発生した執務スペースを分離し、作業を継続
・作業継続が困難な場合はユニット単位で原則2週間業務を中断
本社・支社機能支障
・感染者発生フロアを閉鎖し、テレワークと最低限の出社業務の体制へ移行
・本社・支社の建物が利用できなくなった場合は、代替勤務場所での最低限の出社業務体制へ移行
工事部品供給支障
・工事の延期・中止を検討 (法定工事等は所管官庁と調整)
燃料調達支障
・把握した情報に基づき代替調達を実施
・燃料受入業務は非接触型荷役へ移行 - 予備班
電力需要に合わせて発電量の調整などを行う「中央給電指令所」、送変電設備の監視・運転などを行う「基幹給電制御所」では、通常、昼夜2交替勤務を5班体制で運営しているが、そのうち1班を予備班として在宅勤務を指示。(中部電力HPより)
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