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グローバル・エネルギー・ウォッチ

Vol.21 米大統領選 どうなるエネルギー政策

写真)
出典) flickr : U.S. Department of Energy

まとめ
  • 11月の米大統領選に向け、民主党の候補者選びが進行中。
  • バイデン候補とサンダース候補ともに、2050年迄に100%再エネに転換を目指している。
  • 米国のエネルギー政策に関わらず、日本はエネルギー安全保障を確固たるものにすべき。

大統領選を2020年11月3日に控えるアメリカ。今まさに新型コロナウイルスの猛威にさらされている。そうした中、トランプ大統領の対立候補となりうる民主党の候補者選びが進行中だ。現在はジョー・バイデン候補(前副大統領)とバーニ-・サンダース候補(上院議員)が激しく競っている。この有力候補の2人は、どのようなエネルギー政策を持っているのか調べてみた。

トランプのエネルギー政策

まずは、トランプ政権下でのエネルギー政策を復習してみよう。

オバマ政権は、地球温暖化対策重視の政策を打ち出しており、再生可能エネルギーにシフトした。国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で、先進国と新興国のすべてが参加する温室効果ガス排出量削減のための新たな枠組みである「パリ協定」が採択された(2015年)のも、オバマ政権時だ。

しかし、反オバマ政権を掲げて当選したトランプ大統領は、燃料不足に陥るという認識は誤りである、との見解を示し、従来通り化石燃料をそのまま使っていく方向へと舵を切った。

写真) トランプ大統領
写真)トランプ大統領

出典) U.S. Air National Guard photo by Dale Greer

40年ぶりに「国家環境政策法」の運用規則を改正し、資源開発やインフラ整備に関する環境規制を大幅緩和した。さらに環境影響の定義を見直し、気候変動を評価対象から除外することで、石油パイプライン敷設や道路建設、港湾整備などに関わる環境影響評価の手続きを簡素化した。石油・天然ガスの生産拡大にも尽力している。

環境保護より経済成長に重きを置いた政策は共和党の伝統的な政策にのっとっている。「エネルギーの自立(Energy Independence)」、すなわちエネルギーの自給率を高め、中東諸国など他国への依存を軽減して、エネルギー安全保障を高めるというのがアメリカのエネルギー政策の優先項目だという。

過去25年間で現在のCO2排出量は最低の水準であり、アメリカはエネルギー生産の世界的リーダーでもある、アメリカの環境政策は経済成長とのバランスを重視しなければならない、と、ホワイトハウスのホームページでも述べられている。

トランプ対抗馬のエネルギー政策

民主党のトランプ対立候補はまだ一本化されていないが、現在ジョー・バイデン氏とバーニー・サンダース氏が激しく競っている。ただ、ことエネルギー政策においては、どちらも環境保護に力を入れていく方針だ。

写真) バーニー・サンダース候補
写真)バーニー・サンダース候補

出典) Jackson Lanier

サンダース氏のエネルギー政策

まず、サンダース氏の政策について見ていく。選挙活動の公式キャンペーンサイトによると、サンダース氏はかなりエネルギー政策に力を入れている。主要公約は以下の通り。

  • エネルギーシステムを100%再生可能エネルギーに変換し、気候危機の解決に必要な2000万人の雇用を創出します。
  • ● 化石燃料労働者を含む地域社会と労働者のための公正な移行を確実にします。
  • ● 最前線のコミュニティ、特にリソースが不足しているグループ、すなわち有色人種のコミュニティ、ネイティブアメリカン、障害を持つ人々、子供、高齢者などの正義を確保します。
  • ● 耐候性、公共交通機関、近代的なインフラストラクチャ、高速ブロードバンドへの投資でアメリカの家族のお金を節約します。
  • ● 「緑の気候基金」への2,000億ドルの提供、パリ協定への復帰、気候変動との世界的な戦いにおけるアメリカのリーダーシップの再表明など、世界中で排出量を削減することを約束します。
  • ● 自然保護区と公有地に投資して、土壌、森林、大草原の土地を保護します。
  • ● 化石燃料産業の貪欲を終わらせ、彼らに責任を持たせます。

気候変動の生み出す負担が不平等に有色人種や貧困層に降りかかっているとの認識から、差別のない、平等な社会の実現という、社会主義的な観点から環境問題を深刻視しているのが顕著である。

サンダース候補が掲げる「グリーン・ニューディール」とは、移民から貿易、外交政策に至るまで、気候変動対策を事実上あらゆる政策分野に織り込む、正義と公平を中心とする10年にわたる全国的な景気刺激策である。

具体的には、2030年までに輸送部門を含むすべてのエネルギーを100%再生可能エネルギー(以下、再エネ)由来に転換することと、遅くとも2050年までに経済を完全に脱炭素化することを目標として掲げている。

また、世界全体の脱炭素化にも貢献するとしている。「緑の気候基金」(注1)への2,000億ドルの提供、「パリ協定」への復帰、気候変動とのグローバルな戦いにおけるアメリカのリーダーシップを取り戻すとしている。

化石燃料等のエネルギー産業への対応としては、補助金を打ち切り大幅に税率を上昇させることで、環境汚染に対するペナルティーを強化する方針だ。それだけではなく、新たな化石燃料インフラの開発へは許可を出さず、化石燃料の輸出入も禁止するとしている。

こうした政策を推し進めれば、当然、化石燃料関連エネルギー産業に従事している人達に影響はあるが、彼らに対する支援もサンダース氏は考えている。

5年間の給与保障や職業訓練、早期退職者へのサポートなどを提供する考えだ。トランプ大統領は環境規制の緩和や石油等の生産を拡大させ、雇用を創出したが、サンダース氏はその真逆の政策をとろうとしている。

こうした政策により、気候危機の解決に必要な2000万人の雇用を創出して失業を終わらせるとしている。また、持続可能なエネルギー、エネルギー効率、および輸送システムの変革に対する大規模な投資をする見通しだ。電気代の引き下げ、公共交通機関、最新のインフラ、高速な通信回線等、環境にいいものを家庭単位で取り入れられることを目指していく。

バイデン氏のエネルギー政策

もう一人の有力候補者として名前が挙がるのは、中道派のバイデン氏だ。バイデン氏の公式キャンペーンサイトによれば、彼の気候変動に対する意識は、環境のみに留まらず、健康、地域社会、国家安全保障、そして経済的幸福にとって実存的な脅威をもたらすものになっており、彼も「グリーンニューディール」を支持している。

写真) ジョー・バイデン候補
写真)ジョー・バイデン候補

出典) バイデン候補公式キャンペーンサイト

その基本政策は:

  • ● アメリカが100%のクリーンエネルギー経済を実現し、2050年までにCO2排出ゼロに達成することを保証する。
  • ● より強固で、よりレジリエントな国を築く。
  • ● 気候変動の脅威に対処するために、世界の他の国を結集する。
  • ● 有色人種のコミュニティと低所得のコミュニティを不当に害する環境汚染者による権力の乱用に立ち向かう。
  • ● 「産業革新とその後の数十年間の経済成長を後押しした労働者とコミュニティに対する義務を果たす。

と、サンダース候補と大きな差はない。

2050年までにCO2排出量実質ゼロを目標に掲げている点はサンダース候補と同じで、2025年、彼の最初の任期の終わりまでに、将来の達成すべき目標を含む執行計画を確立する予定である。毎年5,000億ドルを費やす連邦政府調達制度を利用して、100%クリーンエネルギーとゼロエミッション車(EVやFHV)の普及を推進するとしている。

また、気候変動の研究とイノベーションへの投資を行うことで、気候変動の影響を最も受けやすいコミュニティをはじめ、経済全体にインセンティブを与える方針だ。

サンダース氏と同様、国家を再建し、建物、水、交通、エネルギーのインフラが気候変動の影響に耐えられるようにするための投資を行っていくことを宣言しており、政府から$1.7兆、民間部門と州および地方と合わせて計$5兆用意する。

反対に、石油、ガス、石炭の企業や経営幹部からの寄付を受け付けないと約束しているほか、化石燃料の補助金も終了させると述べている。

そしてこちらもサンダース氏と同様、パリ協定への復帰を宣言しており、他国に対しても環境対策を働きかける姿勢だ。すべての主要国の気候目標への野心を高めるための努力を主導する。

日本への影響

トランプ政権は、パリ協定脱退や、化石燃料の輸出拡大等、エネルギー政策において日本をはじめ世界に影響を及ぼした。

パリ協定脱退は世界各国に衝撃を与えたが、各国はアメリカが戻ってくる可能性を棄てておらず、日本政府も積極的に関与している。そうした中、トランプ政権の化石燃料の輸出拡大への転換は、日本にとってシェールガス由来のLNG輸入という新しいエネルギー調達の道を拓いた。原油の中東依存度が高い我が国にとって、エネルギー調達先の多様化は安全保障上、歓迎すべきことであった。

バイデン候補にしろサンダース候補にしろ、民主党政権が誕生すれば、アメリカのエネルギー政策は、環境重視に一気に方向転換することは間違いない。オーストラリアなど他国はLNG増産に走るだろう。日本もエネルギー調達戦略の変更を迫られそうだ。

一方、アメリカの再エネシフトが加速することは、日本企業に取ってチャンスともいえる。例えば、長距離高速鉄道、ゼロエミッションカー、スマートシティ、高効率蓄電池、等の各産業にとっては追い風になるだろう。

アメリカがパリ協定に戻る事は、地球温暖化防止の観点から歓迎すべき事だが、それによって日本の環境政策が変わるものでもない。アメリカが再エネシフトを強めることは、少なからず日本のエネルギー産業に影響を及ぼすと思うが、アメリカは共和党政権と民主党政権によって政策が大きく変わることを考えると、中長期的に日本の取るべき道は不変であろう。すなわち、着実に再エネの導入と脱炭素への政策を進めることだ。

エネルギー資源が乏しい日本は、アメリカの政策に左右されること無く、中長期的な視点で独自のエネルギー政策を進めていくことが求められている。

  1. 緑の気候基金(Green Climate Fund:GCF)
    開発途上国の温室効果ガス削減(緩和)と気候変動の影響への対処(適応)を支援するため,気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC)に基づく資金供与の制度の運営を委託された基金。2010年に開催された国連気候変動枠組条約第16回締約国会議(COP16)にて設立が決定され,2011年のCOP17で委託機関として指定された。
    (出典:外務省
安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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